冒険者学校に行こう【アンデッドエンペラーSIDE】
氷結の大洞窟の地下で、――王は勘考していた。
あの御方は――様に、何を求めておられるかは不明だ。
しかし、この世界はあの御方達が……いや、これは私如きが考えてよい問題ではない。
私は――様に従い、――の因子を少しでも早く見つける事だけを考えればよい。
――の因子を、然るべき者に与えなければこの世界の理が狂ってしまう。
そして私は、――の因子を与えられた然るべき者に従い――
「――王、お呼びでしょうか?」
「氷禍大元帥か……首尾はどうだ? ――の因子は、見つかったか?」
「いえ、全軍で捜索に当たっているのですが、我らが捜索している南の地では未だに……。――王、最南東の女神の住まう大森林を捜索しては?」
「いや、あそこは絶対に行くことを禁ずる。それに、あの国にもだ。――様の、主からの命である」
「承知致しました」
※ ◇ ※
極寒の大地にある氷の館で、氷禍大元帥は――王との謁見を終え独り溜め息を吐く。
「はぁー……奴が従うだろうか?」
奴は個の力では我らの中で最弱だが、我が軍随一の軍勢を持つ死の皇帝だ。
自尊心が強く野心が強すぎる故に、いつも孤独で我が兵を使用せず単独で事をなし従わない傾向がある。
それ故に、上の地位にもなれずにいる。奴はそれを理解しようとしないのだ。
空気が重い中、氷禍大元帥は自身の最大軍勢を誇るアンデットエンペラーに魔道具で通信を行う。
「アンデットエンペラーよ、首尾はどうだ?」
「我が輩に、抜かりはない」
「其方の軍は我が軍随一の軍勢である。故に、過信するでない」
「しかし氷禍大元帥よ、増幅魔方陣で我が輩の軍勢を呼び出し数の脅威で侵攻すればあの国の結界をも破壊できる。それに、最南東の女神の住まう大森林も……」
「何度も言っておろう? ――様の、主からの命なのだ。侵攻を禁止する」
「ふっ! 我が輩に抜かりはないと言っておろう」
そして、通信を一方的に切られた。やはり、奴は従わぬか……仕方がない。
氷禍大元帥は、魔道具を常に傍受している自身の陰に通信を行う。
「氷陰よ、聞いていたか?」
「はっ!」
「聞いての通りだ。奴が事を起こすと同時に……」
「はっ!」
氷禍大元帥は、椅子に背をあずけ瞼を閉じ溜め息をつくのであった。
※ ◇ ※
リリー達が冒険者学校に向かっている中、一方で闇の者の暗躍が行われていた。
禍々しい魔方陣が地に姿を現すと共に、どす黒い陰がから闇を纏いし者が現れた。
「ここであるな――」
禍々しい魔方陣が消え去ると、闇を纏いし者が手を突き出し一歩前に出る。
「ぐっ――凄まじい魔力を感じる。我が輩の腕が、浄化されそうだ」
どす黒い闇が、浄化された手を再生する。
「我が輩とて、これ以上は進めぬか……」
南東に位置するフォレストムーン王国――ここは、我が輩が知る限りどの軍も調査に来ておらん。
いや、来ておらんというのは違うな調査がでんのだ。
この異常な魔力で覆われた妖精の結界は、女神の住まう大森林を守護する妖精王のものだ。しかも、何重にも張られた魔方陣で増幅されておる。
我が輩でさえ、この結界を破壊することは困難か? しかし、破壊出来ないわけでは無い。
氷禍大元帥からは、最南東の女神の住まう大森林だけは絶対に近づくなと言われておる……しかし、ここはその森ではない。
これだけ調査が難航しておるならば、ここも調べる必要があるのは明白である。
それに、――様に気に入られれば我が輩も元帥の地位になれるやもしれん。
「我が輩は、死を司るアンデットエンペラーである。我が輩に、不可能という文字は無い。それに、我が輩の軍勢は幾らでも地に眠っておる。フハハハハ!」
準備は必要だが、我が輩の魔方陣でこの国の四方を埋め尽くせば地より生まれし数百万の軍勢が我が輩の軍となる。
如何に膨大な魔力で守られておる結界であれ、必ず破壊できるだろう。
破壊すれば、後は我が輩の軍勢で隈無く探せば必ず見つけられるはずである。
「地に眠る同胞よ、我が輩に従え! いでよ、破滅を齎す闇の重騎士デスヘビーナイト!」
禍々しい数十の黒い魔方陣が地に刻まれたと思うと
ゴォォォォォォ! ダン!
アンデットエンペラーの眼前に、デスヘビーナイトが地より這い出し数十体現れ一斉に跪いた。
「面を上げよデスヘビーナイト。我が輩はこれより、魔方陣をこの国の四方に刻んでいく。我が輩の侵攻を阻む者は地に返らせるのだ」
「ゴォォォォォォ!」
このデスヘビーナイトだけでも、数万のアンデットオーガに匹敵するが……
ここの湖は、どうやら水の大精霊が守護しているようだ。
ならば、我が輩も力を示そうぞ。
それに、この地は我が輩に都合よく戦禍の跡地であり強力な奴も眠っておる。
「地に眠りし同胞よ、我が輩に従え! いでよ、破壊の化身ドラゴンゾンビ! いでよ、呪いを統べる巨人アンデッドオーガ! いでよ、死の戦士スケルトンナイト! いでよ、死の住人グール!」
アンデットエンペラーの眼前に、無数の黒い魔方陣が地に刻まれたと思うと――
一際大きな禍々しくどす黒い魔方陣をこじ開けるように、ドラゴンゾンビがその巨体をさらけ出し姿を現した。
グガァー!
ズゥン! ドォォォォォォ! キィィィィィィ! アァァァァァァ!
それを切っ掛けに、アンデットオーガが黒い魔方陣が刻まれている地に幾つもの穴を開け這い出し、スケルトンナイトとグールが地から這い出すように姿を現した。その数、数千体。
その軍勢を率いて、数百万の新たな軍勢を手に入れる為にアンデットエンペラーはドラゴンゾンビの上に乗り、フォレストムーン王国の四方を目指していた。
「結界に守られている国ほど、監視の目は温い。我が輩の隠蔽魔法を広範囲にかけたが故に効力が低いが我が輩の軍勢が見えぬか。クックック!」
「グガァー! 我はこの地で果てたが、暴れたりぬ! 我を滅ぼした奴の、匂いがする」
クックック! まさかこれほどまでに強く巨大なエンシェントドラゴンが眠っているとは……。
「ドラゴンゾンビよ、まあ待て。この結界は、お前を滅ぼした奴の結界だ。しかし、今はまだこの結界を破壊する準備が出来ていない。見よ! グールよ行け」
「アァァァァァァ! ギャァァァァァァ!」
ジュ、シュゥゥゥゥゥゥ
「あのように結界に触れると、浄化され消されてしまう。如何に、強大な力を持つ其方でもな……しかし、数を揃え浄化の能力を上回るスタンピードを起これせば結界を維持できなくなり軈て破壊できるのだ。フハハハハ!」
「グルルルル」
「そうだ、今は待て。そして、我が輩をこの国の四方に連れていけ。ならば、我が輩が四方で魔方陣を地に描き数百万の軍勢を地より蘇らせる事ができる。そうして、結界を破壊できれば後は好きにするがよい。其方の、自由だ」
「グルルルル……」
このドラゴンゾンビだけで、結界がない国はブレスの一吹きで破壊出来るな。
しかし、このようなエンシェントドラゴンさえ地に伏せた妖精王と妖精狼の王か……やはり、この結界は侮れん。
此奴が空を飛べれば早いのだが、生前と違いドラゴンゾンビとなった今は飛べないようだ。
「ドラゴンゾンビよ、四方へ急げ!」
「グルルルル……」
くっ……やはり来ているか、氷陰ども。
氷禍大元帥の考えは分かるが、我が輩を舐めすぎだ!
如何に暗殺部隊の氷陰どもでも、この軍勢は突破できん筈だ。
この軍勢は、氷陰対策でもあるからな。フハハハハ!
「ドラゴンゾンビ、ここだ」
「グルルルル」
一つ目の魔方陣は、ここで良いだろう。
「地に沈む、地獄の門よ! 我が輩は、アンデットエンペラーである。我が輩の力に、呼応する魔方陣をここに刻め! マジック フォーメイション ゲート オブ ザ ヘル」
地獄の門が現れると、そこから闇が漏れ魔法陣がゆっくりと描かれる。
「デスヘビーナイト、十体前へ!」
「ゴォォォォォォ!」
「この魔法陣を、アンデッドオーガ百体と共に死守せよ!」
「ゴォォォォォォ! ドォォォォォォ!」
アンデットオーガがいれば、人はそう簡単に近づけまい。
氷陰どもも、分散せざるを得ないだろう。
我が輩の野望が、一歩づつ足音を立てて近づいて来おるわ。クックック!
「ドラゴンゾンビよ、次だ急げ!」
「グガァー! ……我を、命令するな! 噛み砕くぞ!」
「我が輩を噛み砕けば、其方は地に返り何も出来ぬぞ。それに、我が輩は其方に噛み砕かれても復活する」
「グルルルル……」
やはり、ここまで強大な力を持つドラゴンゾンビを制御するのは難しいか……。
まあ、デスヘビーナイトを制御しているから致し方ない。
魔法陣が完成すれば、それも関係ないがな。フハハハハ!
「さあ行くのだ、我が同胞ドラゴンゾンビよ!」
「グルルルル」
グール千体を氷陰に嗾けたが、一瞬か……まあ、お陰でドラゴンゾンビを制御出来るようになった。
……これで、二つ目完成だ。むっ! 今頃気づきおったか。馬鹿な人間共よ!
だがこの人数なら……
「行けグールよ。人間共を皆殺しにしろ!」
……くっ、奴ら結界から出てこようとしない。
この結界を利用しつつの戦闘に、なれているようだ。
元、人であった我が輩からすれば何と卑怯な奴らだ。
この結界が破壊できれば、真っ先に始末する。首を洗って、待っておれ!
「あと二つだ、ドラゴンゾンビよ。其方の願いも、もう直ぐ叶うであろう」
「グルルルル」
むっ! 人間共め、弓を放ってきおったか。
無駄なことを……我が輩達はアンデットである。グール以外には、そんな物利くはずもない。
これで、三つ目完成だ。フハハハハ! 我が輩の願いも、あと一つで叶う。
氷禍大元帥の、情けない顔が目に浮かぶぞ!
「あと一つだ、ドラゴンゾンビよ」
「グルルルル」
「チッ! 姿を現したか、ウンディーネ」
「本気を出していない氷陰の様子を窺っていましたが、この国には手出しをしないようですね。ならば、リリー様が住まわれているこの国にアンデットエンペラーこれ以上の狼藉は許しません!」
「大精霊如きが、このドラゴンゾンビを倒せるものか! それに、我が輩は既に三つの魔法陣の力を得ておる。地に眠る同胞よ、我が輩に従え! いでよ、破滅を齎す闇の重騎士デスヘビーナイト!」
禍々しい数千の黒い魔方陣が地に刻まれたと思うと、アンデットエンペラーの眼前にデスヘビーナイトが地より這い出し数千体現れウンディーネの行く手を阻んだ。
「まさか、これほどとは……ふっ!」
「何が可笑しいウンディーネ! 気でも狂ったか?」
「ふふっ……貴方こそ、下ばかり見ているから気がつかないのよ! この神々しいまでの天の光りを見てみなさい」
「ぐっ……何だこの光りは? この国どころか天を覆っておる……」
「貴方、腐っても元皇帝でしょ? よく見てみなさい。天の光りは魔法陣よ」
「何? まさか、数万人規模の儀式魔法か? しかし、聖女の神聖魔法による儀式魔法は小さな魔法陣の集合体だ。なのに、これは一つの魔法陣なのか?」
「私の主、リリー様のお力よ。お陰で、私も力が満ちあふれてくるわ。それに、周りを見てみなさい」
「何? ……ばっ、馬鹿な! 我が輩の軍勢が浄化されていく……。ええい、儘よ! デスナイト我が輩の盾となれ! ドラゴンゾンビよ、ウンディーネをブレスで薙ぎ払え!」
アンデットエンペラーはドラゴンゾンビから飛び降りると、浄化され形がほとんど無いデスナイトに自身の盾になるよう命令し、最後の魔法陣設置場所に駆け出す。
「グガァー! 我が破壊の息吹で、消え失せろウンディーネ!」
ブウォォォォォォ!
破壊のブレスは、地面を溶かしながらウンディーネに向かっていく。
ウンディーネはそのブレスを、分厚い浄化の水防壁で防ぎ、自身の背に集めていたドラゴンゾンビより遥かに巨大な浄化の水でドラゴンゾンビを包み込む。
「ブレスド ギガ レイジング ストリーム!」
グガァー! ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ! シュゥゥゥゥゥゥ!
アンデットエンペラーは、ドラゴンゾンビとウンディーネが戦っている間に呪文を唱え出す。
「地に沈む、地獄の門よ! 我が輩は、アンデットエンペラーである。我が輩の力に、呼応する魔方陣をここに刻め! マジック フォーメイション ゲート オブ ザ ヘル」
地獄の門が現れると、闇が漏れ魔法陣が描かれた。
「ウンディーネよ、一歩遅かったな。我が輩の軍勢が魔法陣の完成と共に這い出てきたぞ」
「そう? ですが、遅いのは貴方の方ですよ」
「何?」
「貴方は、リリー様がお住みになるこの国に手を出した事を後悔しながら浄化されなさい。うふふ。私が手を出す必要すらなかったわね」
「何を……ジュシュゥゥゥゥゥゥ! ばかな……」
天を覆い尽くす光りの魔法陣が一瞬光ったと思うと、全てのアンデットの軍勢が消え去り地獄の門や地に描かれていた魔法陣すらも跡形なく消え去った。
「で、貴方達はどうするの? 属性が違ったおかげで、死を免れたようだけれど水の精霊の軍勢である私達と戦いますか?」
「ぐっ、くっ……この国やお前達と戦うつもりは元よりない。我らの任務は、これで終了だ」
そう言うと、氷陰達は姿を消した。
「流石は私の愛しい人、リリー様ね。中偉聖霊のユグドラシル様がお慕いしているだけはありますわ。精霊、微精霊達よ、我らも湖に帰りますよ」
「「「「「はい、ウンディーネ様」」」」」
「あーん、私の愛しい人がお呼びよ。貴方達、後のことはお任せするわね。では、リリー様の元に行ってくるわ」
そう言って、ウンディーネは嬉しそうに召喚され消えていった。
水の微精霊と精霊達が言葉を交わす。
「精霊様、ウンディーネ様の嬉しそうな顔久しぶりに見ました」
「微精霊よ、ウンディーネ様の緊張がリリー様が主となった事で解れたのでしょう。ウンディーネ様は責任感が強く、この国の危機に対して自ら先頭に立ち、水の精霊達を指揮して守るつもりでしたから……。貴方達も精進しなさい。我ら精霊も精進し、ウンディーネ様や主様に誠意を尽くすのです」
「「「「「はい」」」」」
フォレストムーン王国と湖に、平和が訪れた。
※ ◇ ※
氷結の大洞窟の地下で、氷禍大元帥は各方面に指示を出していた。
「ん? この音は、氷陰か?」
「はい」
「……派手に、やられたな。まさか、お前達も手を出したわけではあるまいな?」
「いえ、我らは巻き込まれだけです」
「そうか、ならよいが……で、彼奴は?」
「我々が手を下す前に、あの国に手を出した事でアンデットエンペラーは空を覆い尽くす魔法陣とその光りで浄化され跡形もなく消え去りました」
やはり、あの国にも――様の主様のような存在がいるようだな。
「そうか……氷闇に後のことを引き継ぎし、お前達は暫く療養するのだ。氷陰よ、大義であった」
「はっ!」
氷禍大元帥は各方面に改めて、南東の地にある女神の住まう大森林とその国に侵攻禁止令を出した。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「リリー、悪の匂いがするわ。こう言うときは、美少女戦士に変身よ」
リリー「シルク、もしかして美少女戦士になりたいの?」
シルク「リリーが、寝言で言っていたのよ。だって、美少女戦士って寝言で言わ
れると気になるじゃない。私美少女ですし……」
アイビー『ふー』
シルク「何で、アイビーそこで溜め息付くのよ!」
シルクの言った美少女戦士で、魔法少女服セットの事を思い出した
リリーであった。




