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金持ち姫の結婚


「ほら、ご覧になって、ルジリア産のルビーですの、こんなに大きくて美しいのは、世界に一つしかないんですって」


「知ってらっしゃる?このお酒は北の大陸から密輸されたものなんです。特別に仕入れましたの」


「綺麗なドレスでしょう?一流デザイナーに作らせましたの、かの有名なヴィストリア夫人のドレスと同じ生地なんです」



誰よりも大きな宝石をつけても、

誰も手に入れられない秘酒を持っていても。

誰もがうらやむドレス着ても、



誰も私を愛してくれない




「あぁぁぁ、もういや!!!」


身に着けていた宝石を投げ散らかす、そのままドレスも脱ごうとするが、どうやら一人では脱げない仕立てらしい。


「あぁぁあ、いらつく!!!」


いら立ちに任せて、一流デザイナーのてがけたドレスを破り捨てようかと思った時、後ろから、淡々とした声が響いた。



「またですか」



柔らかい声音だが、ひどく冷たい印象を持つその声は、ひどく聞き慣れたものだった。


「うるさいわね!!どうせ、また、私は一度も声をかけられなかったわ」


「枕を投げつけないでください」


「貴方も私を馬鹿にしているんでしょ!


「そうですか、ですが、私のいったのは、『また一人で泣いているんですか』という意味です」


クルリと振り返ると、そこにはやはり見慣れた男が見慣れた無表情で立っていた。


「ヨハン…」


幼いころにつけられた、教育係だ。どこかの学校を首席で卒業したらしい。平民出の彼に学費を工面した父のために、たかだか16歳の子供相手に働いているんだ。馬鹿みたい。


「…小言はごめんよ、今は聞いてあげる気分じゃないの」


「ですが、こんなに散らかして、レディとしての品格を疑われます」


「もう!!やめてよ!!あんたの言葉なんて聞きたくない!!」


「その気持ちはお察しいたしますが、私はあなたの教育係ですから」


「じゃあ何?貴方は私を慰めにでも来たの?ばっかじゃない?」


思いっきり侮辱するような言い方をするが、眉一つ動かさない。


「たかだか舞踏会で声かけられなかっただけで、泣く必要がありますか?」


それどころか、一番痛いところをついてくる。


「たかだか?その舞踏会で13歳のデビューから一度も声をかけられたことのない女の子なんて私だけよ。こんなにみっともないことなんてないわ」




「先約がいるんだ。君とは踊れない」


「悪いけど、お酒は飲めないんだ。他の人誘ってくれるかい」


「綺麗なドレスだね。…あ、すまない、友人を待たせているんだ。また今度」


どんな装いをしても、綺麗に着飾っても、誰も私に声をかけてくれなかった。

だから必死になって、声をかけた。

どんなに無様でも、このままでいたくはなかったから。



なんで?

なんで?

なんでなの?


みんながほしがるお金だって持っている、

欲しいものなら何でも、楽しいことならいくつでも、

望みをかなえる力を持っているのに、


なんで、誰も私を見てくれないの!!






のどがかれるほどに、声を荒げても彼はピクリとも動じない。


「そうでしょうね」


それどころかさらりと認めた。一応、私貴方の主人の娘なのに。


「へ」


「こんな真っ赤に泣きはらした目をしている女性に好意を抱く男はいないでしょう」


この減らず口がぁ!!


「うるさいわ!!あんたとしゃべったのが間違いだった。気分が悪い、出て行ってくれる!!」


手当たりしだいのものを投げつけて追い出そうとするが、彼はさらりとよけて、冷淡な声で言った。


「姉上の結婚で焦っていらっしゃるんですか」


「っ!!」


無表情の冷たい視線は変わらない。それが余計に腹立たしい。


「そうよ!!知っているでしょ?ねぇさんはこの大陸で一番大きな国の王様と結婚したのよ。それも、舞踏会で王様のひとめぼれ。山のような求婚者から、いっちばん条件のいい男性を選んだのに!!」



対する、私を見てよ…



ここまで言えば、きっと無神経な彼にも伝わっただろう。無表情のままだが、彼は私の顔を見て、黙っていた。

長い沈黙の後、彼は口を開いた。


「確かに、貴方は姉上のように大きく美しい目はしていませんが、貴方の黒眼はとても大きくてつぶらで、可愛いらしい」


表情一つ変えることなく、彼は淡々と言う。


「この口紅は赤すぎます。年をとって見えます。それに、このドレス。これはもっと大人の女性の着るものです。貴方が着ても滑稽なだけ。髪だって、まっすぐでつやがあるのに、どうして染めてしまうんですか」


それは、


「姉上の真似に何の意味があるのですか?」


さらりと言いあてられると、何も言えなくなる。



「さぁ、手をとってください」


意外になれた様子で手をさし出す彼に、恐る恐るしたがう。


「貴方は歩き方もなっていない。もっとレディはまっすぐに音を立てずに歩くものです。貴方はガサツすぎます」


腕を引かれ、ふわりと手を添えられると、彼は一歩足を踏み出す。


「姫君に似合う化粧やドレスを見つくろいましょう。着こなしも勉強していきましょう」


揺るがないステップ。安定したリードに身を任せる。


「教養も必要です。人生を豊かにしますから」


ものが散乱した部屋。音楽なんてない。


「綺麗な歩き方をお教えしましょう。歩き方一つで雰囲気が変わるのです」


何度練習してきただろう。素敵な王子様に手をひかれて踊る日を夢見て。


「ダンスは及第点ですね。もちろんその指導は苦労ばかりでしたが、貴方はとても上手になりました」


目の前にいるのは、こんな時ですら無表情の男。それなのに、涙がこみ上げてくる。それを必死で押さえて、足を動かす。


「努力をしていきましょう」



「きっとあなたは誰よりも素敵な殿方と結婚するでしょう」




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