記憶
「幸太、お前には話さなければいけないことがある」
「何爺ちゃん?」
「少し、先の未来の話じゃ……」
――なんだ? 過去の記憶……なのか?
俺はこんな記憶は知らない。
忘れているだけなのか。
それにここは爺ちゃんの部屋じゃない、俺の部屋でもない、なにかとても大事なことを……忘れているような。
「今日の爺ちゃんなんか変だよ?」
「そうかのお……いや、そうかもしれん」
爺ちゃんが薄れていく。
いや、過去の記憶が……嫌だ……まってくれ爺ちゃん! 俺を一人にしないでくれ! 爺ちゃんまって……まって!
「――爺ちゃん!」
勢いよく体を起こすと、知らない部屋……いや、どこかで見た部屋のベッドに俺はいた。
「ここは……そうだ、夢だ、夢で見た部屋だ」
――だが、どんな夢だった。
「っう……っぐ……頭が」
夢の内容を思い出そうとすると、頭を鋭い痛みが襲った。
「なんなんだよ――」
「気が付いたみたいだな」
頭を抱える俺の前に白衣を着た女性が現れた。
気が付いたみたいだなってことは、こいつは俺の看病を……治療をしてくれたのか?
見た感じ武装はしてないが、医者なのかこいつは。
「――あんたは誰なんだ」
「そんなに警戒するな。私は医者だ、お前を傷つけたりしない」
言って、ポケットからたばこを出し、俺が寝ているベッドの横の椅子に座った。
「お姉さんが俺の治療をしたのか」
「お! 私の事をお姉さんだなんて。お前、なかなか見る目あるな」
その時、俺は何か違和感をおぼえた。
どこかで聞いたことのある声、どこかでした事のある話。
俺とお姉さんは一度会った事がある、そんな気がした。
「――お姉さんが俺を治療したって事でいいんだな」
「ああそうだ」
俺にお姉さんと言われたのが嬉しかったのか、満面の笑みで返事をした。
「それと、俺とお姉さんって前にどこかで会った事あるか?」
「――今はもう、覚えていないか」
やっぱり、昔どこかで会ってるんだ。
「いったいどこで、どこで俺とお姉さんは――」
「五年前。ちょうどお前、幸太の家族が殺される、一週間前だ」
一週間前? 一週間前は確か、家でミヤと居たはずだ。
「一週間前はミヤと二人で家に居たはずだ。いったい何を言ってるんだ」
「覚えてないのも無理はないわ。だって、荒海幸太、お前の記憶は偽物の記憶なんだから」