歴戦のアラクネ
<歴戦のヒト蜘蛛>は、ヒト蛇を前に一歩も引かなかった。それどころか、圧倒さえしてみせた。
けれど、ヒト蛇もまったく怯まない。木々に容赦なく叩きつけられても、戦意が衰えない。
そんなヒト蛇に、ヒト蜘蛛も激しく攻撃性を見せ、振り回し叩き付け続ける。胴を絡ませようとしてくれば本体側の脚で蹴り飛ばして絡みつかせず、やはり振り回す。
絡みつかれれば非常に危険であることを察しているのだろう。事実、ヒト蛇の力であればヒト蜘蛛を絞め殺すこともできてしまうのは明白だった。ゆえに絡みつかれればそれはヒト蜘蛛の敗北を意味するのだと思われる。
だからひたすら振り回し木々に叩き付けることでダメージを与えていくことを考えているのかもしれない。知能は決して高くないヒト蜘蛛だが、その辺りの<戦闘センス>のようなものは飛び抜けている可能性は高い。
中でもそういう部分が優れている個体だからこそ、生き延びていられるのだろう。
しかし同時に、全力で動き続けているヒト蜘蛛の呼吸が乱れ始める。対して、ヒト蛇の方は、多少は動きも鈍っている印象もないわけではないものの、ヒト蜘蛛ほどは疲れている印象もない。
むしろ、ヒト蜘蛛の方が生物としては当然の反応だった。
「グウウッ!!」
いくら木に叩き付けても蹴りを食らわせても目に見えてダメージを受けている印象がないヒト蛇に、さすがのヒト蜘蛛も表情が険しくなる。それまでの凶暴なそれではなくて、苦みきった渋い表情だ。するとヒト蜘蛛は、
「ガアアーッッ!!」
最後の力を振り絞るように吠えながら猛然と回転し、その勢いでヒト蛇を空中高く放り上げた。と同時に、脇目もふらずにその場から脱兎のごとく逃げ去る。
これまた、野生の動物としては当然の反応だっただろう。勝てないと判断すれば逃げる。ヒト蜘蛛のような強大な猛獣であってもそうだ。第一義は自分が生き延びることであって、敵に勝利することじゃない。勝ちきれず逃げるチャンスがあるならためらわず逃げる。
<誇り>など糞の役にも立たないのだから。
こうして空中高く放り投げられたヒト蛇だったが、木々の枝に自身の体を絡みつかせて衝撃を緩和。地面へと戻った。
とは言え、あのヒト蜘蛛の姿はすでにない。となればいちいち気にもしない。たまたま目の前にいて逃げ遅れたチップ竜をすかさず握り潰して殺し、口へと放り込み、バリバリと嚙み砕きながら前進。さらに密林の奥へと進む。
すると今度は、アサシン竜と鉢合わせたのだった。




