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肉体のピーク。強さのピーク

アクシーズの母親から受けた傷は、しっかりと(ばん)の頬に残った。普通に人間の女性なら気にするものだろうが、彼は当然、そんなものは気にしない。それ以外にも、全身の傷はさらに増えていた。


それこそもう、


『傷がないところはない』


というレベルで。


毒ヘビに噛まれた部分も一部が壊死したことで削げ落ちて醜い傷痕になっている。また、毒で動けなくなった時にボクサー竜(ボクサー)に噛まれた左腕の傷も、しっかりと残っている。バドが蹴り飛ばして引きはがしてくれたが、その際にざっくりと肉が抉られたのだ。傷そのものは治っても、これといって適切な治療も受けていないから外見上までは綺麗には治らない。


ゆえに、


<全身におびただしい傷を負った、逞しい全裸の美女>


という風情だった。しかし、くどいようだが(ばん)自身はあくまで<雄>である。


そして、バドが現れてからすでに一年が経過していた。


だが、どれほど強くても、生き物は必ずいつか衰える。最強を誇ろうとも、それが永遠に続くことはない。


(ばん)も例外ではなかった。


圧倒的な強者としての空気はまといつつも、バドが得るデータからは、確実に(ばん)の肉体のピークは過ぎ去っていることが見て取れた。


当面はまだ大きな影響はないかもしれないが、人間のように技術的に医療的にアンチエイジングを図るということがないため、衰えはこの後、一気に進むだろう。


実を言うと、バドが来た時には一般的なヒト蜘蛛(アラクネ)の基準ではもう(ばん)の肉体的なピークはとうに過ぎていたのだ。けれど、(ばん)はその常識を覆し、


<肉体のピーク>≠<強さのピーク>


を実現してみせたのである。一般的なヒト蜘蛛(アラクネ)の場合、<肉体のピーク>≒<強さのピーク>であるにも拘わらず。


それもまた、(ばん)という個体の特異性を現していただろう。


だからこそ、(ばん)の雰囲気はなおも<覇王>のそれであり、他を寄せ付けなかった。


そしてそんな彼を、遠くから見ている者がいた。ヒト蜘蛛(アラクネ)だ。(ばん)では登れない細い枝の上に陣取って、見下ろしている。


アベルだった。明らかに大きさはこれまでと違っているが、<人間のようにも見える部分>の顔立ちは間違いなくアベルのそれであり、しかし、少し精悍さも増していて、成長しているのが分かる。彼もまた、生き延びていたのだ。


ただ、アベルが主に行動している地域は、完全に(ばん)の縄張りと大部分が重なっていた。今はまだ(ばん)が登れない立ち入れない位置に陣取れることで衝突せずに済んでいるが、アベルが成長すれば確実に縄張りを巡って殺し合うことになるだろう。


成長期であり、これから強さのピークを迎えていくアベル。


対して、これからは衰えていくだけの(ばん)


それぞれがこれからどうなるかも、バドは見届けることになるのだろう。



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