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【Prelude de noir】 7


 方舟を引いて数時間前に離れたばかりの島へと戻ってきた私を、彼はいつものように迎えた。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「うん、気を付けて」

彼に方舟を引き渡し、そっと手を放す。

 歩き出しかけた彼は思い出したように足を止めて振り返った。

「戻ってきたら、探険の続きな。入り江で待ってて」

了解、とおどけて敬礼をして見せると、彼は軽く手を上げて応える。

 その姿が闇に消えると、私は敬礼していた手を下ろしてふと空を見上げた。

「……気の、せい?」

空に浮かぶ月の光が、どこかくすんだように見えて私はふと首をかしげる。

 だが、月はいつもと変わらぬ様子でこちらを見下ろしているばかり。

 薄い雲でも流れていったのだろう、と私は思った。


 彼を待つ間に入江へ戻り、私はその昼間とはまるで違う様子に息をのんだ。

 海に反射した月光が入り江の中をぼんやりと照らし、波に合わせてゆらゆらと揺れている。

 それに誘われるように、私は入江の奥へと進んだ。

 もちろん、そこは行き止まりの砂浜で。

 だがその奥には、帰り際に彼と見つけた木製の扉がある。

 今日はここからその奥へと進む予定だ。

 

 ほんの少し、見てみようか。


 そんな好奇心に押され、私は木製の扉に手をかける。

 海風で傷んだ扉は、ギィッと悲鳴のような音を立てて開いた。

 中はもちろん真っ暗で、月明かりすら差し込まない。

 ぼんやりと確認できるのは、そこに数段の段差がありその奥に少し広い踊り場があることと、そこから長い階段が続いているということくらいだ。

「明かりとか、ないのかな……?」

もしかしたら、最初のような明かりのともる仕掛けがあるかもしれない、と私は一段目に足をかけて壁のあたりを調べてみる。

 冷たくてごつごつした壁には、とてもあのような仕掛けは施せそうになかった。

「んー…………っ!?」

もう少し、と二段目に足をかけてさらに上へと手を伸ばした時。


 グラッと、地面が揺れた。


「あっ……!」

ただでさえ不安定だった私の体は突然の揺れに耐えられるわけもなく、そのまま階段へと倒れこむ。

 それと同時に、パリィンッと何がが割れる音とギィッという鈍い音がして。

 バタンッとあかりが途絶え、ガラガラという音がその向こうで響いた。

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