冒険者学校のほのぼのとしたお昼1
そして、説明しようとする王妃まで扉を開ける度に驚愕していた。
校舎と寮の説明をし終えると、昼頃となったので俺達は休憩を取ることにした。
それにしても、なぜあんな得体が知れない者がここに来ていたんだ?
この世界は、女神サラが管理しているのでは無いのか?
ユグドラシルから『心情』が伝わって来る。
『「私が、世界の聖霊達に力を求めたときに聖霊達の心情が少し流れ込んできたのですが、どうやら各地で魔の者が何かを探しているようです」』
『「何か? もしかして、澱みの魔石に関する事?」』
『「いえ、澱みの魔石に関することは不明です。ですが恐らく、各地で魔の者が暗躍を企んでいるのは確かです。それに、最南の大陸であるこの最南東の地は不可侵と聞き及んでいたのですが……』」
魔の者と言えば、俺の知る所で言えば魔王だ。
魔王と言えば、勇者が……えっ? もしかして俺が勇者を誕生させたから?
『「いえ、勇者は必ず、最東の大陸にある最西の地、最西の大陸にある最東の地、最北の大陸にある最南の地、そして巨大な中央大陸にある最北の地――それぞれにある転生陣から、異世界より転生し赤子として生まれてきます。ですので、この世界の者であるスミレ様はリリー様の使徒でありこの世界の勇者とは別の存在です」』
とユグドラシルから心情が伝わってきた。
俺は借りている身体を返すまでは平和な日常を送りたいのであって、ぶっ飛んだ世界で暮らしたいわけではない。
それに、二年すれば自身の身体に戻り元の世界に戻れる筈なのだ。
そういう約束を、女神サラとしたのだから。
しかし、思い返せばこの世界に……身体は違うが二ヶ月も経っていないのに転移して来て様々な事が起こった。
一体この世界に何が起こっているんだ。
勘考していると、教室に着いた。
二階の一番端の教室に、カトレア先生と五名の生徒である、エレモフィラ、アザレア、バレリアン、ルビナス、ブルメリアを案内する。
辛気臭い事を勘考するより、お昼ご飯を食べて気持ちを切り替えよう。
「皆、こっちこっちぃ。好きな席に座ってね。カトレア先生は、そこの大きな席ですよ」
生徒の皆はそれぞれの席に着くと、驚くように感想を述べる。
「これは……侯爵家である俺の屋敷にある、どの椅子よりも気持ちが良い」
エレモフィラ君が驚愕し、椅子や机を食い入る様に見ていた。
「えっ? 何て居心地が良いのかしら。私、包み込まれているような安心感がある椅子、初めてですわ」
アザレアちゃんは、両手を頬に当てて恍惚していた。
「凄い……見た目だけでなく、座り心地も良い。こんな素晴らしい家具なんて見たことがないよ」
バレリアン君が、愛おしむ様に椅子の背に頬を当てていた。
「何を、そんなに驚いている? これ位の家具、俺様の……」
ルビナス君が、椅子に腰をかけた途端に言葉を失った。
「リリーちゃん……私の様な冒険者が、このような贅沢なお椅子様に腰掛けても良いのでしょうか?」
ブルメリアちゃんが、いつもは凜としているのに落ち着かない様子で小声で尋ねてきた。
今日の服は天狐八尾狐のロリ服セット(多彩色)なので、ケモミミ尻尾が付いている。
だからだとは思うけれど、ブルメリアちゃんは素の可愛い表情を見せている。
凜としていないブルメリアちゃん凄く可愛い。
「皆、好きなように寛いでね。ブルメリアちゃんも、気にせずに座って座って」
俺が椅子をポムポム触って示すと、ブルメリアちゃんが座り恍惚とした表情に変わった。
どうやら、ブルメリアちゃん座り心地がかなり気に入ったようだ。
そういう俺も説明の時に腰を落としてもらったので、どさくさにまぎれてブルメリアちゃんのクマミミに触ったのだけれど……もう最高の一言だった。
俺が皆に机や椅子の説明をしていると、カトレア先生は未だに席に着いていなかった。
「先生、何呆けているんですか? 先生も席に着いて下さい。私が説明するので」
「えっ? ……ええ」
カトレア先生は、まだ呆けている。
夢見る少女じゃないんだから、そろそろ現実に戻ってきて欲しい。
なので、俺はカトレア先生の目を覚ますために思いついたことを実行に移すことにした。
少しカトレア先生への、悪戯心を込めて――
皆の昼食にと、教室の説明をしながら俺は予めスキルでサンドイッチを作成していた。
カトレア先生には、お弁当にと持たせているサンドイッチもあるが今は持っていなさそうだ。
なので、俺はその豪華なサンドイッチの数々をカトレア先生の大きな机の上に次々と出していく。
更に、飲み物のミルクティーや果汁ジュースも数点出していった。
王様達は人数が多いので、今は食堂にスミレちゃんと一緒に待機して貰っている。
なので、王様達の分も今から食堂に行って用意する予定だ。
カトレア先生には、俺が戻って来るまでここで待機してもらい皆のことを任せる事にする。
「みんなー! カトレア先生の机の上に、先生が皆の為に心を込めて作ってくれた昼食が有るよ。これを食べて、私が戻って来るまで先生と一緒に待っててね」
俺の説明に、エレモフィラ君、アザレアちゃん、バレリアン君、ルビナス君、ブルメリアちゃんがそれぞれ返事をする。
「了解。先生の手作りかー」
「分かりましたわ。先生って料理もできるのね」
「うん。美女の料理……ジュルッ」
「おう。ほー、お手並み拝見だな」
「リリーちゃん、了解です。カトレア先生、ありがとうございます」
不意に、先生が俺の袖を引っ張ってきた。
そして、か細い声で……
「ちょっ、ちょっとリリーちゃん? 私、こんな凄い料理なんて作れないわよ」
「まあ、まあ、カトレア先生。また今度、作り方教えますので。それに、皆の美味しそうに食べる表情が、教師冥利に尽きるでしょ」
「リリーちゃん、教師冥利になんて尽きるわけないでしょ。だって、私作ってないもん」
「そんな事より、私は王様達を待たせているので後は任せましたよ」
「そんな事よりって。もう、リリーちゃん酷いわ。後で絶対に、あの料理の作り方教えてね。私、信じてるから」
俺は先生を宥めて、一階の食堂に行こうとしていると二階の窓から何かを探しているライムお姉さんが見えた。
「ライムお姉さーん」
二階の窓から手を振ると、ライムお姉さんは笑顔で手を振り返す。
「リリーちゃーん、どこから入ったらいいのー?」
「私の左手側にぃ、校舎に沿ってぇ、進んで下さーい。一階の校舎入り口がぁ、見えますからー。一階の校舎入り口にぃ、警備ゴーレムが居ますのでぇ、そこで待ってて下さーい」
「はーい。リリーちゃーん、一階の校舎入り口でぇ、待っているわねー」
二階の窓から一通りライムお姉さんに伝えた後、思い出した。
「ライムお姉さんを指定して、信者間テレパシー使ったらよかったやん……」
特定の絆と信仰心の強い信者に対して、送受信のテレパシーを能力が上がったことで使えるようになっていた事を忘れていたのだ。
毎日のように合うキノットさん夫妻に、緊急でもないのに使う機会がないので仕方がないよね。
一階校舎の入り口に行くと、ライムお姉さんと数名の料理人と見覚えがある男性が見えた。
ライムお姉さんが、俺の元へ駆け寄る。
「やっと見つけたわ。リリーちゃん、王国料理長さん達がホテルに訪ねて来たからここに案内したわよ」
「ライムお姉さんありがと」
俺がライムお姉さんにお礼を伝えると、王国料理長が一歩前に出る。
「リリー様、お久しぶりで御座います。本日は王命により、昼食の用意を承りました。ですが、冒険者学校の入口が分からず途方に暮れておりました。途方に暮れてホテル前に行った所、毎日味の研究をさせて頂いているキノット婦人に邂逅しましてな。ここまで、案内してもらった次第です」
俺は、王国料理長達にカーテシーをして笑顔を向ける。
「冒険者学校新校舎に、ようこそ」
俺は丁度良いタイミングだと思い、ライムお姉さんに尋ねてみる。
「ライムお姉さん、もし手が空いてるなら少し手伝ってもらっても良いかな?」
「ええ、良いわよ。休憩の序でに、料理長さんを連れてきたのだもの」
「休憩なのに、ライムお姉さんいいの?」
「そんなこと、リリーちゃんは気にしなくて良いの」
俺はライムお姉さんと王国料理長達を案内して、大きな食堂にやって来た。
ライムお姉さんもキノットさんと同じく、俺が今まで作った料理以外にも様々な料理のレシピを伝授した。
伝授した事で、ライムお姉さんも今では王国料理長すら知らない様々な料理が美味しく作る事が出来る。
それだけではなく、ここの調理場の使い勝手はホテルで全部知っているので手際も良い。
ライムお姉さんが手際よく護衛騎士達の料理を、俺が出した具材で作っていく。
そして、料理長達が使い勝手の分からない調理場でサポートをする。
俺からすれば、手際のよいライムお姉さんが総料理長に見えてくるから何とも奇妙な関係だ。
護衛騎士達の料理を、ライムお姉さんと料理長達に任せることにした。
俺は王と王妃それにスミレちゃんに、ハイオークの肉料理を使ったフルコース料理を作る。
そして肉料理に合う葡萄酒を作り、王と王妃に振る舞う。
多めに作った肉料理の幾つかをアイテムボックスに収納しつつ自身でも食事を取った。
王が肉料理を一口食べて、目を見開き感想を述べる。
「リリーちゃん、このオークの肉は通常のオーク肉ではないな」
「王様、仰る通りです」
「うむ。だがこんな高級食材は、以前リリーちゃんと初めて会った時に、第三王女専属騎士団隊長バジルが持って帰って来た一体のみだ。あの時は美味すぎて、バジルに褒美を授けた位だからな。そして今日の料理は、以前食べたハイオークの料理を遥かに凌駕する美味しさだ」
「王様、勿体ないお言葉です」
「しかし、このような料理はもう二度と食べられないと思っていたからな。リリーちゃんには驚かされてばかりだ。今までの功績と新校舎の分も含めて爵位と褒美を出そうと思ったのだが……。王族議会で王の私より高貴な存在で有るリリーちゃんに爵位を渡す等、恐れ多いと言う事にもなってな……。何を渡せば良いか、皆目見当もつかないのだ。故に、もし何か困った事が有れば、何時でも気兼ねなく言ってくれ。城にも、いつ来ても構わんからな」
「王様、有難う御座います」
俺は自身の食事が終わると、王達の料理の食べ具合を見つつライムお姉さん達を手伝う。
そして、王達のスイーツとして濃厚チーズケーキや蕩けるプリンも新たに加えて出していった。
王妃が一口食べて、蕩ける笑顔を向けてきた。
「リリーちゃん、良い香りのするシットリとして濃厚な味わいがたまらないケーキとプルプルして滑らかな舌触りの蕩ける食感の凄く美味しいこれは何ですか? 食べた事が無い新触感と味なのだけれど……美味しくて、私食べすぎてしまうわ」
王妃の感想にスミレちゃんも同意する。
「リリーちゃん、私も食べ過ぎちゃうよ」
スミレちゃんの感想に王までもが同意する。
「うむ、これは美味すぎるな。葡萄酒にもよく合って、食が進むぞ」
「こちらのケーキは濃厚チーズケーキで、こちらは蕩けるプリンと言います。お気に召されて良かったです」
王妃がスミレちゃんの所に行って、顔を近づけて何やら話していた。
「ねえ、パープ……じゃなかった。スミレ、貴女リリーちゃんに名前を貰ってスミレと改名したのは知っているわ。けれど、リリーちゃんの家で暮らして毎日こんなにも美味しい物を食べているの?」
「いえ、このデザートは今日初めてです。でも、毎日城で食べていた物と比べ物にならない数々の美味しい料理は食べています。ですので、リリーちゃんの使徒となって私凄く幸せです」
「スミレが羨ましいわ。王も私も最近公務で忙しくて、キノットさんのホテルにも行けないのよ。私もリリーちゃんのママになって、ホワイトバイトレットと一緒にリリーちゃんの家で暮らそうかしら?」
「え? お母様それはちょっと……」
「冗談よ! でも、今度リリーちゃんに城にまた来てもらう様に、スミレから頼んで貰えるかしら?」
「はい、お母様。リリーちゃん達と近いうちに城に伺いますので」
「スミレ、頼んだわよ」
スミレちゃんが何やら王妃と密約じみた事を話してる。
まあ、それは良いだろう今度スミレちゃんに聞けばいい。
ライムお姉さんと料理長の手伝いもあり、騎士達全員の料理も作り終えて食事も滞りなく終わる事が出来た。
宰相が王と王妃に小声で呟いている。
「王様、王妃様、そろそろ公務に戻る約束の時間です」
宰相は先ほどまで倒れていたが、回復ポーションを飲ませると息を吹き返すように元気になった。
「うむ、致し方ないな。だが、今日は時間が過ぎるのがやけに早い気がした」
「え? 宰相、もう時間なの?」
「恐れながら、時間はとおに過ぎております」
王と王妃は宰相に公務の事を言われ、護衛騎士団を連れて渋々戻る事となった。
俺は王妃にホワイトバイオレット王女の為に、お土産として濃厚チーズケーキと蕩けるプリンを渡した。
そして、王と王子といつも迷惑をかけている宰相に、葡萄酒を渡した。
更に、王に頼んで見つけて貰ったお米で日本酒を作りお土産として渡した。
「リリーちゃん、いつも済まぬな」
「王様、勿体なきお言葉です」
「沢山のお土産ありがとう。リリーちゃんならいつ来ても私達皆歓迎するから、また近いうちに城に遊びに来てね」
「はい王妃様。近いうちにスミレちゃんと皆で城にお伺いに参ります」
王と王妃が俺に手を振り、宰相と護衛騎士団達は全員俺に90度腰を曲げてお礼の言葉を告げて城に帰還した。
「スミレちゃん、宰相さん大丈夫かな?」
「リリーちゃん、宰相はね倒れるまでいつもああなの……私、お父様とお母様それに宰相を送って来るね」
「うん」
俺は、また倒れないようにと宰相に回復ポーションを数本渡しておいた。
「ライムお姉さん、お手伝い有難うございました。ライムお姉さんが居なかったら、正直あの短時間で百人分の食事を作る事は無理でした。本当に助かりました。これはお礼です」
ライムお姉さんにも、お礼を伝えお土産に家族分の濃厚チーズケーキと蕩けるプリンと日本酒を渡した。
「私、大した事してないわよ。それに、リリーちゃん良いの? これ最新作の美味しいデザートでしょ? 王様達は良いと思うけど、私達家族まで貰っても良いの?」
「デザートの研究の為にも、是非食べて頂きたいのでどうぞ」
「リリーちゃん、ありがとう。あっ! 忘れるところだったわ」
ライムお姉さんが満面の笑みを浮かべたのと同時に、思いついたかのように手を叩いた。
「ライムお姉さん、どうしたの?」
「それがね、リリーちゃん聞いて。お客様がね、不思議なことを言っていたの」
「不思議なこと?」
一体何だろう?
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「クンクンクン」
リリー「あれ? シルク、まだ手伝いに戻ってなかったの?」
シルク「戻ったわよ。でもね、美味しそうな香りが冒険者学校の校舎からして
来たから慌ててアイビーを走らせてきたの」
アイビー『シルクは、僕より食べ物の匂いに敏感だからね』
シルク「五月蠅いわね! それより、リリー早く私にも試食させなさいよ」
リリー「シルクの場合は、試食の量じゃないでしょ?」
シルク「リリー、私こんな一切れや一プルリンじゃ足りないわよ?」
リリー「それ一切れじゃなくて、シルク用に作った濃厚チーズケーキ1メートル
ホールのままだから一台よ? それに、蕩けるプリンはバケツで作った
から……プルリン? あっている? いや、バケツだから一個よ!」
改めて、シルクの大食いを再確認したリリーであった。




