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天下五剣  作者: きりまさ
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13/18

第十三話「散華。情を尽くして、愛に殉じて」

 《読まれる前に》

 配信等で使用される場合は「作者名〔きりまさ〕」「使用台本の名前〔例 天下五剣第十三話 等〕」「使用台本のURL」を明記の上、ご使用ください。

 詳細は台本規約(http://kirimasamixer.blog.fc2.com/blog-entry-97.html)をご覧ください。


男:2 ムネチカ、ヒルコ

女:2 クガネ、アワシマ

不:2 ツネツグ、モロハ


 ツネツグは少年の為、モロハは性別不詳の為不問としています。

 がんばればムネチカもヒルコも不問にでき、女声2不問4の比率で芝居可能です。


《配役表》(コピペしてお使いください)

ツネツグ〈49〉:

ムネチカ〈44〉:

ヒルコ〈41〉:

クガネ〈26〉:

モロハ〈25〉:

アワシマ〈12〉:



《前回までのあらすじ》

 時は幻想戦国時代。『闘身とうしん』という力を扱う者がいた。

 隠密集おんみつしゅう古備前こびぜん」の五人の忍『五金いつつがね』のアオガネ、アカガネは無間衆八逆鬼むげんしゅうはちぎゃっきのネタバに操られていた。

 同じ『五金』のシロガネは、傷つきながらも二人の成仏を願い、自ら決着をつけたはずだったが、ネタバの術によって、アオガネ、アカガネは恐ろしい怪物へと変貌する。

 絶体絶命の窮地を救ったのは、眠りから覚めたクニツナであった!

 闘神とうじんの力を見せつけるクニツナ。

 一方その頃、ツネツグとクガネらはヒルコの騙し討ちを受け、危機に陥っていた。

 そこに颯爽と現れたのは、紛れもなく、ヤスツナの一番弟子、囚われていたはずのムネチカであった……!!

 山中。その中でぽかりと広がった原っぱ。

 睨み合いが続く、ヒルコとムネチカ。

 しかしながら既に十何合と打ち合っており、互いにじっとりと汗をかいている。。

 近くには手傷を負ったツネツグとクガネが事の成り行きを見守っている。

 モロハ、距離を置いて立っている。その顔には混乱の色が混じっている様子。


ヒルコ「……」


ムネチカ「……何合なんごう打ったかな」


ヒルコ「減らず口を……ハアッ!」


ムネチカ「死のあしなど効かぬ!」


 ヒルコ、死の葦をムネチカに差し向ける。


ヒルコ「はああああっ!!」


ムネチカ「『三日月』ぃ!」


ヒルコ「フッ、いつ見ても美しいよその能力! ――壊したいくらいにね」


ムネチカ「ふっ! はっ、はあっ! せいっ!」


 襲い掛かってくる葦を悉く斬り伏せる。


ヒルコ「ならば! 『三日月』!」


ムネチカ「水面みなもの月――だがひどく濁っている。偽りの三日月」


ヒルコ「そして、『童子切どうじぎり』!」


ムネチカ「挙げ句、兄さんの――」


 回想。


ヤスツナ「ムネチカ」


ムネチカ「はい、兄さん」


ヤスツナ「お前に教えてやれることは、もう俺にはない。お前は闘身の本質を見極め、今もなお――俺の手の及ばない領域にまで闘身と共に成長していっとる」


ムネチカ「……」


ヤスツナ「これよりは広く諸国を巡り、見聞を広め、己の闘身を高めよ。そしてその力をあまね衆生しゅじょうの為につかうのだ」


ムネチカ「承知しました、兄さん」


ヤスツナ「その手形代わりといってはなんだが――」


ムネチカ「はっ」


ヤスツナ「俺と手合わせをしてはもらえぬか」


ムネチカ「……」


ヤスツナ「これは師のめいではない。友としての、ムネチカへの頼みだ」


ムネチカ「友として――」


ヤスツナ「俺にはな、ムネチカ、再戦を誓っている好敵手ともがいる」


ムネチカ「好敵手とも――」


ヤスツナ「俺は再び奴とあいまみえるだろう――その時の為に、俺も強く在らねばならぬのだ」


ムネチカ「その者とは」


ヤスツナ「カネヒラ。俺と同じ闘身使いだ」


ムネチカ「カネヒラ……」


ヤスツナ「良いかムネチカ。手加減は無用だ。俺を殺すつもりで来い」


ムネチカ「言われずとも」


ヤスツナ「フッ――そうでなくてはな」


 やがて二人、道場内から表へと出る。

 月の光が燦然と輝き、二人の下に影を落とすほどである。


ムネチカ「兄さん――初めてあなたが私に教えてくれた言葉、憶えてらっしゃいますか」


ヤスツナ「たわけ。俺がお前たちに、何遍言ぅとると思っとる」


ムネチカ「フフ……“闘身は、刀だ”」


 抜刀するムネチカ。

 『三日月』を抜いた為、その身が淡く光り輝く。


ヤスツナ「“刀は侍の魂”」


 ヤスツナもまた、『童子切』を抜く。

 淡い光の刀身が閃く。


ムネチカ「“侍の魂は”」


ヤスツナ「“お前の魂だ”!」


 互いに駆け出し、刀を合わせる二人。

 回想終了。


ムネチカ「兄さんの『童子切どうじぎり』を――兄さんの魂を、お前がく資格は無い!」


ヒルコ「ぐちぐちといい加減うるさいんだよ!!!」


 キィン、と、ムネチカの刀とヒルコの童子切が打ち合う。


ツネツグ「……兄上」


クガネ「くっ……この傷では」


ツネツグ「見守る事しか、できないのか……!?」


ムネチカ「せぇいっ!」


ヒルコ「はあっ! やっ! ちぇえいっ!!」


 ムネチカ、ヒルコに対して横一閃に斬りかかる。

 ヒルコ、その刀を弾く。

 弾かれた体勢を利用し、回転しながらヒルコになおも斬りかかるムネチカ。

 それを刀で受け、左脚でもってムネチカを蹴り上げる。


ムネチカ「させるかっ!」


ヒルコ「くうぅ!?」


 その脚をバック転の要領で躱すムネチカ。

 その軽快な動きにヒルコが怯む。


ムネチカ「もらった!」


ヒルコ「どちらが?」


 不敵な笑みを浮かべるヒルコ。

 死の葦がムネチカを殴打する。


ムネチカ「しまっ――ぐはぁ!」


ツネツグ「兄上っ!」


ヒルコ「ほぉ。並の人間なら、頭蓋ずがいが砕けているというのに――さすがだよ、『三日月』――ムネチカ」


ムネチカ「くっ……おのれぇ!」


 ムネチカ、死の葦を斬り裂く。


ヒルコ「さぁさぁ今度はこちらの番だよ!」


 ヒルコ、袈裟に斬りかからんとす。

 二合打ち合うと、鍔迫り合いの状態になる。


ムネチカ「くっ、う、ぬああっ!」


 弾くムネチカ。

 死の葦をなおも繰り出すヒルコ。

 向かってくる葦を斬り飛ばしていくムネチカ。


ヒルコ「それそれそれ、斬ってみせてくれムネチカ!」


ムネチカ「小癪なぁ!!」


 ムネチカとヒルコの打ち合いに動けずに居る者が一人。

 モロハである。


モロハ「……なんだ……私は、ムネチカ様が戦っている相手を、知っている……ヒルコ……無間衆むげんしゅう八逆鬼はちぎゃっきろくぎゃく謀叛むほんのヒルコ……何故だ? 私は、ムネチカ様の――」


 突如として喀血するモロハ。


モロハ「ぐ……げほっ……!! これは血……何故だ……私は、私は、誰なんだ……私は、モロハ――フツ様に、フツ様に、この身を……」


 モロハの独白。

 モロハの記憶が、往時の記憶が呼び起こされる。


モロハ「フツ様、この度はお引立て頂きまして、誠恐縮の極み――この上は、全身全霊をもってフツ様のお役に立ちましょう」


モロハ「フツ様。こちらが、フツ様にあだなす者たちの首にございます――はい。残党もすぐに殲滅せんめつできましょう」


モロハ「鬼……で、ございますか。ヨキとタツキ……フツ様の命とあらば、共に行動いたしましょう」


モロハ「無間衆むげんしゅう八逆鬼はちぎゃっき――素晴らしい案にございます。フツ様」


モロハ「ムネチカ――この者が、フツ様の欲する者にございますれば……」


 独白終了。

 ムネチカ、隙を見せたヒルコを蹴り飛ばし、追い詰める。


ムネチカ「はあっ!」


ヒルコ「げはっ!! ――くっ!?」


 ヒルコの首筋に、ムネチカの刀が肉迫している。


ムネチカ「……勝負あったな」


ヒルコ「……」


モロハ「そうだ……何故ムネチカが此処ここに居る……ムネチカ様はフツ様に――何をしてるんだいモロハ……」


 モロハの眼中に、ツネツグが飛び込む。

 ニタリと笑うモロハ。

 ツネツグに悪寒が走る。


ツネツグ「……!!」


ムネチカ「!? まさか“新月しんげつ”が――まずい! ツネツグ! その者から離れよ!」


ツネツグ「くうっ!?」


モロハ「遅いんだよ!!」


 モロハ、ツネツグを抱え、その首に『長光』を向ける。


クガネ「しまった!」


ツネツグ「うわっ!? ……ぐ」


ムネチカ「……モロハ」


ツネツグ「くっ……」


モロハ「……ムネ、チカ……アタシに、何をしたんだい」


ムネチカ「……」


モロハ「ハッ……この際何だっていいよ。この子の首を飛ばしたくなかったら、黙って刀を下しな」


ムネチカ「……」


モロハ「早く!!」


クガネ「……」


モロハ「アンタも動くんじゃないよ! ――本当に殺すよ」


クガネ「くそっ……」


ムネチカ「……よい。下ろそう。ツネツグを放してやってくれ」


モロハ「ククク……」


ツネツグ「いけませぬ! ムネチカ様!」


ムネチカ「!?」


ツネツグ「今、無間衆を止められるのは、義兄にいさんの他にはムネチカ様だけです! 私の様な者の為に刀を下してはなりませぬ! ヒルコにとどめをお刺しください!」


ムネチカ「ツネツグ」


ツネツグ「ムネチカ様! お願いです! 無間衆むげんしゅうを――兄上の仇を取ってください……!」


ムネチカ「!? ――まさか、兄さん……」


モロハ「くぬっ……このクソ坊主! 余計な口を叩くんじゃねぇ!!」


ツネツグ「ムネチカ様ぁぁぁあああっ!!」


ムネチカ「……うあああああっ!!」


ヒルコ「ぐぅううあああっ!!」


 ムネチカ、ヒルコの首を斬り飛ばす。


モロハ「ぐっ……!! 『長光』ぅうううう!!!」


クガネ「させるかぁあああっ!!!」


 モロハの長光が変形し、ツネツグを穿とうとする。

 クガネ、瞬時に手裏剣を投げつけ、モロハに手傷を負わせる。


モロハ「ぐっ!!?? この、女……!!」


 体勢が崩れ、ツネツグが地に転がる。


ツネツグ「数珠、丸ぅ!!」


モロハ「喰らうかよぉおっ!!」


 ツネツグ、死力を尽くして数珠丸を繰り出す。

 数珠丸、手に持った短刀で長光を刺突する。


ツネツグ「この、おぉ……!!」


モロハ「ぐ、う、うああっ!」


ツネツグ「がはっ!?」


 数珠丸の短刀が刺さりつつも、長光は数珠丸を蹴り飛ばす。


モロハ「闘身ごと、串刺しにしてやる!!」


ツネツグ「急所が、外れたか……」


 モロハの長光が変形し、巨大な槍となる。

 蹴り飛ばされた数珠丸に引っ張られる様に吹っ飛ぶツネツグ。

 全身の力を振り絞り、駆け出すクガネ。


クガネ「ツネツグ! ……ツネツグぅ!!」


 ツネツグを庇うクガネ。

 彼女の胸に、深々と長光が突き刺さる。

 クガネの血を浴びるツネツグ。


ツネツグ「……クガネ?」


クガネ「がは……」


ツネツグ「クガネぇえええっ!!」


モロハ「こ、この……死にぞこないが!」


クガネ「悪いが……この子は……この子だけ死なせる訳には行かぬのでな……いっこく……けんめぇ……」


モロハ「何をぶつぶつ言ってるんだい……アタシの『長光』に触れるんじゃないよ!! 放しな!!」


クガネ「一刻懸命いっこくけんめい……我が身をしての者滅せよ……費命必罰ひめいひつばつ、結び劫火ごうかの陣!!」


 クガネの手から火の手が上がり、瞬く間に長光に引火。

 モロハごと悉く焼き尽す。


モロハ「!? そんな、アタシの『長光』が! ――あああああっ!!!」


クガネ「我が身と共に……燃え尽きよおおおおおおおっ!!」


モロハ「ああああああああっ!!」


ツネツグ「クガネぇえええええっ!!!」


 ツネツグ、数珠丸を使って長光からクガネを斬り放す。


モロハ「あああっ! ぐあああっ!!! ああっ……が……」


 なおも燃えるモロハの悲鳴はやがて小さくなる。


クガネ「これで、良い……良いのじゃ……これで……」


ツネツグ「クガネ! 駄目だ!! クガネ!! 死んじゃダメだ!!」


 ツネツグ、自身の着物で必死の消火作業をする。


クガネ「……ツネツグ」


 クガネの手先や脚から毛が生じる。


ツネツグ「クガネ? これは――」


クガネ「にゃははは……すまんのぉ、ツネツグ。母は、母ではないし、実は人でもないのじゃ……今に元の姿に戻ろうて……」


ツネツグ「クガネ……」


クガネ「ワシの正体は犬神刑部いぬがみぎょうぶの子孫……狸、変化狸へんげだぬきじゃ……でもな、ツネツグ……ワシは、お前を本当の子の様に想って育て、今日まで守ってきたつもりじゃ……命を賭けてお前を守れて、ワシは、満足なんじゃよ? ……」


ツネツグ「それ以上……喋らないで……お願いだから、生きて……母さん!」


クガネ「……ツネツグ……ワシの、愛する……」


ツネツグ「か、母さん……母さん……母さん!!」


クガネ「……」


 クガネの身体がやがて縮まり、衣服に包まれる形で、鮮血に塗れた大狸が現れる。


ムネチカ「……ツネツグ」


ツネツグ「うわああああああああああああっっっ!!!」


 ツネツグの悲痛な声が響き渡る。


ムネチカ「!! ……危ないツネツグ!!」


ヒルコ「しゃあああああっ!!!」


 死んだと思われたヒルコの咆哮と共に、死の葦がツネツグ目がけ襲い掛かる。


ムネチカ「はああああっ!!」


 気合一声、大きく振りかぶり、死の葦を一刀両断にする。


ツネツグ「!? ム、ムネチカ様!」


ムネチカ「な、何故だ……」


ヒルコ「あぁあ、僕の首をブッ飛ばしてくれちゃって……困るなぁ……でも、これぐらいじゃ僕は死なないよ」


ツネツグ「……」


ヒルコ「そこのメス狸と同じてつになってはなはだ不愉快だけど、僕の正体も教えてあげよう……僕の正体は」


ムネチカ「!? まさか」


ヒルコ「ヒルコノカミ」


ツネツグ「!?」


ヒルコ「君たちだったら分かるかなぁ? その昔、イザナギとイザナミの長子ちょうしとして生まれながら、脚が立たなかったからと海に流され、生まれた子にすら数えてもらえなかった呪われし神だよ。君たち人間という存在を超越した神様なんだよ!」


 ヒルコの身体から煙が立つ。

 やがてその身は葦で編まれた人形に変わる。

 その中央に、顔だけのヒルコが現れる。


ムネチカ「なんということだ……すると」


ヒルコ「ひゃはははははっ! そうさ! 僕に『闘身』なんてものはない! 全ては僕の力!! 僕が闘身を持っている様に見せていただけさ!」


ツネツグ「それが、お前のからくり……」


ヒルコ「あの時だって、僕は僕の神の力だけで以て、この国にやってきた……何十年、何百年とかけてね! 全ては! 復讐の為!! 我が子を捨てた父と母! そいつらが生み出した国を! メチャクチャにしてやる為に!!」


ムネチカ「無間衆は、こんな奴を仲間にしていたのか……」


ツネツグ「神……」


ヒルコ「僕もね、シノギと一緒さ。無間衆だとか何だとか関係ないんだよ。復讐さえできればね。でも、ムネチカ、君は別だ……君だけは丁重に僕が殺してあげよう!」


ムネチカ「くっ……」


 ヒルコ、葦で自分の身を包む。


ヒルコ「行くぞ行くぞ行くぞムネチカぁ!!」


ムネチカ「先程よりも更に、ヒルコの力を感じる! どうりで見えない訳だ! ヒルコは闘身使いではないのだから!」


ヒルコ「ムネチカ。君のその力は本当に興味深いよ……どうして人間なんていう下劣な存在でありながら、『三日月』の様な力を持ち合わせる? フツ様だってそうだ……闘身っていうのは、何なんだい?」


ムネチカ「邪神じゃしんに教える道理などない!」


ヒルコ「なら君の魂に直接聞いてやる! 黄泉の底へぶち落としてからねぇ!!」


 ヒルコの攻撃が更に激化する。


ムネチカ「しまった!? ぐわああっ!!」


ツネツグ「ムネチカ様!!」


ヒルコ「邪魔だぁあっ!」


ツネツグ「ぐわっ!」


ムネチカ「ツネツグ!」


ヒルコ「そうだこの際だ……! 君の力、限界まで引き出させてあげるよ! 愛する兄弟が、目の前で死んだとしたら、どうなるかな?」


ムネチカ「!? させるかああっ!!」


ヒルコ「遅いな遅いな遅いなあああっ!!??」


ツネツグ「これまで、か……」


ムネチカ「ツネツグぅううっ!!!」


 一瞬、時が止まったかのような感覚がした。

 死の葦が、ツネツグの胸に触れる形で留まっている。

 苦悶の表情を浮かべるヒルコ。


ツネツグ「……」


ヒルコ「なぜだ……なぜ貫けない!!??」


 その時、ツネツグの胸からほのかな光がこぼれる。

 ツネツグ、胸元から“ある物”を取り出す。


ツネツグ「これは……シノギさんの、お守り……」


ヒルコ「な、なんだ、この光は!?」


 徐々に輝きを増す光。

 やがて、優しく温かな声が聞こえてくる。


アワシマ「もう……やめて……」


ヒルコ「!? その声は――」


アワシマ「もう……やめましょう、兄様……」


ツネツグ「め、女神……?」


ヒルコ「アワシマ……!!」


ムネチカ「女神、アワシマノカミ――ヒルコの妹と言われ、ヒルコと同じく、海に流された不遇の神……!?」


アワシマ「兄様……やっと、やっと貴方を見つけることができました……」


ヒルコ「生きていたのか……」


アワシマ「えぇ……海に流された私もまた、私の力で以て我が身を勾玉まがたまに封じ込めることに成功しました……いつか、あなたの下に辿り着く為に」


ヒルコ「……」


アワシマ「兄様……復讐は、復讐しか生みません……仮にこの国を滅ぼしたとて、いつか貴方も復讐をされます……その連鎖を繰り返してはなりません……」


ヒルコ「では、僕は死ねば良かったのか!?」


アワシマ「そうではありません……我々は神です……時代は変わったのです。今は人が人を治める世。我々神は人の世の平和を願い、次代を紡ぐ手助けをする時代なのです……それが父上、母上の子孫であるのなら尚更――」


ヒルコ「なら、どうして僕は……僕は」


アワシマ「兄様……今は、私がおります。あなたの辛さ、悲しさ、憤り、怒り……すべてこのアワシマが引き受けます……どうか、争いをお止め下さい」


ヒルコ「アワシマ……」


ムネチカ「ヒルコの、葦が……」


 ヒルコの葦が解け、萎れていく。

 やがてヒルコの本体だけが宙に浮き、やがてアワシマに抱かれる形となる。


アワシマ「兄様……行きましょう……父上、母上も許してくれます……」


ヒルコ「僕は、許されるのか」


アワシマ「えぇ、兄様……」


ヒルコ「アワシマ……」


ツネツグ「ヒルコが、天へ……」


 アワシマ、こちらを振り返る。


アワシマ「心清らかな人の子よ……ありがとうございました。あなたのおかげ――いえ、ここまで私を連れてきてくれた全ての人に、私は感謝いたします」


ツネツグ「……」


 アワシマの隣に煙の様なものが渦巻いたかと思うと、クガネの幻が現れる。


クガネ「ツネツグ……」


ツネツグ「!? 母さん!?」


アワシマ「この者もまた、私が天へとお連れいたします。そのくらいのことしかできませぬこと、お許しください」


クガネ「今まで、ありがとう……」


ツネツグ「……母さん……僕も、僕も、母さんのこと――」


クガネ「ふふ……」


アワシマ「さようなら、皆様……さようなら」


 天に召される、ヒルコ、アワシマ、そしてクガネ。


ムネチカ「……」


 そして残される、ムネチカとツネツグ。


ツネツグ「母さん……大好きだよ……母さん」


ムネチカ「ツネツグ……」


ツネツグ「ムネチカ様……少し、時間をくれませんか?」


ムネチカ「時間……?」


ツネツグ「見よう見まねですが、母さんを弔ってあげたいのです。できる事なら、ムネチカ様にもお手伝い頂きたく……」


ムネチカ「……喜んで、その旨に応えよう。手伝うぞ、ツネツグ」


 ツネツグ、握り締めていた手を解く。

 そこには光を失いつつも、勾玉が日の光を照り返していた。


ツネツグ「……シノギさん……ありがとう……シノギさんも、僕を、守ってくれて……」


 天を仰ぐツネツグ。

 一筋の涙が、ツネツグの頬を滑り落ちた。


 回想。

 舞台は十数年前に遡る。

 ツネツグを負ぶっているクガネ、子守唄を唄っている。

 寝苦しそうな顔をしている、幼き頃のツネツグ。


クガネ「ねーんねーん……ころーりーよー……おこーろーりーよー……ぼうやーはー……よいーこーだ……ねんねーしーなー……」


ツネツグ「んう、母上ぇ……」


クガネ「んー? なーんじゃ、まだ寝ておらんのかー?」


ツネツグ「おんぶ……やぁだー」


クガネ「んー? だっこがよいのか」


ツネツグ「うん……」


クガネ「よいぞ……ワシも、ツネツグの顔を見れるから、だっこの方が好きじゃぞー?」


 クガネ、負ぶい紐を解き、ツネツグを抱きすくめる。


ツネツグ「もぉ一回……ねーんねーん……」


クガネ「お唄か? 良いぞ……」


ツネツグ「へへ……」


クガネ「フフ……ねーんねーん……ころーりーよー……おこーろーりーよー……ぼうやーはー……よいーこーだ……ねんねーしーなー……ねーんねーのー……おもーりーは……どこーへーいった……あのーやーまー……こーえて……さとーへーいったー……」


ツネツグ「……すぅ……すぅ……」


クガネ「ふふふ……おやすみ、ツネツグ……」


 母の愛は、永久に。

 回想終了。


 第十四話へ続く。

最後までお読みくださいましてありがとうございました。

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