蛇のような細長い体をしたもの
「……」
インヴィが自分達を見ていることには気付かず蛮と猪竜は互いに必殺の一撃を繰り出す機会を窺っていた。
やはり体を小刻みに揺らす蛮と、地面をガリッガリッと足で掻く猪竜。互いに生きるための最善を尽くそうとしている。もっとも、猪竜の側としては、先に蛮の存在に気付いた時点で逃げるのが本当は最善だったはずなのだが、それを選ばないのは猪竜としての習性ということなのかもしれない。
いずれにせよ、こうなってしまった以上は全力を尽くすだけだ。
そして、猪竜が、存分に力を蓄えたのか、ロケット砲のように蛮目掛けて奔った。けれど、蛮にとってそれは全く脅威にはなりえなかったようだ。
ヒト蜘蛛としての本体側の脚で、跳ね上げるように蹴り飛ばす。すると、五十キロはありそうな猪竜の体が、小石のように宙を舞い、木の幹に叩きつけられ、
「ブキャッ!!」
と悲鳴を上げながら地面に落ちた。
「フガッ!! フゴッッ!!」
即死ではなかったものの、明らかにシルエットがおかしくなっている猪竜が、起き上がることもできずにもがく。それぞれの脚の向きもおかしいし、動きもでたらめだ。もはやただ筋肉が反射的に動いているだけでしかないのが分かる。意味のある動きができなくなっているのだ。
そんな猪竜に、蛮がとどめを刺そうとする。
が、その時、
「!?」
蛮が何かを感じ取ったのか、体をわずかに下げた上で、横っ飛びして移動した。すると、移動する直前、体をわずかに下げた瞬間に、<人間のようにも見える部分の髪の毛>が一部、弾け飛ぶようにしてちぎれるのが分かった。
それはちょうど、直前まで蛮の<人間のようにも見える部分の首>があった位置だった。
何者かが、蛮の首を狙って攻撃を仕掛けたのだ。それを彼は察して、身を躱したということである。
「? !?」
身を躱し間合いを取り、攻撃者の正体を確かめようとした蛮は、しかしその姿を目で捉えることができずに困惑する。彼の<流体センサー>である全身に生えた毛は、確かに攻撃者の動きを捉えてその位置もほぼ特定していたのだ。なのにそこには何もいない。
いや、<何か>は、ある。
得体のしれない、蛇のような細長い体をしたものがグネグネと身をよじって空中に浮いているのが見えたのである。しかし、それが今の攻撃を仕掛けたというのがピンとこない。と言うか、蛮の流体センサーが捉えた大まかな形とはあまりに違っていたのである。
彼の感覚からすれば、もっと大きなもののはずだったのだ。
そして彼が改めてそれを見ると、<蛇のような細長い体をしたもの>の周囲に何かが存在しているがようやく分かった。
透明な何かが、<蛇のような細長い体をしたもの>を包んでいるのである。




