第十八話〜実頼を継ぐ者〜
天禄二年十一月二日、私は右大弁と参議に任ぜられた。位階も従四位下に上がり、正式に公卿となったのである。
ところで、蔵人頭着任から2年半かそこらで参議入りするのは、正直無理がありそうな昇進である。本来なら時の人がやるような流れだが、下手に敵を作っていたりしないだろうか──いや、多分出来ているだろう。恐ろしい。
「此度の昇進、実にめでたいことですね」
「いやいや頼忠様こそ、右大臣昇進御目出度う存じます」
わざわざ私の屋敷に来て祝ってくれているこの人、何を隠そう藤原頼忠。そう、あの実頼の息子である。この時点で年は確か数えで47、今日から正三位右大臣というとんでもない人である。規定では右大臣の官位相当は正・従二位なので、位階以上に能力を評価された(ことになっている)のである。
「聞けば、父上が大変世話になったそうで。何かご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「いえいえとんでも御座いません。むしろ清慎公様には大層良くして頂きまして……」
嘘は言っていない。言っていないはずだ。来る度来る度に土産物を貰ってるが、自陣営に取り込む賄賂と言うわけではない。安和の変の時に昇進を材料に丸め込まれたように見えただろうが、決して隠蔽に協力したわけではないのだ。
(旦那様、誰に弁解を?)
(心の内の自分、かなぁ? 知らんけど)
違法性があったかどうかはさておき、目にかけてもらっていたのは事実だろう。かの人無くしては今の地位は無かっただろうし、もっと早いうちに謀略か何かで追いやられていたことだろう。
余談だが、私が蔵人頭に任ぜられた際、時平流の藤原元輔が代わりに失脚したらしい。史実では去年辺りに参議だったはずだが、酷いことをした。まあ彼の場合、同家系の人間で最後の公卿だったので遅かれ早かれ衰亡する家だった。仕方ないね。
「……ところで頼忠様──もとい、右大臣……」
「ああ、頼忠で構いませんよ。父上からの関係ですし、そう固くならずに」
「はあ、では頼忠様。此方の壺は一体?」
目の前に並べられているのは、実に見覚えのある複数の壺である。私の予想では調味料の類か何かだと思うが、まさかねぇ?
「胡椒と砂糖です。父上もそうしていたと聞き、挨拶の手土産として持って来ました」
「そりゃまたなんとも…………不躾ながら、他の理由は?」
「嫌ですねぇ、下心なんてありませんよ。決して此方の陣営に取り込むために贈ってるなんて、そんなあからさまなこと言うわけないじゃないですかぁ」
つまり、そういうことなんだろう。頼忠は嘘がつけないタイプではない。すなわちこれは念押しである。新手の。胃が痛い。
「この土産に他意はありません。が、強いて言うならそうですね、父上も食していたという甘味を頂きたいな……なんて、ね?」
あのジジィ、まさか息子に漏らしていたか? 或いは何かしらで頼忠が知っていたか? 何れであったとしても、下手な誤魔化しは良い結果を招かない。
「…………仕方ありません。他の方には、絶対に御内密に……」
こうして私の密かな楽しみは頼忠の腹へ消え、第二の実頼が爆誕することとなった。幸いなるは、実頼ほどの頻度で来るわけではないということか。
「旦那様、結局これ丸め込まれてませんか?」
「おだまり」
美「官位相当ってなんですか?」
義「特定の位階には特定の官職が割り当てられるって制度だね。尤もこれは厳密に守られるわけではなくて、有能なら位階以上の官職が貰えるし、逆もまた然り」
美「では、参議や蔵人頭はどの位階が相当するのですか?」
義「実は、その二つを筆頭に相当が存在しない官職もいくつかある。大体は令外官で規定が無いんだよね」




