第一章 遭遇 ⑧
俺を見る太一の目がすうっと細くなる。
「…やっぱり信じられねーよな…つーか、引かれた…!?」
「いやいや、やっぱりお前面白いわ。うんうん」
「まさかの哀れみの目で見られたよ!チクショーウ!」
ウガァー!と、叫びつつ髪をガシャガシャとかき乱す俺。
そんな俺を何も言わずに太一は眺めている。(…または、哀れんでいる。)
「…あ、そういえば、さ」
俺は、『あの事』を聞くことにした。
「昨日の俺の誕生日会のこと、何があった?俺、なぜか全く覚えてなくってさ」
「…………………へぇ…そうなのか……」
(…あれ?)
俺はこの時、違和感を覚えた。
今の太一の受け答え。
決してふざけて答えたわけではないのだろうが、さらりと。
本当に、さらりと。
(まるで、元から俺が誕生日会のことを覚えていないのを知っているような口振りだった……?)
「…いや、誕生日会は…特に何も起こらなかったがな」
太一の声に、俺は意識を戻した。
「…そ、そう、か…何も…なかった…か」
(…そんなはずはない)
俺は直感的に理解した。
(…太一は、何かを知っている。そして、それを隠しているっ…)
「どうした、金剛?」
太一が顔をのぞき込んできた。
「あっ、いや、なんでも、ない…」
「そっか」
太一は、いつも教室でやるようにニカッと笑った。
それは、紛れもなく、いつもの近藤太一。
(……まぁ、いっか。別に気にすることでもねぇよな)
「なあ、金剛。1つ俺も聞きたいことがあるんだがよ」
「なんだ?」
「さっきお前が言っていた女の子は、まだお前んちにいるのか?」
「いや…どうだろう?俺を追いかけてるかもしれない」
「…そっか」
なんで、そんなことを?と、質問する前に、先に太一が口を開いた。
「じゃあ…今が『心臓』をいただく大チャンスってわけだ。」
太一が笑い、犬歯がギラリと光った。