この先も果たして生きていけるのかは
『がんばれ! 負けるな!』
人間はこういう時、ついそんなことを口にしてしまうのかもしれない。けれど現実は非情だ。そんな想いがまったく届かないことは珍しくない。むしろそれが届くことの方が珍しいからこそ、物語として成立するのかもしれない。
そしてここではそう上手くはいかなかった。ヒト蛇の爪がパルディアの左の太腿を大きく切り裂く。
「ギャアッッ!!」
悲鳴が漏れ、左足が確実にまともに動かなくなる。筋肉そのものがいくつも断裂したようだ。ここまででギリギリだったのだから、もはや決着はついたも同然だっただろう。
けれど、それでもパルディアは諦めない。諦めないが、それは、
『親子共々生き延びる』
ということを諦めていないという意味ではなかったようだ。
「グアアッッ!!」
パルディアの母親は我が子の首根っこを掴み、渾身の力を込めて放り投げた、極力遠くへと。
「ギャッ!?」
突然のことに子供も悲鳴を上げるものの、何とか木の枝に捉まる。捉まって母親の下に戻ろうとする。なのに母親は、そんな我が子に向かって、
「ガアアーッッ!!」
と、
『貴様を食い殺す!!』
と言わんばかりの恐ろしい形相で睨み付け、吠えた。
「ヒギャッ!!」
子供はその気迫に恐れをなし、一目散に逃げ始める。逃げて、すぐに姿が見えなくなる。
ロクに動かなくなった左足を引きずりながらもヒト蛇の攻撃を何とか躱していた母親は我が子の姿が見えなくなったことに安心したのか、一瞬、ホッとしたような表情になった。
直後、ヒト蛇の右腕がパルディアの母親の首を捕らえ、同時に肉も気道も脛骨も一まとめに握り潰した。
「ッッ!!」
悲鳴すら上げられず、パルディアの母親は死んだ。壊れた人形のように頭が力なくぐわんぐわんと振られて、目は虚空を見詰める。
弛緩した体はじゃあと小便を漏らすが、ヒト蛇はそれすらお構いなしでパルディアの肩口に食らい付き、貪り始める。
この母親が逃がした子は、まだ一歳にも満たない、ようやく少しずつ狩りの練習を始めて昆虫やトカゲのような小動物が捕まえられるようになったばかりだった。そんな子供が母親を失いこの先も果たして生きていけるのかは、まったく分からない。
だが、そんな形で早々に親を喪った個体がすべてすぐに死ぬかと言われると、実は必ずしもそうではなかった。
母親は命を落としたが、子にはまだ生き延びる機会は、あまりにも頼りなく細いそれでしかなかったにせよ、残されたのだ。この幼いパルディアが実際に生き延びられるかどうかは、また別の話である。




