【Rhapsodie en rouge】 7
「そろそろ行くか」
「ん」
俺の言葉に続いて立ち上がった彼女は、パタパタとワンピースの裾を叩く。
それに合わせて、彼女の髪がさらさらと揺れた。
俺らがいた浜辺の方の壁に一か所、朽ちかけた木製の扉があった。
その奥には、上へと向かう階段が続いている。
「明かりは……なさそうだな」
暗い階段にはあの廊下のような松明などはなく、視界は数メートルもきかない。のぼるしかないとはいえ、少しのためらいを覚える。
それに落下してきたときの彼女の様子からして、彼女は暗闇が苦手そうだ。いつ終わるかもわからないこの階段をあかりなしに歩かせるのは、さすがに気が引けた。
「ねぇ、あれ」
そんな俺の心配を知ってか知らずか、彼女は階段を数段上った小さな踊り場を指す。
「ランプじゃない?」
そこにはこれまた朽ちかけた丸椅子があり、その上に四面がガラスでできたランプらしきものがおかれていた。
中にはまだある程度長さの残っているろうそくが倒れている。ガラスは一部が割れてしまっているが、ろうそくは無事なようだ。
「あとは火か」
ろうそくをランプの中に立てて、俺は自然とその先端に手を伸ばしていた。
パッ……と。
「え……?」
俺がその手を離したとき、ろうそくの先にはゆらゆらと小さな炎が揺れていた。
「さすがだね! これで進めるよ!」
彼女はその現象に何の違和感も覚えていないのか、無邪気に喜んでいる。
どうやらこれは、普通らしい。
そういえば、最初に彼女と出会ったときも俺の擦り傷を彼女はあの不思議な力で癒してくれた。
あの力といい、翼といい。
彼女はいったい、何者なのか。
この火といい、俺といい。
俺はいったい、何者なのか。
なぜ俺らは、ここで出会ったのか。
「どうしたの? 早く行こう」
「あ、あぁ……悪い」
浮かび上がるいくつもの疑問を打ち消すような彼女の笑顔に俺はうなずき、片手にランプ、片手には彼女の手を握って暗い階段を上り始めた。




