『未来』のための頼み事
パウロの体は優秀だ。それは間違いない。
だから、問題があるのは体の方ではなく中身の方なんだろう。
「ふっ!」
槍代わりの、拾った木の枝で放った刺突は、体の性能のおかげで素人槍術ながらなかなかに鋭い一撃に思える。
だがそれは、放った瞬間には『彼女の体を掠めすらしない』と分かってしまっていた。
まるで未来を見るように俺の一撃を苦もなく掻い潜ったシャールは、完全に死に体となった俺の喉元に手にした木の枝の先端をヒタリと当てる。
五戦目にして五度目の完敗に、俺は息を吐いて片手を上げた。
「参った。これは逆立ちしても敵わんなぁ……」
「……」
素直に敗北を認めると、シャールは黙って木の枝を引く。
今までの発言も『パウロ』としてはかなりおかしな感じだったのは自覚しているが、体に染み付いたものはさらに誤魔化せない。
今の俺の動きを見たシャールは流石に何かを察しはじめていたようだった。
ここは街から少し離れた場所にある森の中。
比較的安全な場所らしく、ピクニックでもすれば気持ちが良さそうなロケーションだった。
ここで俺はシャールに軽い手合わせを申し込んだのだが……結果は今の通り、完敗も完敗である。最初から分かってはいたけどね。
原作の中、言葉として出てきただけの設定ではあるが、この時点ではシャールよりパウロの方が強かったはずだ。
だが、全力で闘った俺とは違ってシャールは余力を残していたように見えた。特殊能力も使っていなかったようだし。
彼女が有するのは『帝王時間』という名前の、ネットでも「アウト寄りのアウト」と評されていたスキル。
その能力は『短時間だけ自分以外の時間の流れを遅くする事が出来る』というものだ。能力までパクっていなかったのは幸いです。
対してパウロのスキルは……『英雄への階』という、何ともこっ恥ずかしい名前のスキル……
能力は『得た名声や名誉に応じて身体能力が向上する』というものであり、ゲーム的に言う所の『パッシブスキル』というヤツだ。
『駆け出し』から始まって出世魚の如く名前を変えていき、最終的に『英雄』へと至って最大限の身体強化能力を得る。
だが、パウロはこの時点ですでに『英雄』の位にまで到達していた。つまり、これはすでに伸び代のないスキルなのだ。
まぁだからこそパウロは、どんどん強くなっていくジョウやシャール達若手の存在に焦り、妬み、結局腐っていくんだけど。
「さて……」
共に闘った槍を元の木の枝へと自然に帰し、俺はシャールに苦笑顔を見せる。決して悪意や敵意がないという事を分かってもらうために。
しかし、今のパウロに違和感を覚えたのか、シャールは木の枝を離さず、距離も取ったままだった。
「今の手合わせで流石に色々おかしいと思っただろうけど、良ければ少し話を聞いてもらえないかな?」
「……」
返事はないが、致し方ない事だろう。
俺は肩をすくめ、わざと自虐的な台詞を投げ渡した。
「とりあえず、敵ではないよ。つーかね、『敵にもならない』ってのは今の手合わせで理解してもらえたと思うけど……俺はあんな格好で馬鹿やってキミに説教食らうような、ただの間抜けな男だよ」
「……ふぅ……」
あのアホな醜態を思い出したのか、シャールは警戒を解いて木の枝を地面に放ってくれた。
そして、眉を少し歪めて俺を正面から見る。
「……貴方は……一体『誰』なんですか……?」
やはり彼女もアホちゃんではなかったようだ。
苦笑いで頭を掻き、俺は予定通り彼女にも全てを話す事にした。
◎
麗らかな陽射しの下、大きな木の切り株に、少し距離を開けて座った俺とシャール。
俺の話を一通り聞いたシャールは、セバスさんと同じような表情を浮かべて膝の上で両手を重ねていた。
俺が彼女に語ったのは、ジョウに関わる話以外はセバスさんに語った話とほぼ同じものだ。
だが、これから彼女には一つ、重大な頼み事をするつもりだった。それも恐らく仰天してしまうような頼み事を。
なので俺はまず、彼女がしっかりと落ち着くまで話をする事にした。
「……それで貴方はアクエルの奥にあんな場所があって、あそこにディーネがいることを知っていたんですね……」
「ま、そういうこと。適当なこと言って誤魔化してゴメンなー。あの時点ではまだ、隠せるなら隠したままでいようと思ってたからさ」
大きなため息をつくシャールに、俺は肩を揺らして空を眺める。
雲一つない空の色は、よく知る田舎の空よりもさらに綺麗な色に思えた。
「本当だったらジョウはとっくにパーティーをクビになってて、もうしばらくしてから自力でディーネと出会うはずだったんだ。だけど、俺が勝手にその流れを変えちまった。まぁその……あの時は俺も「これは夢だ」って思ってて、ジョウをクビにするのには納得出来なかったからさ、つい……」
「それについては感謝しかありませんよ。正直嬉しかったです。私以外にも同じように考えてくれている人がいて」
俺の説明に、シャールはわずかに微笑みながら首を横に振る。
だが、普通の人なら皆同じように思う事だ。感謝なんて必要はない。
だから俺はその言葉を軽く笑い飛ばした。
「ははっ!それについては、元々シャールは一人じゃないよ。オーリにキエル、若い連中も、本当はシャールと同じ考えだったんだ。ただ、ね……『パウロ』をはじめとした上位の連中の手前、どうしてもジョウを庇えなかったんだよ。それは分かってあげて」
これについては俺の世界でもよくある話だ。『保身』と断じてしまうのは少々淡白過ぎる、と俺は思っている。
組織の中で上に楯突けば、下の扱いなんて間違いなく悪くなるもんだからね。世知辛い話だけど。
自身の経験談に重ねて嘆息する俺に、シャールは柔らかい微笑を見せてくれた。
「なら、なおさら私は貴方に感謝しなければなりませんね。キエル達の分も」
「よしておくんなさいよ。俺は結局の所、パウロの財布で好き勝手やってる泥棒みたいなもんだ。挙げ句、俺の都合にシャールを巻き込んでさ。まー情けない大人ですよ」
「ふふっ。そんな事ないですよ。あ、でも……下着姿でのあの立ち回りは、確かに少々……」
「ぬぐっ……!今それ言うかね……?」
肩をすくめて「やれやれ」のポーズをしていた所にシャールからの冗談めいたツッコミを食らい、俺はひきつった顔を彼女に向ける。と……
「……ぷっ!あはははははっ!」
シャールはわざと作っていたのであろう難しい表情を崩し、お腹を抱えて笑い出していた。
原作では一切描写される事はなかったその挙動に、俺は一瞬唖然となりながらもついつい釣られて吹き出してしまう。
それからしばし二人で笑い合い、シャールが目の端の涙を拭って息を整えているのを見てから、俺はわずかに表情を引き締めた。
俺が今までのように茶化し気味に話しているのではなく、真剣に話しているのだと伝えるために。
「それで、だな……一つ、シャールに頼みたい事があるんだけど……聞いてもらえるかな?」
「はい?なんでしょうか?」
……正直、これは本当にシャールには頼みにくい話だ。いい大人として恥ずべき事だと自覚している。
だが、現状では……いや、この先他の上位メンバーが戻ってきたとしても、『これ』を任せられるのはシャールくらいだろう。
だから、俺は不思議そうな顔をするシャールに深く頭を下げ、そして言った。
「俺の……『パウロ』の代わりに、《輝く翼》のリーダーになってくれないか?」
「……え、ええっ!?」
似合わない、少女の素っ頓狂な声が森に響き渡る。
その声は、木々の間を抜ける涼やかな風にさらわれていった。
「い、いや!違いますって!久し振りにあんな説教食らったから、ちょっと「及び腰」になってると言いますか……」
「及び腰」=自信、確信のない様。腰を引いて手を突き出している姿。
例「難問を前に及び腰になる」
格好としては合ってるのですがこの場面では「ビビってる」的な意味なので、「逃げ腰」とか「腰が引けてる」みたいな言い方が正しいかと。
( ´∀`)ノ ヒャハー!
散々見直してるんですが、凡ミスはなくなりませんなぁ……
「誤字脱字誤用があって当たり前」
「ミスがないだとっ!?コイツは〇〇じゃねぇ!」
と思わせるまでファンを調教したネ申作家様達を見習いましょうか?
二日連続のハード筋トレに老体バッキバキですわい……
アッシがあちらこちらの筋肉に名前つけて語り合うような人間になったらオマイらのせいだからねっ!(逆恨み)
今回はよくある、間違いやすい誤字でーす。
( ゜_⊃゜)
 




