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銀世界の花の海で少女は散る  作者: 廃墟無
第三章 水上国家クリュスタ

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19 分岐点2 新たな人生

「信頼できる者を殺す――最後の条件、完了だよ」


波音が遠くなる。雪はやまず、白に沈む視界の中で、その声だけが妙に鮮明に響いた。


「あぁ……エマ・カルディアか」


名を呼ぶと同時に、胸の奥で何かが軋む。返ってくるはずのない応答を、まだどこかで待っている自分がいる。


「ふふ、反応うっすいね。でもいいよ、それ。余計なものが削げてきた証拠だし」


軽い調子で言いながら、彼女は一歩、また一歩と距離を詰める。雪を踏む音さえ、なぜか耳に残らない。


「それよりさ――条件は満たした。だから次は、ご褒美の時間。ほら、眷属になろ?」


「……はぁ」


(もう、それでもいいのかもしれない)


視線の先、花に埋もれた場所に、さっきまで確かに在ったものの気配が残っている。触れれば壊れる幻のように、記憶だけがやけに鮮やかだ。


(全部、背負って進む? このまま?)


胸の奥で、否定が鈍く脈打つ。


(違うだろ……そんなこと、仲間を殺して惨めったらしくしてる俺にできるわけがない)


足元がぐらつく。立っているのか、沈んでいるのかも分からない。


「ほら、はやく。迷ってる顔してるよ? それ、すっごく邪魔」


くすくすと笑う声が、妙に近い。


「逃げるなら今だよ。まだ戻れる側にいるから」


「……逃げない」


脳裏に、雪の中で笑っていた少女の顔がよぎる。花の色と、血の色が重なる。


(――やめろ)


掴みかけたそれを、強引に振り払う。今ここで手を伸ばせば、きっと壊れるのは自分の方だ。


「ーー契約するーー」


言葉が落ちる。


「ーー俺は、お前の眷属になるよーー」


静寂が一瞬だけ場を満たし、そのあとで、楽しげな息がこぼれた。


「あはっ……いいね、それ。すっごくいい!」


エマは満足そうに声を上げると、今まで隠していた姿を現す。その見た目は以前見たものと全く同じものだ。


目の前に現れたエマはメリアの額に指を当てる。


「じゃあさ――その記憶、いらないよね?」


「……は?待て……それは――」


言い切る前に、視界の端で花の色が滲む。雪が強くなる。白が、すべてを塗りつぶしていく。


「――ほら、いらないでしょ?」


その囁きと同時に、何かが、静かに剥がれ落ちた。


ーーー


メリアの黒紺色だった髪は、内側から侵食されるようにゆっくりと色を失い、やがて光を吸い込むような漆黒へと塗り替えられていく。その変化の名残を刻むかのように、襟足だけが血を滲ませたような深紅へと染まり、静かに揺れた。


瞳もまた同様に、水色の澄んだ輝きを手放しどこか乾いた光を宿した琥珀色へと変質していた。


耳から目元へかけての頬に、ひび割れたような深紅の刻みが浮かび上がる。乾いた亀裂のようなそれは血を思わせる色で肌に定着し、その間に赤い手甲の鎧が音もなく崩れ、いつの間にか剥き出しの腕へと変わっていた。


その変わった腕はすぐさま変化し指先は真紅に染まり上がり、その異様な変質は止まることなく、手の甲から腕へと静かに侵食していく。


ーーー


「……角は出ないんだ。理由は分からないけど――まあ、いいか」


興味なさげに呟いてから、くすりと笑う。


「生まれ変わったね、メリア」


「どこだここ…俺は、何して、鍵、閉めたっけか」


「記憶のない君に教えてあげるよ。君は私の弟でもあり、眷属だ。」


「眷、属?」


「あぁそうだとも、なんせ私達は吸血鬼だからね!君の腕を見れば、分かるだろう?」


気色の悪い形をした模様が俺の腕に付いている。見れば見るほど気分が悪くなりそうだ。


「なぁ、俺の姉なら知っているだろ。俺の名前、おしえてくれ。」


「君の名前はメリ…いや、リア・カルディア・ストリクスだ。

そして私はエマ・カルディア・ストリクス。」


「随分とかわいい名前だな俺の名前。」


「君にあっているよリア。」


「…そうかい。」


「メリア!!」


エマと名乗る俺の姉に当たる人物…吸血鬼と話をしていると、知らない名前を叫ぶ女の子が駆け寄ってきた。


「誰だ?」


「彼女は君を殺そうとした 敵だ。」


「…でも、泣いてるぞ。」


「リアを殺し損ねたことを悔やんでいるんだ。殺される前に逃げよ」


「…あぁ。」


そのままメリア、リアはエマに身を委ね、遥か遠くへと駆けつけたモチとブルシアの元から飛んで行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


薄暗い洞窟の中。


「ここは?」


「実験場の様なものだ。君には今からそこに捕らえた人間の男を殺してもらう。」


「何でだ?殺人は、その、ダメだろ。」


「世界の常識を知らないリアに私が君に唯一の常識を教えてあげよう。」


「この世界では、殺人は善なんだ。」


「そう、なのか…?」


「ただねぇ。身内や同族を殺されたら恨まれる。恨まれたら復讐の連鎖が起きる。それを止めることは誰にもできないんだ。」


「何…を言っているんだ?。」


洗脳をかけられてると感じたリアは後ずさりをする。


「スゥー」


目の前に立つランタンを持った姉、エマは小さく息を吸い、吐く。まるで今から必ず覚えて欲しいことを言うかのように。


「私達は世界を滅ぼす事を目的としているんだ。

その為だったら何でもする。

私達の仲間や家族は人間に滅ぼされたんだよね。なら、私達が人間、世界を滅ぼす事をするのは当然でしょ?ね?」


「…でも、人間以外も居るんだろ?この世界には。」


「私達、吸血鬼みたいな亜種や魔人は確かにいる。でもその者達も皆人間を恨んで居るんだよ。

さぁそこにいる人間を殺して」


そう胸を手に当てられ、耳元で囁かれると、俺は自然と落ちている石に手を伸ばし、捕まっている男の方に歩き出していた。


そして


俺は気付いたら男の頭に石を振りかざしていた。


鈍い音が聞こえる。

男の悲鳴が聞こえる。

だが、力が弱かったのか、俺がまだ人を殺す事に抵抗があるのか分からないが、男の頭から血は出ていない。


これじゃ駄目だ。殺せない。そう思って周囲を見渡し、俺は丁度いい、狂気になり得るものを探った。ただそこには木の枝か掌サイズの石しか落ちていない。


まあこれでもいいか。


そう思い、男から少し離れた場所にある木の枝を拾い上げ、再び男に近づいていく。


「頼む…やめてくれ…俺が何をしたって言うんだ……?」


男は掠る声で俺に語りかけてくる。誰かに助けを、俺に赦しを、殺しを中断させるのを、全力でこの男は俺にしようとしてくる。

おそらく、この先何度も聞く台詞だろう。


俺は戸惑い、躊躇してしまった。俺もこの男とは少し違うが、似たような目でエマに視線を送る。その俺の助けに対し、エマは冷たく暗い目で俺を見た。


「絶対、殺さなきゃいけないのか、?」


「まだ、覚悟が足りないようだ。リアっこっちに来なさい。」


「?はい。」


何故だか分からないが俺は冷たい、敵意にも近い目で俺を見てきた姉に抵抗することも無く近づいた。


「何を?」


「私の目を見て。私の言葉を聞いて。」


「…はい。」


「あれは私達同族を殺した人間の仲間。

私達が殺さなきゃいけない人間なんだよ。

さっき言った私達の目的を忘れた訳じゃないよね?リア・カルディア・ストリクス?」


「大丈夫、だ。覚えている、覚えているとも。

俺の名前はリア・カルディア・ストリクスで、あいつは世界と共に滅ぼさなきゃいけない人間。だ。」


肩を捕まれ、真紅に染まった輝きのない目でエマはこちらを見てくる。

なんともまあ悲しい目だ。覚悟の決まった目でもある。


暫く見惚れていると、肩を回され、ニンゲンの方に振り向かされた。


「さぁ、殺しなさい。」


脳に響く、心地よい声だ。

そう考えていると、俺は気付いたら歩き出していた。再び落とした木の枝を広い、1歩、1歩と足を動かす。


男はまだ諦めてないのか叫び、喚き散らかしている。

ただ、俺にはその声が聞こえなかった。否響かなかったのだ。

どうでもいい声、

どうでもいい言葉、

うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい。早く、速くこいつを殺して黙らさなければ、


木の枝を強く握り、男の顎を手でもち顔を上にあげ、突き刺す。今度はしっかりと男から血が出てきた。

これで安心だ。

ただ、まだ男の喚きは止まない。

殺し損ねたんだ。


俺は突き刺した木の枝を捻り時計の針を回すようゆっくりと何かを探るように回す。

そうすると男は笑い始めた。狂気に狂ったかと思いながらさらに突き刺す。

10秒も経たない内に、男の喉からコリッという音が聞こえた。

それと同時に男の声は完全に止んだ。


なのに、笑い声は止まない。それに笑い声は2つも聞こえる。誰だ?誰の声だ。

これは俺の笑い声か。もうひとつは後ろから聞こえるからおそらくエマのだろう。


気持ちいい、が気持ち悪い。喉を潰す感覚は自分の喉にも来るものがある。

ただ、男の首からドクドクと溢れ出る血を見ると、どうでも良くなってきた。


「ハァッ///!最高だよリア!それを君にやって欲しかったんだ!!どうだい?今の感覚は!」


先程までの冷たい目と声とは違い、色っぽい高笑いをした後に聞いてくる。


「はっはっはっ、なんで俺が笑ってるのが分かんねえや。」


「そうかい、それでいい、おめでとう。と、言いたいところだが、その男は残念な事にまだ生きている。」


乾いた声は止み、静かな声に変わる、互いに笑いあった2人の間には歪な関係が築かれていくのが分かる。

そう感じながらも、殺し損ねた事を反省していると


「気にしないでいいよ。それに、このぐらいが試すには丁度良い。」


「試すって?」


「君の力だよリア。リアは私の眷属なんだ。力が扱えなきゃ駄目なのは当然だろう?」


「それも、そうだな。ところで俺の力っていうのは何なんだ?」


「腕を見ただけじゃ分かりにくいか。

…君の力、君の魔術は血液操作だ。」


「魔術、血液…。格好いいな。」


「でしょでしょ?でも、この魔術は人によって性質が変わるから、あまり期待しない方がいいかな。よし

さぁ、説明は済んだ、その男に自分の血を飲ましてくれたまえ。」


「はい」


自分の力、魔術というものをしっかりと理解すると、何と無く腕も身体に馴染んできたのが分かった。

そう思い、男に近づき、首に刺さっていた木の枝を抜き、今度は自分の腕に刺してみる。だが、何度刺しても血は一滴も出ない。


「…何でだ。」


俺の力が足りないのか、単純にやり方が間違ってるのか分からない、難しい、歯で自分の手の甲を噛んでみるがそれでも血は出ない。


「…こっちに来なさい、リア。」


暫く葛藤していると、エマが喋りかけてきた。おそらく、中々血を出さない俺に対して、焦れったいとでも思ったのだろう。


近づいた俺は問いかける。


「どうすれば、いいんだ?。」


その問いかけに対してエマは行動で答える。俺の身体を引き、抱き寄せる。

姉に対して感じるこの感情は何なのだろうか。気持ち悪い、この劣情はとても姉に対して思う感情じゃないと分かっている。分かっているはずだ。

そう悩んでいると、エマは気が付かせないよう優しい手つきで俺の身体を支え、俺の肩を噛んでいた。


血を吸われ、抜かれていく。

不思議な事に痛みは感じない。


「…手を。」


そうエマに言われ、両手でお椀を作るようにし両手を差し出す。


「…ん。」


差し出した手に、エマは俺の血液をゆっくりと吐き出した。

その血は美しい赤色で、さながら今の情景はワイングラスに醸造酒を注いでいるようだ。

ただ、まあ。現実はそんなに綺麗なものじゃないが。


俺は手に溜まった血液を溢れないようにし、ゆっくりと再び男に近づき始めた。何度往復を続けてだろう。

ただ、それももう終わるだろう。

今から確実にこの男を殺す。


男の顎を引き上げ、血液を垂らす、数滴、零れ、自分の服に着くのが少し気持ち悪いと感じながらもゆっくりとゆっくりと注ぐ。


「上手く入らないな…。

というか、刺した部分から少し溢れてる…。」


刺した影響か、食道に血液が通ってはいるが、貫通したの首から、気道や外に俺の血液が溢れ出る。


男の声帯は潰れていたと思っていたが。ニンゲンといのうは意外としぶといようで、完全には潰れていなく、微かに咳き込む声が聞こえた。


俺と男には、少し身長差があり血液を注ぐのも一苦労だった。

それに対しての少しの怒りもあるが、男が咳き込んだ時に着いた唾がさらに怒りに拍車をかけた。同族を殺された怒りとは別のものだ。

速くこの男を殺さねば。


「しっかりと、胃に入ったようだね。

次は目を閉じて、意識を探ってみて欲しい。」


そう後ろで少し口角を上げ、微笑んでいるエマが言う。

俺はそれに従い、目を閉じ、意識というものを探ってみる。


感じる、1つは目の前の少し下。

2つは後ろの方。3つは俺の心臓部分からだろうか。


「今感じたのが意識というものだ。おそらく、3つ見つかっただろう?1つ目は私の口元から、2つ目は自分の服から、3つ目はその男の胃から。

次はその意識に感情を乗せ、爆発させてくれ。」


そう言い、エマは自分の口元に着いた俺の血をハンカチで拭き取り、投げ捨てる。


俺は目を閉じ、再び意識を探り、感情を乗せ、爆発させた。

爆発させ、目を開けてみると、落ちたハンカチと、男の腹から、大きさに相違がある奇妙な血でできた棘が生えてきていた。

恐らく、それは男の胃から直接腹の肉を突き破り、生えてきたのだろう。


それを見ると、段々感情が高ぶって来るのを感じた。


これが、俺の魔術…力か。

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