メンテナンス
洗浄室に入ったバドにスチームが浴びせられる。その勢いにより、体にまとわりついていた獣の毛や植物の繊維がどんどんと洗い落とされていく。
が、さすがにそのままでは排水口が詰まるので、バド自身がそれを拾い上げて備え付けられていたメッシュ生地の袋に詰める。
こうしてかなり綺麗にはなったものの、さすがにスチームだけでは<新品同然>とはいかなかった。いかなかったが、別に人間の前に展示するわけでもないので、そこまで磨き上げる必要もない。
それから、劣化していたプラスティック製らしきカバーを交換。機体を詳細にスキャンして、元々消耗品であるカバー以外の各部品の摩耗や変形を測定。問題がないことを確認すると、一体のロボットが、枯れ草をまとめたようなものを運んできた。
そのロボットは、ドーベルマンMPMではなかった。最小限の機能だけを備えたロボットに見えるドーベルマンMPMよりもさらに簡易な印象のある、それどころか、見方によっては、子供がお菓子の箱を組み合わせて作った手作りロボットのようにさえ思える、実に拙い感じのロボットだった。動き自体がぎこちなくて、本当に子供の玩具のようにも見える。
<ホビットMk-Ⅰ>
それがこのロボットの名前だった。実は、ドーベルマンMPMを作るための資材が枯渇することが明らかになったのを受け、現時点で用意できる素材を用いてドーベルマンMPMに近い機能を持つロボットを再現しようとして作られた<試作品>だった。いずれはこのホビットMk-Ⅰを基にしたロボットに置き換えられていくだろう。
つまり、バド達が置かれている状況というのは、そういうことである。
いずれは限界を迎えるかもしれないが、それまでバド達は淡々と自らの役目を果たしていく。それがロボットというものだ。
蛮と違い、バド達は痛みを感じない。苦しまない。悩まない。悲しまない。絶望しない。そして、死なない。いつか機能を停止するとしても、それは生物の<死>とは違う。
だからバド達ドーベルマンMPMも、ホビットMk-Ⅰも、自らが置かれている状況に一切の疑問も不満も持たず、自身の機能が健全である限り、ただ己の役目を果たしていくだけだ。
そして、バドは、ホビットMk-Ⅰが持ってきた<枯れ草の塊>のようなものをまとい、立った。それは、<ギリースーツ>と呼ばれる、主に森林や草原等で周囲に溶け込み身を隠すために用いられる迷彩装備に似た新たな装備だった。
<薄汚れた獣>のようになったバドに馴染んでいた蛮に警戒されないようにという配慮から用意されたものであった。




