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【序章】
彼女は、泣いていた。
その紅い瞳に涙をあふれさせながら、それでも俺に刃を向けていた。
そんな姿すら、愛おしい。
「お願いだから……何も思い出さないでっ! このまま……このまま、死んでよっ!」
この期に及んでも、自分はなんて幸せなんだろうとすら、思ってしまう。
「あぁ……いいよ」
だって、彼女は俺のために。
俺のために、俺を殺そうとしてくれているんだから。
愛した人に、そんなに想ってもらえるなんて、幸せ以外の何物でもない。
彼女は一瞬、目を大きく見開いて。
やがて、迷いを振り切るかのように駆け出した。
俺は、そんな彼女を迎えるように。
両手を広げて彼女を待つ。
その手に刃が握られていることも。
それが俺の心臓を貫くということも、わかってる。
それが『罪』を犯した俺らへの『罰』だから。
でも、
俺だって、彼女にあんな思いをしてほしいわけじゃない。
だから、
終わりにしよう。
俺らの愛を、
俺らなりの形で貫いて。




