第十二話「激震! ミツヨの怒り、ネタバの呪術」
《読まれる前に》
配信等で使用される場合は「作者名〔きりまさ〕」「使用台本の名前〔例 天下五剣第十二話 等〕」「使用台本のURL」を明記の上、ご使用ください。
詳細は台本規約(http://kirimasamixer.blog.fc2.com/blog-entry-97.html)をご覧ください。
男:3 ナガサ、ネタバ、アオガネ
女:3 イズナ、シロガネ、アカガネ
不:2 ミツヨ、クニツナ
モブ:忍、賊、叔父
ミツヨ、クニツナは少年の為、不問としています。
ナガサとネタバは同じシーンに出ない、つまり被らないので、兼役に向いてます。ナガサとクニツナも被りません。
モブは一人モブ専任を選んでもいいかもしれません。
《配役表》(コピペしてお使いください)
ミツヨ〈51〉:
ナガサ〈27〉:
ネタバ〈11〉:
アオガネ〈28〉:
クニツナ〈13〉:
シロガネ〈51〉:
イズナ〈51〉:
アカガネ〈38〉:
忍〈1〉:
賊〈3〉:
叔父〈3〉:
《前回までのあらすじ》
時は幻想戦国時代。『闘身』という力を扱う者がいた。
闘神、鬼丸国綱覚醒!
自らの過去、そして家族との別離を乗り越え、遂にクニツナが目覚める時が来た!
その頃、アオガネらの襲撃から逃れられたシロガネ、イズナ、ミツヨらは道場を目指していたのであった……!
回想。
古備前の里。
遅咲きの桜が吹雪く中、アオガネが木の幹に身体を預け、座している。
そこに歩み寄るアカガネ。
アカガネ「アオガネ」
アオガネ「アカガネか……戦が近いぞ。筆頭からの招集も直にかかろう」
アカガネ「……そうだな」
アオガネ「なんだ?」
アカガネ「う、うるさい! 支度をしてくるだけだ!」
アオガネ「……待てアカガネ」
アカガネ「……」
アオガネ「あー……まぁ、なんだ、春というのは、日なたに居ると暑いが、日陰に居おると寒い……」
アカガネ「あぁ……」
アオガネ「隣が居ると、丁度良かろう……」
アカガネ「……あぁ!」
アオガネに飛びつくアカガネ。
アオガネ「ぐおっ!? ひ、筆頭の招集があったらすぐ行くからな!?」
アカガネ「わかっておる! ……ふふふっ」
神社の様な建物の中。
ネタバの隠れ家。
ネタバとアオガネが対峙している。
アオガネはネタバのもの言わぬ部下に羽交い締めにされている。
殴る蹴るの暴行を受けたのか、アオガネは傷だらけである。
ネタバ「まさかまだ人の心が残っているとはな……人としては見上げた心かも知れないが、私の下僕としては、それでは困るのだよ」
更に暴行を受けるアオガネ。
アオガネ「ガッ! グフッ……ゲハッ!」
ネタバ「しかし……『五金』か。厄介だな……友情だとか、絆だとか、即ち人の持つ“こころ”というものが、私の術の障りとなっている」
アカガネ「ネタバ様……この上は我が参りましょう」
ネタバ「……そうさな。“こころ”が邪魔をするのなら、私の術がそれを上回れば良い——お前達の絆とやらを、逆手に取らせて貰おう。アオガネを連れて行け。アカガネ、期待しているぞ」
アカガネ「はっ……」
ネタバ「あの方角……さては奴ら――そうか。其処へ行くのか……フフフ……」
場転。
山道を歩き続けるシロガネ、イズナ、ミツヨら。
ミツヨ「あれから、何の追っ手も無いですね」
イズナ「そうですね。なんだか気味が悪いくらいです――シロガネ様は、如何ですか?」
シロガネ「私の耳にも、目にも、なぁんの障りもありませんわぁ……尤も、合流が早くなる故、大助かりですけれどもぉ」
イズナ「それもそうですけど……」
ミツヨ「この場所は――町は、もうすぐです」
シロガネ「あらあら、では、今に山道ともおさらばですわねぇ」
ミツヨ「……母上は」
シロガネ「ん?」
ミツヨ「母上と、父上は元気にしておられるだろうか」
イズナ「そういえば、ミツヨ様はあまりご両親のお話はされませんでしたね」
ミツヨ「クニツナ殿も、ツネツグ殿も、あまりご両親の話をしませんので、某も努めてしない様にしておりました」
イズナ「そうだったのですね……ミツヨ様さえよろしければ、話して頂けませんか?」
ミツヨ「しかし——」
イズナ「私は、知りたいです。ミツヨ様のこと」
ミツヨ「で、では……父上も母上も、至って普通の人です。父は木を使った工芸品を作る職人で、母はそれを問屋に売ったりしておりました。母上は口が達者でして、問屋が安く買おうとすると、その問屋を褒めたりして気を良くさせるんです。対して父上は黙って様々な工芸品を作っておりまして、特に最近では、カラクリの歯車などを作っておりましたね」
イズナ「ミツヨ様の『大典太』も――」
ミツヨ「某の『大典太』は物心ついた頃から居りましたが、不思議な縁だと思います。父上が歯車を作り出した時は、驚いたものです」
イズナ「そうだったのですね」
シロガネ「……橋が見えて参りましたわね。しかし――」
ミツヨ「あれは小烏橋……道場ももうすぐです!」
イズナ「あ! ミツヨ様、走られなくても――!」
神妙な顔をするシロガネ。
戦化粧が淡く光る。
シロガネ「……お前たち、駕籠と棺を安全な場所に置き、二人残れ。残りは手当を」
忍「御意」
イズナ「手当? シロガネ様――」
シロガネ「イズナ……これから私たちは辛い現実を受け入れなくてはならない」
イズナ「辛い、現実……」
シロガネ「この現実を、私たちはもとより、ミツヨが受け入れられるか――」
イズナ「まさか――」
ミツヨ「なんだ……なんだこれ」
そこに広がっているのは荒れ果てた家々と、無数の死体……泣き叫ぶ子の声や、怪我をした者の呻きが聞こえる。
ミツヨ「どうして……どうして!!??」
イズナ「ミツヨ様!」
ミツヨ「父上! 母上ぇ!!」
駆け出すミツヨ。
それを呼び止める者あり。
叔父「うう……ミ、ミツヨ……ミツヨじゃねぇか」
ミツヨ「お、叔父上!? 一体これは!? 父上と、母上は!?」
ちらと、道場のある場所を向く叔父。
しかしすぐにミツヨへ向き直る。
叔父「ダ、ダメだミツヨ……行っちゃ、いけねぇ……」
ミツヨ「道場の、道場の方なんですね!?」
叔父「ミツヨォ……!!」
シロガネ「私の目には……既に見えてしまった……朽ち果てた道場と」
イズナ「ミツヨ様! ……!!」
シロガネ「磔にされた、二つの死体」
その死体こそ、紛れもなくミツヨの両親であった。
ミツヨ「あ、あ、あ……!!! 父上ええええっ!!!! 母上ええええっ!!!!」
イズナ「そんな……こんな事って」
ミツヨ「うわあああああああっっ!!!!!」
そこへ何処からともなく涌いて出てくる野盗の集団。その中の頭である、ナガサが先頭に立つ。
ナガサ「ほぉ。まだ“紅葉”が残ってやがったぜ」
イズナ「あなた達は!?」
ナガサ「ヘッ。これから骸になる奴に名乗るも勿体ない名前だがな――俺の名はナガサ。斬ったら赤くなる、“紅葉”を狩る狩人だ」
ミツヨ「よくも……よくもよくもぉ!!」
ナガサ「其奴らは殊更に我等の“狩り”を邪魔したんでな——民衆へ逃げの先導をし、最後まで我等に抵抗した。故に格別な処遇を与えたまでよ。感謝こそされ、恨まれることでは――」
ミツヨ「大典太ぁぁぁあっ!!!」
ナガサ「チッ……人の話は、最後まで聴けってんだよ!!」
大典太の木刀と、ナガサの鉄棒が競り合う。
ミツヨ「父上と、母上をぉ!!」
イズナ「短刀と、あれは鉄棒か――管狐!!」
ナガサ「野郎ども! 其処のくノ一を止めろ! このガキは俺がやる」
賊「うらぁ!!」
イズナ「敵の数、凡そ二十……伏兵を鑑みても、管狐ならば――管狐乱れ飛び、五月雨千本!!」
賊「ぐあああっ!!」
ナガサ「ふんっ!!」
ミツヨ「はっ!」
距離を取るミツヨとナガサ。
不敵な笑みでミツヨを見るナガサ。
ナガサ「――知ってるぜ。お前の闘身、からくり武者の大典太。デカい図体に似合わぬ攻防優れた身のこなし」
ミツヨ「ぐっ……くぅ!!」
ナガサに突っ込んで行くミツヨ。
ナガサ「わかってんのか? 手前の闘身が知れてるって事は、対策も知られてんだよ!!」
跳躍するナガサ。
イズナ「ミツヨ様危ない!」
ミツヨ「上かっ!?」
ナガサ「闘身が強い分! 闘身使いが未熟なガキだってなぁ!!??」
イズナ「管狐! 駄目、間に合わない!?」
ナガサ「もらったぁ!!」
ミツヨ「うおおおおっ!!」
シロガネ「守界、衛盾、銀結晶!」
刹那、ミツヨの身体をシロガネの銀結晶が包む。弾かれるナガサの鉄棒。
ナガサ「何ぃ!?」
シロガネ「ナウマク・サーマンダーボダナン・サン・サハ・ソワカ……その弱点、既に我らが心得ている。無間衆の情報網には、我らの事は記されてはおらぬ様子で――」
ナガサ「チイ……もう一人居やがったたぁな……此奴はちと分が悪いぜ」
アカガネ「ならばその戦、私も加勢しようぞ」
シロガネ「その声は――」
一陣の風と共に、猫の頭に人の身体をしたくノ一、アカガネが現る。
アカガネ「久しいな。シロガネ」
イズナ「ア、アカガネ様まで……!!」
シロガネ「……五金も、堕ちたものだ」
アカガネ「堕ちた? ——次代を拓く傍らには常に破壊有り。この戦乱の世も然り。堕ちているのに気付いていないのはクガネと、其方だ。シロガネ」
シロガネ「絡繰られた者の声は此処まで届いて来んでな……戦にて語ろうぞ、アカガネ」
アカガネ「良かろう……だが、此奴も仲間に入れてやってはもらえぬか? ――アオガネ」
アオガネ「フシュルル……フシュルルル……グゥウウウガアァァッ!!」
シロガネ「アオガネ……!!」
アカガネ「先は通じたらしいが、もうアオガネの情に訴えても無駄だぞ」
シロガネ「元よりそのつもりなど無い……同胞の不始末は、我が片を付ける!」
シロガネの戦化粧が光る。
様子を伺うナガサ。
ナガサ「……ネタバ様の手の者か……? どちらにせよ、あの術士は彼奴らに任せるとしますかね――ならば」
ミツヨ「……」
ナガサ「憎くて堪らねぇって顔してんな、ガキ……悪ぃが、おじさんはこれが仕事なんだよ」
ミツヨ「ふざけるなぁぁぁっ!!!」
猛進してくるミツヨの大典太。
ナガサに連撃を見舞う。
ナガサ「さっきよりも速いっ!? くそっ! ガキに近付く隙が――」
ミツヨ「何が仕事だ! そんな理由で! そんな理由で我が父を! 母を殺めるか! ならば、某は、貴様を、貴様をぉぉぉっ!!」
ナガサ「ガキ風情が、図に乗るなぁ!」
またもミツヨを狙い、突進してくるナガサ。
ミツヨ「大典太ぁぁぁああっ!!!」
ナガサ「ちぇあっ!!」
大典太が追い付き、ナガサの攻撃を受け止める。
ミツヨ「まだまだまだぁあっ!!」
ナガサ「クッ!? ならば、これならどうよ!!」
宙返りで距離を置きながら、鉄棒に短刀を装着させ槍を形作るナガサ。
ミツヨ「鉄棒に、短刀が!?」
ナガサ「ガキ如きに本気を出すのも癪だが――やられるのはもっと癪でね。覚悟しな」
ミツヨ「構えが変わった……来るぞ大典太!」
スゥと深呼吸をするナガサ。
ナガサ「退を捨て、耐を捨てれば、細槍一刃岩をも融すってね……今、お前の土手っ腹に風穴を開けてやるよ!!」
ミツヨ「構えろ! 大典太!」
ナガサ「ケッ。馬鹿な奴――」
先程よりも更に速く、大典太とミツヨに突っ込むナガサ。
ミツヨ「!? イヤ、避けろ! 大典太!!」
ナガサ「せやっ!!!!」
大典太の盾を穿ち、腹を抉るナガサの槍。
ミツヨの左腕と腹から血が噴き出す。
イズナ「!? ミツヨ様!!!」
ミツヨ「そんな……大典太の、盾が……!!」
ミツヨ、荒野に仰向けに倒れ臥す。
シロガネ「しまった……ミツヨ!!」
アカガネ「余所を気にすると死ぬぞシロガネ!」
忍者刀を振るうアカガネ。
それを辛くも受け止めるシロガネ。
シロガネ「くうっ!?」
ミツヨ「がふ……ぐ……あ……」
ナガサ「腸まで届いた……手前の驕りの顛末よ……父ちゃん母ちゃんがそんなに恋しいなら、今逢わせてやるよ」
ミツヨに歩み寄るナガサ、短刀を逆手に持ち替えてとどめを刺さんとする。
賊を薙ぎ払い、ミツヨに駆け寄るイズナ。
イズナ「ミツヨ様……ミツヨ様!!」
ミツヨ「大、典、太……大典太……大典太ぁあっ!!!!」
血が溢れつつも震える手で、再度大典太を動かすミツヨ。
大典太がナガサを捉える。
ナガサ「!? 此奴、何処からそんな力を!?」
ミツヨ「地獄へ堕ちるのは、お前だぁぁぁあっ!!」
ナガサを捉えた大典太、そのまま鯖折りに持ち込む。
ナガサ「ぐおっ!? 此奴、離せ、離せっ……!!」
抵抗するも、大典太の力は増すばかり。
ナガサ「がっ!? あげっ……え……!!」
ミツヨ「うあああああっ!!!」
ナガサ「ぎゃああああああっ!!!」
やがて異音を立てながら、ナガサの骨が砕ける。ナガサ、絶命。
と同時に、大典太に異変が起こる。
ミツヨ「ううううっ……うううぐううううっ……!!」
イズナ「ミツヨ様の、大典太が、血の色に……」
シロガネ「イズナ!!」
イズナ「はい!?」
シロガネ「ミツヨを収めよ! さもなくば理性を捨てて、暴れ回るだけの鬼となるぞ!!」
イズナ「!? そんなっ……!!」
ミツヨ「ぐああああああっ!!!」
ミツヨの目が血走り、明らかに正気を失っている。にも拘らず、動きを止めないミツヨと大典太。
シロガネ「あくまで推測だが、ミツヨの想像を絶する怒りが、闘身に直結している……ミツヨが我に帰るか、身が朽ち果てるまで、暴走は止まらぬ!!」
賊「か、頭がやられた! 皆、に、逃げ――ぎゃあああああっ!!」
ミツヨ「うああああああっ!!!」
次々と残党を蹴散らし、惨殺していく大典太。
イズナ「ミツヨ様! ミツヨ様、お気を確かに! ミツヨ様!」
ミツヨを抱き留めるイズナ。
振り払おうとするミツヨ。
ミツヨ「がああああっ!!」
イズナ「もう仇は討ちました! こんな事をしても! ご両親が哀しむだけです!! ミツヨ様!!」
ミツヨ「ぬぅううあっ!!」
ミツヨ、イズナの手を振りほどき、投げ飛ばす。
イズナ「きゃあぁっ!!」
シロガネ「イズナ! クッ……!!」
アカガネ「本気で来いと、言うておろうが!!」
シロガネ「ぐはっ!?」
アカガネに蹴り飛ばされるシロガネ。
アオガネ「シュアアアアッ!!」
追い打ちと、アオガネがシロガネを殴打する。
シロガネ「ごふぅっ!!?? おのれ……ナウマク・サーマンダー・ボダナン・サン・サハ・ソワカ! 幻惑、白界、銀吹雪!!」
アカガネ「見切ってるよ! 風遁、辻風舞踏!!」
アカガネの忍術が、幻術ごとシロガネを吹き飛ばす。
シロガネ「ぐはぁ!」
イズナ「ミ、ミツヨ……様……」
ミツヨ「うううぅ……うううっ……げほぉ!!」
負荷に耐えられず、喀血するミツヨ。
イズナ「そんなに、血を吐いて……死んでしまいます……ミツヨ様……」
ミツヨ「うああああっ!! ああああっ!!」
傷つきながらも、立ち上がり、ミツヨの下へと歩み寄るイズナ。
イズナ「ミツヨ様……ここは、貴方の生まれ育った町ですよ……もう、もう、焼け野原になってしまっていますが……無事な人も、数少ないですが……まだ、貴方の帰る場所はあります……だから、まだ、貴方は――」
ミツヨ「うあああっ!!!」
ミツヨ、イズナの腹部を殴打する。
イズナ、何とか耐え凌ぎ、ミツヨの手を自身の両手で優しく包み込む。
イズナ「がはっ!! ……貴方は、生きなきゃいけません……それに、ツネツグ様や、クニツナ様が……待ってます……ミツヨ様……私の声を……どうぞお聴き受け下さいませ……」
ミツヨ「ぐ、う……」
イズナ「私を、お呼びください。ミツヨ様」
ミツヨ「うううぅ……イ……」
イズナ「はい……」
ミツヨ「イズナ……殿……」
イズナ「はい、ミツヨ様」
ミツヨ「あ、あ……」
気絶するミツヨ。
彼を抱き留めるイズナ。
イズナ「……ミツヨ様……!!」
ミツヨを救うことに成功した彼女の目から、一筋の涙が頬を伝った。
シロガネ「イズナ……!」
アオガネ「グアアアゥ!!」
シロガネ、キッとアオガネを睨む。
シロガネ「衛盾、反転……銀返し!!」
アオガネ「ガオォッ!!??」
アカガネ「アオガネ!?」
銀結晶ごと、吹き飛んだアオガネ。
シロガネ「案ずる物は無くなった……我はミツヨを救わねばならぬ……これより先は、一息で決着を付けさせてもらうぞ!」
アカガネ「できるものなら、してみせよ!!」
シロガネ「イズナ!」
イズナ「……承知!! 管狐、宙返り、苦無落とし!」
イズナ、即座に管狐を召喚し、苦無を投げつけさせる。
アオガネ「グウゥッ!?」
アカガネ「小癪な!!」
シロガネ「普く諸仏に帰命し奉る……一殺、一心、銀刃!!」
回想。
古備前の里、橋のたもと。
川を見つめながら酒を嗜むシロガネ。
そこへアカガネが現れる。
アカガネ「其処に居おったか、毒狐」
シロガネ「あらぁ、貴女まで私の事を悪く言うのは止して下さいませんかぁ?」
アカガネ「フッ……筆頭を困らせておいて良く言うわ」
シロガネ「では、アカの爪の垢を煎じてぇ、飲めば、よろしいかしらぁ?」
アカガネ「や、やめろ! 我の爪に垢などない!」
アオガネ「おうおうおう、楽しそうにしてるのは構わんが、戦の支度をせい。筆頭からの命は受けたであろう」
シロガネ「あらぁ、いけずぅなお人やわぁ~」
アオガネ「……シロガネ。お前はもう少し、忍としての自覚をだな……」
アカガネ「そ、そうだそうだ! い、行くぞアオガネ」
アオガネ「阿呆、シロガネを連れて行かねば意味がなかろうが」
アカガネ「あぅ……」
シロガネ「あらまぁ。将来の旦那様に諭されてぇ、アカが赤くなってますわぁ」
アカガネ「シ、シシシ、シロガネ!?」
シロガネ「三十六計ぇ、逃げるに如かずぅ」
アオガネ「……まったく」
回想終了。
在りし日の面影を映しながら、シロガネは旧友に最期の刃を振るう。
シロガネ「次の世では、夫婦となろうて……」
アカガネ「しまっ――グハァ!!??」
アカガネの胸から鮮血が飛び散る。
アオガネ「グゥウ!?」
アカガネの最期に、アオガネが一瞬動きを止める。
そこへ素早く、アオガネの懐へと潜り込むシロガネ。
シロガネ「案ずるな……我も直にそちらへ往く」
アオガネ「ガハッ!!?? ア……」
倒れ臥すアオガネ。絶命。
シロガネ「……ガーテイ・ガーテイ・ハーラーガーテイ・ハーラーソガテイ……ボーヂ……ソワカ……其方らに如来の加護があらんことを……くっ」
痛みに膝をつくシロガネ。
駆け寄らんとするイズナ。
イズナ「シロガネ様!」
シロガネ「大丈夫だ……それよりも、ミツヨを、ミツヨを助けねば……」
そこに、何処からともなく声が響いてくる。
ネタバ「そうさな……だが、それでは困るのだ」
イズナ「誰!?」
シロガネ「アカガネとアオガネが……!!」
骸となった筈のアカガネとアオガネの身体が宙に浮く。
ネタバ「ふははははっ! 御涙頂戴の闘い、美しいものであったぞ。だがここからだよ、ここからが私の術の真髄なのだよ」
アカガネの身体が、ボコボコと膨れ上がる。自身の体の異変に朦朧ながら気付くアカガネ。
アカガネ「ネ、ダ……バ……様」
ネタバ「案ずるな、アカガネ……貴様とアオガネは私の術を以てして、文字通り、一つになれるぞ」
アオガネ「グオオオオオッッ!!??」
イズナ「ふ、二人の、身体が、膨れ上がって……」
シロガネ「なんと禍々しい術……それもかなり遠方から……!!」
アカガネ「あ、あ、あ……イヤ、ダ……イヤダァアアッ!!」
イズナ「なんて、酷い……!!」
やがて二人の目の前に現れたのは、山の如く大きな身の丈の肉の塊——異形の怪物であった。
ネタバ「ふははははっ! これぞ呪肉怪成の術! 予め術を施した者が死に瀕した時、肉塊の化け物にする術! 術を施された者が複数居れば、融合し、更に強力な怪物と成る!」
アカガネ「アァァァ……ウゥゥゥ……」
アオガネ「オォォォ……オォォォ……」
辛うじて視認できる程度に残ったアカガネとアオガネの顔は苦渋に満ち、悲痛な呻き声が漏れている。
イズナ「クッ……!!」
シロガネ「……!」
ネタバ「おっと、斯様な恐ろしい術をかけた者は誰かと言う顔をしているな? ――私こそが、無間衆八逆鬼七の逆、ネタバ! 謀大逆のネタバだ!!」
イズナ「無間衆八逆鬼……!!」
シロガネ「遂に七人目が——」
ネタバ「だが、私は忙しいのでな、お前たちの相手はそこの化け物にしておいてもらうとしよう。運が良ければ、また逢えるかもしれないな……ふははははははっ!!」
高らかなネタバの笑い声は遠くなり、やがて消えていく。
イズナ「なんて残虐な!!」
シロガネ「イズナ、何としてでもあれを止めるぞ! グズグズしていたら、ミツヨの命が……!!」
イズナ「はい!!」
シロガネ「ナウマク・サーマンダー・ボダナン・サン・サハ・ソワカ! 普く諸仏に帰命し奉る……疾風、千裂、銀鎌鼬!」
イズナ「管狐! 乱れ飛び、五月雨千本!」
シロガネとイズナの攻撃が直撃しながらも、怪物は腕の様な太い肉塊を二人にぶつける。
シロガネ「ぐはっ!!」
イズナ「きゃあぁっ!!」
アカガネ「オォォォ……ウゥゥゥ……」
アオガネ「アァァァ……アァァァ……」
シロガネ「な、なんて、力だ……! 歯が立たぬ……」
イズナ「このままでは……!!」
その時、遠くに置いた駕籠が光を放った。
シロガネ「!?」
イズナ「か、駕籠が……クニツナ様が!」
シロガネ「なんだ……」
紛れもなく、クニツナの声が高らかに響き渡る。
クニツナ「転装! 鬼丸国綱!!」
ミツヨ「……クニ、ツナ……?」
やがて、闘神の姿をしたクニツナが、怪物の前に現れる。
クニツナ「……何処だ? 此処……まぁいいや。少なくとも、お前は倒さなきゃいけねぇってのは、わかるぜ。山おばけ」
アカガネ「アァァァ!」
クニツナ「我が闘神は鬼を装い、猛き力で邪を祓わん。然して振るうは破邪顕正、汝が邪鬼を善鬼が正す!」
アオガネ「オォォォ!」
クニツナ「行くぜっ!」
イズナ「あの姿は、一体……」
クニツナ「はっ! やっ! おっとぉ!」
アカガネ「グゥウッ!?」
クニツナ「まだまだまだぁあ!」
アオガネ「オアアッ!」
怪物の攻撃を避け、いなし、全く寄せ付けないクニツナ。
シロガネ「見ているだけでも伝わる、あの力……彼は――」
アカガネ「ガアアア!」
クニツナ「……なんだかよくわかんねぇけど……悲しんでんのか……お前」
アオガネ「グウウウ!」
クニツナ「お前もだ……わかった……今、楽にしてやる……それが、お前たちの望みなら」
アカガネ「カアッ!」
クニツナ「破邪顕正、鬼神双合拳っっ!!!」
アカガネ「アァァァ!!」
アオガネ「ウオォォ!!」
怪物が消し飛ぶ中、ゆっくりと二つの光が、天に昇っていく。
それはやがて、往時のアカガネとアオガネに変わる。
アオガネ「……鬼の鎧を纏いし武者よ。世話になった」
クニツナ「あんた達の“声”を聴いただけだよ」
アカガネ「有り難い……願わくばそこの狐に伝えよ『また逢おう』とな」
クニツナ「狐? アイツかな……良いぜ……元気でな」
アオガネ「うむ。さらばだ」
アカガネ「往こう、アオガネ」
アオガネ「あぁ……」
クニツナ「……」
消えゆくアカガネとアオガネ。
シロガネ「……何という力……」
イズナ「闘神……」
ミツヨ「ク、ニ……ツナ……」
クニツナ「これが……俺の力……闘神……!」
拳を突き上げるクニツナ。
場転。
ネタバの隠れ家。
怒りの余り、扇を割るネタバ。
ネタバ「闘神だと……!? クックックック……ハッハッハッハッハッ!! 面白い! 大変に興味深いぞ。手駒は減ったが、俄然面白くなってきた……神の力か……それこそ、私に相応しい代物だ……フフフフフ……ハッハッハッハッハッ!!」
高らかに笑うネタバ。
その様子を陰ながら覗き込むヨキ。
第十三話に続く。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。
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