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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
5th Deduct 忌輪一絡げ

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霧の中の告白

 俺達が乗った電車は異界に繋がっていた。それだけでも理解に苦しむ状況だがいつの間に後部車両に人が居たのだろう。あの時の電車は真夜中の最終電車で俺達以外に乗客は居なかった。だから平然と村の外にも拘らず時代錯誤な恰好をする千夜さんを連れ出せたというか……お陰で思考回路的には一旦家に帰って彼女の諸々については後で考え直そうと思っていたのだ。全て明衣の悪戯で無に帰したが。

 異界に到着して眠る事になった時、後部車両に人は存在したのだろうか。もし存在したなら俺達を訪ねている筈では? 警戒して開けなかったとして……明衣以外の誰も存在に気づかなかったとするのは不自然だ。

 イカサマ探偵が扉を開けると、数人の学生と恋人らしき二人組が座席で眠っていた。当然だが誰も電車で一夜を明かす経験などなく、その眠り方は呆れる程不自然だった。熟睡は元より仮眠すら怪しい。俺も体中が痛いのであまり人の事は悪く言えない。

「こいつらは前から居たのか……? 」

「こいつらなんて言い方しないのっ。生きてる人間だよ?」

 学生は確かに制服を着ているが、俺の知る限り近所の学校のどこでもない柄だ。それに制服を着ているなら深夜の電車に乗るのは奇妙だ。近頃は不審者の増加などもあってあまり夜分遅くまで外出しない様にと自治体から通達が出ている。すると警察に補導されたくない学生は夜遊びの為なら制服くらい当然の様に脱ぐし、大人にみられるような変装だってする。これは……夜に悪いと知って遊びに行っていたにしては律儀すぎる。

 明衣は前から気づいていたそうだから除外するとして、こんな事で疑問を持っているのは俺だけだ。千夜さんは村の外を何も知らない。ただ気まずそうに後ろで欠伸を手で隠しているだけだ。触れるのも何だか気まずくて暫く様子を見ていると、学生の一人が不意に目を覚ました。

「…………ん? あれ? え? え?」

 気弱そうな男子は起きるや否や周囲を見回し、ここが車内と知るや今度は俺達を見つめ───最後に自分の連れを起こした。上手く事態が呑み込めないのだろう、別にこの場の誰も事態は呑み込めていないと思うが。

 彼の健闘もあって全員が目を覚ましたが、果たしてその反応は様々だった? 


「でっっっっかっ!」

 そう言って明衣に釘付けになる男子も居れば。


「お、お化け?」

 死に装束を見てか千夜さんを警戒する女子も居る。

 

「神様…………!」

 目を輝かせる男子も居れば。


「か、か、か……」

 良く分からないが俺を見て言葉に詰まる女子も居る。


「れ、レイ君。ここ、何処? 終電?」

「いや、あ、朝? ケイコちゃん大丈夫、大丈夫だからね!」


 恋人らしき二人組は学生が騒いだせいで起きた。二人は私服なので社会的立場を察せられる情報は皆無だ。強いて言えば男性の方が靴がびしょびしょに濡れている事だ。ぬかるみを踏んだのか靴底には泥が付着している。とりあえずこれで全員とは顔を合わせたが。

「はーい、皆さん! ちゅうもーく! みんなここが何処か分からないみたいだね? 大丈夫、誰も分からないから安心してっ! 私達は同じ電車に乗ってただけの縁だけど今は一蓮托生! おかしな場所にきちゃったんだもん!」

「あ、貴方は……?」

「私は超探偵学園の彩霧明衣! 知っての通りの名探偵!」

「地獄に落ちろ高校の間違いだろ。お前みたいな奴は閻魔帳の一ページ目に書かれてるべきだ。皆さん、こいつの発言は気にしないで下さい。俺達は才鳴高校の学生です。後ろの人は……友達です」

「非時千夜と申します。まだまだ外の事には疎くご迷惑をかける事もありますが───」

「あー千夜さん、そんな堅苦しい挨拶は大丈夫です。まだそんな感じじゃないし」

「この子は郷矢乃絃君ね! 私の愛すべき助手でーすっ。実は私達もこの電車で家に帰る所だったんだけど、気が付いたらこんな事になってたの! ね、ね、誰か知ってる? どうしてこうなったか知ってる人は?」

 挙がる手もなければ声もない。それは明衣を警戒しての沈黙ではなくこの場所に対する困惑の方が強そうだ。恐怖とまではいかない、まだ怖い事は起きていないし特に被害も出ていないから。

「誰も知らないみたいだねっ」

「知ってたらこんなに全員動揺してないだろ。それで、誰か携帯は確認しましたか?」

 これで確認している人間が居たらむしろ恐ろしかったがそれも挙がる手はない。俺に言われて確認する人間も居るくらいだ。結果は勿論、ついさっきの俺と同じだろう。電波が繋がっていない癖に出鱈目な時間帯が表示される。二人組の方は錯乱してあちこち電話をかけまくったが全て繋がった。

「もしもし!? もしもし!? 警察ですか!?」

「ねえお母さん! 聞こえる!? 実はさ───ねえ!」

 繋がっただけだ。電話の向こうに相手が居た事はただの一度もなく、やがて二人は勝手に怖がって電話を切ってしまった。一連の流れを見て自分も試そうという物好きは明衣しかいない。大袈裟な手振りで携帯を確認すると、出鱈目な時間を表示する液晶をこちらに見せてから嘘泣きをした。

「うわあああ! 時間が滅茶苦茶! どうなってんの!? うえーん!」

「うざいからやめろ、くっつくな、大体お前は驚く側の人間じゃないだろうが」

「つれないなー助手は。でも誰だって助けを求められないのは本当だし、これからどうする? 流石にリーダーとか必要だよね? やっぱりリーダーに求められる資質ってどんな状況でもどうじむぐぅ───っ」

「だぁまぁれぇ!」

 俺に腕力が合ったら口を抑えたまま片手で明衣を持ち上げているところだ。鬱陶しい騒音を排除したら、次は同じ問いを繰り返すだけだ。

「皆さんどうしますか? 助けが呼べないのは本当ですけど、このまま中に居ます?」

「あ、あのその子、友達じゃないのか? なんか痛そうで……」

「え、あれ喜んでるように見えるぞ。マゾなんだろ?」

「話をややこしくする奴は黙らせるのが最近の流行なので気にしないで下さい。俺達は家に帰りたいので、ちょっと電車を降りて外の様子を見に行ってきます。皆さんの行動についてはお任せしますが、お互い助かる方法が分かったり救助を呼べたならここに戻ってきてくれませんか? 霧が深くて外の様子が全く分からない以上、目立つのはこの電車だけですし」



「はいはい! 分かりました! 従います!」



 俺の顔を見て言葉を詰まらせていた女子が突然活気づいて手を挙げた。それから役立たずの携帯を取り出すと、俺に向かって差し出してくる。

「あの、あのあの。連絡先交換しましょう。こ、これも何かの縁ですから!」

「……追加、出来るんですかね」

 明衣から手を離し、俺も自身の携帯を確認した。あまり連絡先を増やしたくない(鬼姫さんもそうだが明衣に狙われかねない被害者は減らしておきたいのだ)けれど今は緊急時だ。仕方ない。

「そ、それと……ため口でいいかな? 高校は違うけど、同い年くらいでしょ!?」

「あ、ああ……まあいいけど」





















「流石は助手、やり手だねっ」

「人との交流をお前に任せると何が起きるか分からないからな」

 相手が子供だったら話は別だ。明衣はやたら好かれるし、対応も優しい。それで矛先が向けられないかと言われたらまた別の話だと思うが、俺は自分でもそこまで子供に好かれるとは思っていないので、相手が小学生だったらこいつに任せるしかなかった。

 彼等と連絡先を交換したお陰で学生組の名前が分かったのは収穫だ。俺にこれを提案してきた女子は冴子、明衣を神様呼びしてた男子が薫流(かおる)、胸と腰ばっか見てた男子が(明衣にメロメロな時点で生きるセンスがない)が倉斗(くらと)、千夜さんをお化け呼ばわりした女子が花果(はなか)。

 全員から聞き出した訳じゃないが冴子がまとめて教えてくれた。実に親切な反面、ちょっと警戒心が薄いのが心配だ。明衣に付け込まれたらと思うと……

「この装束は目を引くのでしょうか」

「はい?」

「電車の方から視線を感じますので……」

 言われて振り返ると、後部車両に居た人間は全員待機を選んだらしい。一部は窓に張り付いて無理やり降車した俺達の様子を窺っている。同じ車両に居た者同士で俺達を評価していたり、なんて。別にどう思われても俺は構わないが、頼むからエコーチェンバー的に明衣の評価を上げないでほしいと願うばかりだ。

「死に装束はまあ、一般的な着方じゃないですからね。そういうややこしさも含めて本来はまず家に帰って服を用意してあげたかったんですけど……明衣、これからどうするんだ?」

「え? 私に主導権を譲るの?」

「さっき言わないでやったんだぞ。お前だけは狙ってここに来たって事。つまり目的地も分かる筈だ、案内しろよ」

「それは違うよ助手! 何か起きるのは分かってたけど私もここが何処か分からないからっ。未必の故意みたいな? あれ、密室の恋だっけ?」

「てめえを殺して密室殺人にしてやるからな」

 明衣は悪戯っぽく微笑むと、「お返し」と言って軽く俺の額を指関節で小突く。何に対してのお返しかは不明のまま、報復は終わったらしい。

「とにかく! 私はデスゲームの管理人じゃありません! でもでも……うふふ、助手が私を立ててくれるなんて珍しいな♪ それじゃ、千夜ちゃんもついてきてね!」




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