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ゼペット村 入村

 「魔王様やばいっす!いきなり村人をこの世から消すなんて大胆っす!」


 ここにきてようやく追い付いてきたピノが、周りを見渡しながら狼狽えておろおろしている。


 「そうだよね。悪い人間が一瞬で蒸発しちゃうなんて、扱いに気を付けなきゃ」


 破邪の剣を再び腰に戻して、改めて地面に転がる甲冑に目をやった。まだ甲冑の内部から少し白い蒸気がのぼっている。近づいてきたピノが屈み込んで甲冑の中を覗き込み「うへえ」と言葉を滲ませた。


 「その剣もやばいっすけど、あっさり人間消して平然としてる魔王様が一番やばいって意味っす!」


 「え!?そうなの?」


 屈んだ姿勢から少年を見上げるピノの目に複雑な感情が宿っていたが、少年は気づかない。それよりも気になった事があったからだ。


 「俺やばい事したならこの剣も触れないはずだよ・・・な?」


 少年は先ほど腰に戻した破邪の剣に今度は恐る恐る手を周し、柄の部分にそっと触れてみた。・・・・特に反応は無いようだ。


 「破邪の剣触れられるから、問題無いみたいだよ」


 少年は胸を撫で下ろした。


 (よこしま)な思いを持つ者や、魔物を浄化する力を持った破邪の剣が反応していない以上、今回の件は問題なしとは結論付けたのだ。


  この時少年の中で、もし自分が悪い事をすれば、破邪の剣の力によって浄化される。つまり破邪の剣が反応しなければ、悪い行為ではない―――― という一つの定義が出来上がったのであった。


 「人間社会のルールが分からない以上、行動の良し悪しを見分けるいい考えだ」


 と、少年が自分の思いつきを自画自賛していると、「魔王様!幸い今誰も居ないっす!早くこの甲冑どうにか隠蔽するっす!」


 ピノがいつの間にか転がっていた兜を拾い上げて、少年に手渡してきた。


 「え?これ隠したほうがいいの?」


 少年はピノから兜を受け取ると、「分かったよ」と、おもむろに腰に携帯してる4次元式小袋に突っ込んだ。さらに床に転がっている大男の甲冑をひょいひょいと拾い上げて小袋の中に入れ始める。

 

 その様子を見て驚きのあまりピノの顎がゴトリと音を立てて外れ、地面に落下した。


 先ほどから小刀などずいぶんいろんな物が入ってるなと思っていたのだが、流石に大きな甲冑が小袋の中にスルスル入っていく光景は普通ではない。ピノは地面に転がっている自分の顎を慌てて拾って戻しながら少年に疑問をぶつけた。


 「しょのきょぶくろどうにゃってりゅっしゅか?」


 「え?」少年が最後の胴周りを小袋に入れながら聞き返した。その間に顎をしっかりとはめ込んで再度ピノが同じ質問を少年にぶつける。


 「その小袋どうなってるっすか?」


 「え?そういう仕様」


 当たり前のように答える少年に、「・・・・さすがっす」ピノは羨望のまなざしを向けて大きく頷いた。


 「ところでピノ、通行手形って持ってる?なんか村に入るのに要るみたいなんだけど」


 「それは当然持ってるっすけど・・・・」


 「けど?」


 「門番消しちゃったんで必要ないっす。今なら自由に入れるっすよ」


 「あ、そうなの?じゃあ入ろう!」


  少年は颯爽と村の入口をくぐり、ついにゼペット村の中へと足を踏み入れた。


 「・・・・これが人間の村か・・・・」少年が感慨深く呟いた。


 眼前には小高い丘が広がっており、丘の上に向かって道が続いている。見上げると丘の上から人の気配が伝わってきた。恐らくゼペット村の人々はそこにいるのだろう。少年の胸は再び昂ぶり、早歩きで丘の上に向かって歩き始めた。一方ピノは今度こそ少年に遅れまいと必死で後ろをついて歩いている。


 「あ!そうだ!」 歩きながら少年がポンと柏手を打った。


 「村の門番消しちゃったから、村の人に新しい門番用意した方がいいよって教えてあげなきゃね!」


 「魔王様お人よしっぽい発言してますけど、それ絶対やっちゃだめっす!!!消しちゃった事は内緒っす!!」


 不満そうな少年に、ピノが再度の念押しをする。


 「今回は潜入しての様子見っす!そんな事したら悪目立ちするっす!!」


 長い鼻で盛り上がった白いマスク姿をした木の魔物の方がよっぽと悪目立ちしそうなもんだが・・・、と思ったが、人間社会の事はピノの方が詳しい。ここはピノの言う事に大人しく従う事にして、「わかった」と短く返事をした。


 「さあ、この丘を登りきればいよいよゼペット村の居住地区っす」


 丘の頂上を目前にしてピノの声のトーンが下がった。緊張感を感じ取った少年は返事をせず黙って頷くと、ついに丘の上に足を踏み入れた。


 「・・・・おお、初めての人間だ」


 足を止めた少年は、感嘆の声をあげた。


 少年の中で、16歳にして初めて自分以外の人間を目にした瞬間であった。


 「なんかさっきの門番の事無かった事になってないっすか?」


 ピノの声を無視して、行き来する村人たちの様子をぐるりと見まわす。そして気が付いた。村人たちが全員何故かこちらを向いて固まっている。


 「え?なんか村人の注目度高くない?」


 「そうっすか?いつもこの村に潜入した時はこんな感じっすよ。みんな見てくるけど、何も言ってこないから大丈夫っす!」


 「・・・・へえ、そうなんだ・・・・」


 少年は乾いた声を喉の奥から絞り出した。よくよく村人の視線を追うと、少年の後ろの黄色い帽子を被った白いマスク男――――ピノに向かっている。うすうすは感じていたが、やっぱりそうかと少年はめまいがした。


 「これ、ばれてるよね」


 「え?うそっす。大丈夫っすよ?」


 ピノはカタカタと音を鳴らして笑ってみせた。しかし心なしかいつものカタカタよりも音が細かい。良く見るとマスクの下がカタカタと震えている。


 「自信無くなってるうううううう!!!!!」少年は力の限り心の中で叫んだ。だが表向きは無表情である。


 「やっぱり一人で来た方が良かったあああああ!!!!!」と心で叫んだあと、「はっ」と我に返り、自分たちに集中する村人たちを再び見やった。これは何とか誤魔化さなくては、潜入もへったくれもない。


 「そうだ!ここはお互い他人って事にしよう!な、ピノ!」


 少年が小声でピノに提案する。残された手段はもうこれしか残っていない。


 「魔王様無理っすよ」


 即座に否定され、「なんでよ!」と少年の声に怒りが宿った。


 「魔王様の額にある『筋肉』の聖痕(スティグマータ)が、僕の聖痕(スティグマータ)と一緒っす!」


 「あ!」


 すっかり忘れていたとばかりに素っ頓狂な声を挙げると思わず額に手をやった。丁度前髪で隠しきれない所にうっすらと、しかしはっきりと『筋肉』の二文字が描かれている。


 「マツオカの野郎!!!」少年の額に落書きをしたピンクの小人の名前を心の中で叫んだ。万策尽きて最早万事休すである。


少年はさりげなく破邪の剣に手を回し、静かに臨戦態勢に入った。


 「・・・・・・・・・・」


 沈黙が数秒続いたのち、少年たちに視線を送る村人たちが一斉に口を開いた。



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