その星を掴もうと
森が途切れていることに気付かず全力で飛び出してしまったレトは、空中に放り出されてしまった。わずかに太陽の光が残る空にはすでにいくつかの星が瞬き始めており、彼はその星を掴もうとするかのように手を伸ばした。けれど、当然、そんなものが届くはずもなく、レトは闇へと吸い込まれていく。
さらに、
ザバンッ!!
という音と共に、彼の知らない感覚に陥る。何かが体中にまとわりついて、体が重い。
水だった。水中に落ちたのだ。
パパニアンを含め、<獣人>とも呼べる種を筆頭に、この密林の動物達の中には、大量の水がある場所をひどく恐れる者が少なくない。だから、『水に潜る』という経験がない者も多いのだ。ゆえに、この時のレトも、自分の身に何が起こったのか理解できず、パニックに陥った。
そこは、河だった。パパニアン、ヒト蜘蛛、パルディア、ボクサー竜、猪竜、アサシン竜などが、強く恐れる代表格の場所である。
この密林にはスコールなどの形で強い雨が降ることもあるし、それこそ一跨ぎで越えられるような小さな川はそれほど恐れないので、『水が怖い』というわけではない。とにかく大量に水がある<河>のような場所を、ほとんど本能的に恐れているのである。
なので、『泳ぐ』ということを知らない者も多い。練習すれば泳げないわけではないのだろうが、泳げるほどの場所には近付かないので、泳げるようにはならないのだ。
こうしてレトも、どうすることもできずにただもがくだけだった。
「あっ…! あぶ……ッ! うぶ…あ……!」
何をどうすればまったく分からない。どこかに掴まろうにもどこも掴めない。足もどこにも届かない。浅瀬に落ちたならまだ何とかなっただろうが、なまじ全力で跳躍したことで彼の体では足が届かない深さがあるところに飛び込んでしまったのだ。
何をどうすればいいか分からないものの、彼は足掻いた。とにかく足掻いた。生きるために。死なないために。なのに、足掻けば足掻くほど苦しくなっていく。パニックになっていく。
分からない。
分からない。
なんでこんなことになってしまったのか……
死にたくない。
死にたくない。
生きていたい。
誰か、助けて……
と、その時、
ガㇱッと彼の体を掴む者がいた。
「!?」
瞬間、レトはその<何か>に必死にしがみついた。パニックのままで滅茶苦茶に。
人間の場合、溺れている者を助けようとして近付くと、その溺れている者がパニック状態のまましがみついてくることで助けようとした者まで溺れてしまうことがある。
けれど、この時にレトがしがみついた<何か>は、そんな彼をものともせず抱き上げて、上半身を水の上に起こしたまま猛然と岸に向かって移動してみせたのだった。




