空飛ぶハンター
こうして<天敵の撃退>と<獲物の確保>を同時に成し遂げたアベルは、やはり森殺しの蔓を噛み、水を出させて、それで体を洗った。血塗れだったのがそれで綺麗になっていく。
そして体を洗い終えると、ぶるっと頭を振って水を弾き飛ばし、今度は日が当たる場所に来て、日光浴を始めた。濡れた体を乾かす意味もあるのだろう。
さわさわさわと密林の上を風が撫でていき、アベルも、足場にした枝ごと風に揺られて心地好さそうにしていた。つい今しがた、アサシン竜をバリバリと貪り血塗れになったばかりとは思えないくらいに、あどけない様子にも見える。
それから今度は、ピョンピョンと枝から枝へと飛び跳ね始めた。それはまさに、幼い子供が遊んでいるようにしか見えなかった。
しかし、
「!?」
再びアベルの体に緊張が走り、表情が険しくなる。と同時に、ザっと別の枝へと飛び移った。
直後、彼がいた場所に何かが飛び込んでくる。鋭い爪が枝を捉え、バランスを取るように大きな翼がばさりと宙を掻く。
オレンジ色の羽毛。頭には飾り羽。なのにその体は明らかに人間のシルエット。
<タカ人間>であった。アクシーズがアベルを狙ったのだ。
「シャーッ!!」
獲物をしとめられなかったことに苛立ったのか、アクシーズは歯を剥き出し、アベルを見た。アベルも、
「カーッ!!」
同様に歯を剥き出して威嚇する。
アクシーズも、ヒト蜘蛛の幼体にとっては非常に危険な天敵だった。成体のヒト蜘蛛でさえ、やはり油断をしていれば鋭い爪で喉を掻き切られ命を落とすことだって有り得る猛獣である。
空を飛ぶためか、体は小さく、一見すると十代前半くらいの子供のようにも見えるアクシーズだが、これで十分に成体だった。分かりにくいが微かに胸が膨らんでいるので、どうやら雌のようだ。
翼は持つものの、羽ばたいて飛ぶにはさすがに体が大きすぎるため、基本的にはせいぜい百メートル程度を滑空するだけだが、上手く風を捉えれば十数メートル上空まで舞い上がり、そこから急降下で獲物を捕らえることもある、
<空飛ぶハンター>
だ。
サルのような脚にはナイフのような鋭い鉤爪が生えていて、これに捕らえられると逃れるのは難しい。ただし、爪が邪魔になるので地上を歩くのは得意ではない。それでいて、垂直跳びは三メートルを優に超え、これによって風を捉えて滑空する。
が、今回は獲物に気付かれ躱されてしまったことで諦めたか、枝のしなりも活かして空中高く跳び上がり、翼を広げ、飛び去ってしまった。
アベルはまたも危機を脱したのだ。




