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その村は危機に瀕していた。
「はーっはっはっは! 食い物をよこせ!!」
東の森に住む巨人の被害は確実に増していた。
「オレを捕まえられるもんなら捕まえてみろ! そしたら何でも言うことをきいてやる!!」
「このままじゃ村が滅んじまう」
「あの巨人が住み着いてもう三月か……」
「我々が食べるのもやっとの状況だ」
村では人々が顔を付き合わせていた。
「西の森の魔術師に頼んではどうだろうか?」
「あの者に頼むのは気が引けるがそうも言ってられまい」
かくて巨人は魔術師の手に委ねられた。
「それで私のところに来たというわけか」
西の森の魔術師は机の上に腰掛けていた。背丈が人の半分程しかない彼が椅子に座った村人と話すにはこのぐらいが丁度いいのだ。
「あんたに頼むのが筋違いなのは分かっている。だけどもうどうしようもないんだ!」
そう言って村人達は頭を下げた。魔術師は思案するかのように目を閉じた。
「よかろう。その巨人のことは何とかしてみせよう」
帰っていく村人達を窓から見送って、魔術師は呟いた。
「捕まえる、ね……」
東の森のさらに奥。巨人は洞窟の中にいた。
「これだけあればしばらくは持つな」
焚き火の傍らには昼間、村から奪ってきた食料が積まれていた。
「オレが来ただけで村のやつらびびりやがって」
その声に応える者はいない。
「ほんっと、弱っちいやつら」
呟きが暗闇に吸い込まれていく。
「おかげで……こんな……一人じゃ食べきれないだろうが……」
巨人の体は震え始めていた。
巨人はいつも一人だった。気付いたら自分以外に大きい者はなく、その大きさからどこに行っても人々に恐れられる存在だった。
巨人の足元に水滴の跡が広がった。




