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銀世界の花の海で少女は散る  作者: 廃墟無
第三章 水上国家クリュスタ

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17 星の軌跡を刻む者

「まさか……魔王本人が来たのか!?それも……一人で!!」


驚愕で思考が空白になるがその考えは押し殺す。


「……いいや、考えている場合じゃない!」


レーネ・クリュスタは逡巡を切り捨て、前へ踏み込む。紺青の魔力が拳へと収束し、凝縮された一撃が一直線に放たれる。


――直撃。確かな手応えがあったが、魔王は微動だにしない。


衝撃を受けたはずの身体は揺らぎすら見せず、むしろその瞬間を待っていたかのように無造作に拳を振り返す。

その拳には先程レーネが纏っていたものとは質の異なる、深紅の魔力が体内を駆け巡っており、まるで生き物のように蠢きながら禍々しさを放っていた。


「――ッ!」


激突の直後、レーネの身体が弾かれる。十メートル近く吹き飛ばされながらも歯を食いしばり、どうにか踏み留まる。


「レーネさん!」


「モチ……だったかな。ぐっ……いいか、君はアルストロメリアと逃げなさい……!」


苦痛を押し殺しながら絞り出されたその言葉に迷いはなく、モチは即座に駆け出しメリアへと向かうが、その瞬間、魔王の視線が僅かに動いた。


次の刹那、先刻とは異なる挙動で大剣が振るわれる。


「――ッ!」


反応すら許されない一閃が迫る…が、


「……ふぅー、危ない危ない」


その軌道に割って入る影があり、鈍い衝突音と共に振り下ろされた大剣は受け止められた。


「……誰だ……?」


掠れた声で呟くメリアの視線の先に立っていたのは、ボロボロのローブを羽織り深くフードを被った男であり、その顔は見えないものの、露わになった腕と魔王の一撃を受け止めているという事実だけで、その力量は明白だった。


魔王は一歩距離を取り再び大剣を構えるが、その刃先はレーネへ向けられながらも兜はローブの男を捉えている。


「なぁメリア。二回も助けてやったんだし、俺と契約してくれよぉ」


その声は深く、調子づいた声だった。


「……は?」


状況に追いつけず間の抜けた声を漏らすメリアは腰が抜け立ち上がることもできず、モチがそれを支えながらその場を離れようとするが、


「やめろ!」


メリアは強く抵抗する。


「今ここに魔王がいるんだぞ!ガーベラの、エリオ達の仇が……!止めるな、モチ!!」


「に、逃げようメリアっ!今のメリアじゃ勝てっこない!お願いだから!!」


魔王の魔力を直に受けた影響かモチの感情は大きく揺らぎ、涙を抑えきれないがそれでもメリアを離そうとはせず必死に引こうとする。


「……モチ……」


短く息を吸い、


「……うん。逃げよう、モチ」


その判断はメリアに取って苦痛なものだったがこれの選択が最善と信じ、逃げることを選んだ。


その場で魔の王、人の王、謎の者の三者の位置関係が解れる。

魔王の標的は既にメリアへと移っており、大剣が放り投げられる。


回避は間に合わない。

だが、


「――させるか!」


レーネが倒れたまま落ちていた刀を掴み、そのまま投擲することで刃同士が空中で交錯し軌道が逸れ、本来メリアを貫いていたはずの一撃は地面へと突き刺さった。



魔王は武器を失った隙を見逃さず、謎の男は間髪入れず腰に携えていた白剣を引き抜き、そのまま魔王の腹部へと突き込む。


だが、兜越しでも分かるほどに魔王の表情は揺らがず、刺突を受けながらも何かを見極めるかのように白剣へと手を添え、静かに謎の男を見据えた。


「貴様、やはり神か」


「神……?」


レーネには、その言葉に覚えがあった。魔王の言を信じるなら、目の前にいる存在は月に一度の頻度で水上国家を襲う野良の神――この世界に絶無と空虚をもたらした虚無の神、あるいは万物に感覚と情を与えた感情の神、そのいずれかに該当する。


(……感情の神だった場合は厄介だな。激怒や喪失の側面を引き当てられれば、拙では対処しきれない……)


「……名も亡き神、それが俺の名だ」


「魔王クローバー……」


「水上国家の王、レーネ・クリュスタ」


名乗りが交差した瞬間、闘技場跡地に三色の軌跡が刻まれる。それは星の残光にも似た美しさを帯びながらも、無数に絡み合い、火花を散らし続ける異様な現象だった。


十秒。


その均衡を、魔王クローバーの魔術が破壊する。軌跡は崩壊し、レーネは体力の限界により膝を崩し、名も亡き神はその余波で両腕を削がれる。


「な……領域を破壊した!?」


「マジックエリア。お前の領域は見た」


(まさか……見よう見まねで領域を再現し、相殺したというのか!?)


想定外。領域というものを領域で攻略するなど、本来あり得ない手段で魔王はこの場を支配していた構造を崩したのだ。


レーネが周囲を見渡した時、既に神の姿は消えており、その場に残っているのは自分と魔王のみだった。


魔王の大剣が静かにレーネを捉え、振り下ろされる。


「……時間だ」


――そうなる、はずだった。

だが、魔王は言葉を残したまま踵を返し、風だけを残してその場から姿を消す。


「……ぐっ、完敗か…。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


吐き出すようにそう零し、レーネは崩れた体勢のまま空を仰ぐ。張り詰めていた緊張が一気に解け、指先から力が抜けていくのを感じた。


静寂。先程まで三者が激突していたとは思えないほど、闘技場跡地には風の音だけが残されている。


「……終わった、のか」


自問に近い呟きは誰にも届かない。ただ、確かに残っているのは敗北という結果だけだった。

そう嘆き、やがて、重い身体を引きずるようにして立ち上がる。


(神も消え、魔王も退いた……だが、これで終わりではないな)


視線を落とす。砕けた地面、焼け焦げた痕跡、そしてかつて闘技場だった場所の残骸。


「……守りきれなかったか」


短く、しかし確かに悔恨を滲ませる。

その時だった。


「レーネ!!」


遠くから響く声。


反射的に顔を上げると、瓦礫の向こうから駆けてくる影が見えた。

その姿が視界に写ると僅かに安堵が混じる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「キシフォス!お前も無事だったか!」


「あぁ。メリアも、その腕……以外は無事そうで何よりだ」


再会の言葉は軽いが、その裏にある緊張は消えていない。


「それより呼び方……」


「ん?何だ?」


無人島からの脱出から数日。状況は落ち着いたように見えて、実際には何一つ解決していない。

ふとメリアは周囲を見渡す。復元された街並みは違和感しかなかった。


「……にしても、速いよなぁ」


爆破に巻き込まれたはずの街は、まるで何事もなかったかのように既に再生している。


「これも魔道具の影響なのか?」


「そうだな。この国が今も在り続ける理由はそれにある。前にも話したか?」


「覚えてないな。それより、俺も魔道具が欲しいんだけど」


「?もう持っているだろう」


メリアがキシフォスに指差された先、それは王位決定戦で配布された刀だった。


「そういえば……王位決定戦はどうなるんだ?」


「順当にいけば私の負けか、あるいは再試合だな」


その返答を聞いた後、メリアは一瞬だけ視線を落とし、静かに言う。


「……正直、俺は辞退しようと思ってる。モチには悪いと思ってるが、あいつはもう十分だ。俺も……もう戦わなくていい」


その言葉を聞き、キシフォスはわずかに眉を動かす。


「?どうしたんだ急に」


「次は……たぶん、お前か俺が死ぬ。俺は、お前を殺したくない。……疲れたんだ」



間を置き、メリアははっきりと言い切る。

静寂が2人を包むが、それをすぐさま破ったのはキシフォスだった。


「……ふむ」


短く息を吐き、


「メリア、お前は何故私が負けると断定している」


キシフォスの声色が僅かに変わる。


「魔術ありならともかく、無しならお前は私に勝てない。絶対だ。自分を上だと思うな、自惚れるなよ、アルストロメリア」


冷たい言葉が深くメリアに刺さる。

壊れかけの心にはそれは重く辛いものだ。


「……辞退するなら、勝手にしろ」


それだけを残し、キシフォスは背を向ける。

残されたメリアは何も言えずにいる。


(……当然、か)


拳を握りの重さを噛み締める。

理解している。怒らせたのは自分だ。だが――


「……」


それでもなお、胸の奥に残る感情は消えなかった。


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