野生動物
ヒト蜘蛛の幼体は、母親の体内で卵から孵った途端に共食いを始めることからも分かる通り、外の世界に出ればすぐに普通の食事を行う。しかも、兄弟姉妹を襲って喰うことで<狩り>というものも学習するのか、自身で獲物を捕らえて食べ始めるのだ。
当然、アベルも、自分で獲物を捕らえて食う。獲物は、小鳥であったり、トカゲやヘビやネズミに似た小動物であったり、昆虫であったりと、取り敢えず手近にいるものなら何でも食べる。この時も、アベルは、枝を這っていた昆虫の幼虫らしきものを捕らえて口に放り込んでいた。もちろんそれだけでは足りず、またすぐ他のトカゲに似た小動物も捕らえて食べた。
人間のようにも見える部分は五歳程度の幼児のようでありながら、その振る舞いはまぎれもなく<野生動物>のそれであり、まごうことなき<捕食者>であった。
しかし、同時に、幼体のうちはヒト蜘蛛であっても、<被捕食者>でもある。この時も、アベルを狙っている者がいた。
異様に長い両腕。真っ黒な体。<アサシン竜>であった。
アサシン竜が、アベルを狙っているのだ。成体のヒト蜘蛛とでは真っ向勝負では勝ち目もないアサシン竜も、ヒト蜘蛛の幼体であれば、真っ向戦っても十分に勝てる可能性はある。その上で、アサシン竜の名の通り、暗殺者のように忍び寄り、殺す。
バドは、アベルが狙われていることを知りながら、敢えて何も干渉しようとはしなかった。基本的には、野生の姿をそのまま記録するのが、与えられた役目だからだ。
もしこれでアベルが命を落とすとしても、バドは干渉しないし感傷も覚えない。
ロボットであるがゆえに。
しかし……
しかし、幼体と言えど仮にもヒト蜘蛛。音もたてずに襲い掛ったはずのアサシン竜に気付き、アベルは逆にその両手を掴んで引き寄せつつ頭に容赦のない蹴りを食らわせた。
ベキッ!
濡れた布の中で木の枝でも折ったかのような音が響き、アサシン竜の体がぐったりとぶら下がる。アベルの勝ちであった。普通ならもっと苦戦してもおかしくないはずが、運がよかったのか相手のアサシン竜が未熟だったのか、気持ちいいくらいの完勝と言えただろう。
するとアベルは、アサシン竜の体を抱きかかえ、首筋に喰らい付いた。ぶぢぶぢと歯を立てて肉を喰いちぎり、あぎあぎと噛み、ごぐりと飲み下す。肉を喰いちぎられたところから溢れだす血をんぐんぐと飲み、喉を潤す。と同時に、アベルの体を伝わった血にまみれた可愛らしいものが、また、しょしょしょ~っと<尿のようなもの>を迸らせた。
アサシン竜の血によって水分補給ができたことで、余剰分を排出したのかもしれない。




