草臥れた宿屋1
俺はスノーに乗り、陰ってきている夕日に気がつきアイビーを引き連れ急いで宿を探しだした。
……よく考えたら、シルクだけサンドイッチを独りで食べたんだった。
スノーとアイビーは、俺が自身の分をシルクに渡したから遠慮して食べなかった。
それを考えると、シルクのお腹は一体どうなっているんだと熟々思う。いや、ホントに。
冒険者ギルドを出て少し行った所に、大きな宿屋が有った。
大きな宿屋はとても繁盛しており、人が行き交い賑わっていた。
スノーとアイビーに、お腹が空きすぎて憔悴しているシルクを外で待たせ俺は独り宿の中に入っていった。
初めての大きな宿屋に、右に左に視線を彷徨わせていると番頭らしき人に声をかけられた。
「お嬢様、ご家族をお捜しでしょうか?」
「えっと、お部屋を借りたいのだけど……」
部屋を確認すると、年齢を確認された。
やはり、種族により見た目と年齢に齟齬が生じる場合がある為の措置なのだろう。
俺が正直に年齢を伝えると、上お得意様のように対応された……貴族のご令嬢とでも思われたのか?
しかし、両親がいない事を知ると急に態度が横柄になった。
見た目と同様に、年端も行かない幼女である。当然、お金を所持している親と共に訪れたと思うわけである。
馬鹿にされていると感じたのかは定かではないが、部屋は全て満室だと言われた。
お金は所持しているが、この宿に拘る必要は無い。他の宿屋を探すべく、この宿屋をあとにした。
俺はスノーから降りて、トコトコ再び歩き出した。
シルクはアイビーに乗り、俺の横をスノーと共に一緒に歩く。
「ねえ、リリー。さっきの宿屋、ちょっと態度悪すぎじゃない?」
「あははは……」
シルクの言草に、俺は笑うしかなかった。確かにあらかさまに態度が激変した。
しかし、大きな宿屋の番頭の態度は分かる。番頭として、宿屋を弊害から守らなくてはならない。
俺もこんな幼女が予約も無しで来て、しかも両親もいない状態で来られても対応に困る。
暫く歩くと、少し奥行った空き地の多い場所に小さな草臥れた宿屋が有った。
草臥れた宿屋に入ると、この宿屋に見合わないほど綺麗な女将さんが出てきた。
女将さんに部屋が空いているか確認すると、何室か空いているようだ。
初めに、大きな宿屋のように年齢確認と両親が来ていないかを確認された。
そして、俺の見た目から貴族のお嬢様とでも思われたのかこんな草臥れた宿屋でもいいのかとも確認された。
俺が困っていると、外でシルクの愚痴がこぼれた。
「ねえ、リリー。宿屋またダメなの? 私もうお腹ペコペコよ」
「シルク、ちょっと待ってね」
俺が俯いてどうしようかと悩んでいると、宿屋の女将が気を利かせてくれた。
「お嬢様、何か事情がありそうですけれど草臥れたうちの宿屋で良ければいいですよ」
「お姉さん、ありがとう」
俺は女将にお礼を言って、二人部屋を借りた。
シルクは妖精で小さいが、人数分という事で二人部屋を借りたのだ。
外で待たせてあるスノーとアイビーも、同伴しても良いか確認すると召喚獣なら良いよと言われた。
なので、目の前でスノーを召喚解除させて再び召喚させたら召喚獣と認めてくれた。
そして、外にいるアイビーも一緒に中へ連れて入った。
宿屋の女将は、まだ若くスタイル抜群だ。宿屋の女将と言うより、寧ろ巨乳のお姉さんと言った方がいいだろう。
見た目や年齢的にも、俺好みの女将である。
しかし、不思議と元の世界にいた頃よりは、興味を示さなかった。
寧ろ気になるのは、スノーとアイビーの方である。
冒険者ギルドのギルド嬢も俺好みの美女であったが、同じく興味を示さなかった。
その時も、スノーとアイビーの方が気になった。
恐らく、女神サラの身体が関係しているのだろうと俺は推考する。
女神サラの白銀虎に対する溺愛ぶりから、深い愛情が感じられる。そして、俺のモフモフな子達に対する愛情。その二つの愛情が相乗効果をうみ――いや、相乗効果どころではないのかも知れない。
俺の女性に対する感情に、過度な歯止めをかけている可能性がある。
兎に角……モフモフな子達の方が、気になるのだ。
「お姉さん何か食べたいのですけど、食事もここで出来ますか?」
「奥に小さな食堂は有るのだけどね……」
女将さんは食堂にある厨房の鍋を見て、
「ごめんね。本日分は終了しちゃったの。でも、食材はあるので少し時間をくれたら簡単な物なら出せるわよ?」
と、言ってきた。
食材が有るなら、自身のスキルで簡単に作れる。
妖精の村でもらった食材はあるが、食材が無い場合に備えて食材を確保したかったのだ。
「差し支えなければ、購入致しますので食材を少し分けて頂けないでしょうか?」
「いいわよ」
「お姉さんありがとう」
俺は食材を幾らかわけてもらうことにした。
宿代は一泊、朝と夕食付きで小銀貨二枚。俺の元いた世界で換算すると二千円。
食事抜きだと、小銀貨一枚と大銅貨一枚。換算すると、千五百円。
元いた世界の、安いカプセルホテルなみだ。
食事だけだと、朝食が銅貨二枚と小銅貨一枚。換算すると、二百五十円。
夕食のみの場合は、銅貨三枚と小銅貨一枚で換算すると三百五十円であった。
大学時代通っていた、学生の懐に優しい食堂の食事代に近いリーズナブルな金額だった。
俺は食事抜きの十日分の宿代で大銀貨一枚と銀貨一枚、それに食材代の銀貨一枚渡した。
元いた世界で考えると、十日分のカプセルホテル代と格安食材店で買った食材代で計二万円と言うことだ。
俺は女将さんについてきてもらい、食堂奥の食材置き場から食材を見て回った。
そして銀貨一枚分の多量ともいえる食材を、アイテムボックスに入れて食堂に戻って来た。
食材をアイテムボックスに入れ食堂に戻ってきた頃には、他の泊まり客は既に誰も居なくなっていた。
食堂には、質素な残り物のパン切れや味の薄そうなシチュー等を分け合っている女将さんのご主人さん達だけだった。
細マッチョなご主人と八歳位の可愛い女の子、それにご主人さんに抱かれている二歳位の赤ん坊――どうやら、この人数だけで小さな宿屋を運営しているようだ。
冒険者ギルド近くの大きな宿屋と違い、状況から見て貧乏宿屋なのだろう。
俺はシルクを肩に乗せて子供用の椅子に座り、スノーとアイビーは俺の足元で待機。
その状態で、テーブルの上に次々とスキルを使用し料理を作りあげていった。
スキルの使用で、最上級の肉に変わった肉はステーキに――木のナイフを軽く当てるだけでジュワッと肉汁が出て切れる。
その他には、白魚のムニエル、香り豊かな濃厚クリームスープ、焼き立てのフワフワのパンの数々、程よく冷えた果汁ジュース、温かいミルクティーなどなど……六人がけのテーブルに、目一杯敷き詰めて皿に並べていく。
スノーとアイビーにも食べられる様に、薄味にした料理を足元にもふるまった。
その状況を見ていた、宿屋の夫婦と娘が羨望の眼差しを向け思わず唾を飲み込んだ。
呆気に取られているので、俺は若女将を見て伝える。
「お姉さん達も、いかがですか? 私達だけでは、食べきれませんので……」
俺がそう言うと、宿屋の娘が走って俺の近くに来て、
「本当に良いのー?」
と言ってくるので、両手でテーブルの料理に広げるようにして
「どうぞ」
と伝えると食べだした。
宿屋の主人と女将が慌てて娘を止めようとするが、
「お姉さん達もお気になさらずに食べて下さい」
と伝えると、我慢の限界が来たようで娘と一緒になって食べだした。
「美味しい! こんな美味しい料理、レモン初めてー!」
宿屋の娘が満面の笑顔で、俺のスキルで作った料理を食べると、
「そうでしょ、そうでしょ。 私も初めて食べた時は、もう吃驚よ!」
シルクも共感を示すように、宿屋のレモンと一緒に同じ料理を頬張った。
宿屋の主人も信じられない美味しさに舌を巻く。
「本当に俺の家の食材なのか? こんなに旨い料理は初めてだぞ!」
女将も笑顔になって美味しい食事に舌鼓をうつ。
「本当ね! こんなにも美味しい料理を食べたのは、生まれて初めてだわ!」
「お姉さん。ご主人さん。お姉ちゃん。食材もまだまだ沢山有るので、沢山食べて下さいね」
俺達と宿屋の夫婦達は美味しい料理に幸せな一時すごした。
俺が食器をアイテムボックスに収納していると、申し訳なさそうに宿屋の主人が宿代を全額返しに来た。
俺はそれを、丁寧に断った。
皆で談笑していくうちに、ご主人の名前はキノット、女将はライム、娘はレモン、まだ小さな息子はシトロンという事が分かった。
俺達は、宿屋の二階の部屋につくと早速皆寛ぎだした。
妖精には広すぎるベットの上で、シルクが背伸びをしている。
「んっ、うーん。疲れたー」
「ワン、ワフー、クウーン?」
『シルク、さっきまで、僕の上で寛いでいたでしょ?』
「このベット、アイビーの上よりゴロゴロできるけれど……固いわね」
アイビーが、ため息をついている。
シルクとアイビーのいつものやり取りに笑顔を向けてつつ、俺はスノーを撫でて和みの一時を楽しむ。
俺は、寝る前に華ロリ服セットをアイテムボックスの洋服専用修復ボックスに収納する。
そして気持ちよく寝るために欠かせない、お気に入りの着ぐるみセットに着替える。
わん。わん。わん。何匹ものアイビーに似た、可愛い幼狼が現れる。
俺が寝転ぶと、可愛い幼狼達が群がり幸せな気分になる。
ぼっふん! っと、幼狼の幻影達が消える。
そこに現れたのは、デフォルトされたアイビーの着ぐるみを着た俺だ。
お着替え妄想タイム終了。
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着ぐるみセット (多彩色) 使用中 ●
+
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今日は、アイビーの姿に変わりスノーとアイビーをモフモフしながら寝床に着く。
そして、今更ながら思いだしたセリフがある。
そのセリフを呟く――
「見た目は幼女、頭脳は大人、その名は女神リリー!」
俺が気持ちよくセリフを言っていると、寝ていた筈のシルクがムクリと起き上がる。
そして――
「はいはい、真実はモフモフ大好き幼女でしょ。リリー、早く寝なさい」
「……」
何も言えなくなった俺は、スノーとアイビーのお腹に顔を埋め最後まで言えなかったセリフに、
「シルク、どうして途中のセリフ知っているの?」
と、疑問に思いつつもフカフカな毛並みに癒やされスヤスヤ寝息を立てるのであった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「ぷぎゃっ! ――――。――――。はぁー、はぁー、はぁー」
リリー「ふぁー……シルクどうしたの?」
シルク「やっと、出てこられた。アイビーが、寝返りうったのよ」
リリー「アイビーも、寝返りくらいするでしょ?」
シルク「リリー、アイビーのあの姿見てよ。寝返りして仰向けでだらしなく
寝ているのよ。バカ犬のせいで、私窒息するところだったわ……」
リリー「はぅー……アイビー、ちかっぱ愛らしいばい。スヤスヤ眠ってる
けん、起きんようにモフモフ……(小声で)モフモフ、ハッピー
……もにゅもにゅ」
シルク「リリー、小声になってないわよ。それに、夜中に大声出そうとして
……もぉー、私が口押さえなかったら周りに迷惑かかるところ
だったわよ」
リリー「シルク、ありがとっ。アイビーの上が危険だったら、今日は私の
隣で眠る?」
シルク「そうね……今日のリリーの着ぐるみはアイビーの姿だし、その
着ぐるみのフードに付いている耳の辺りが寝やすそうね」
シルクがアイビーの上から移動した事で、最近出来なかった両手に
モフモフ――
アイビーに感謝しつつ、スノーとアイビーを両脇にして眠りにつく。
嬉しさのあまり、満面の笑みで朝まで快眠できたリリーであった。




