第39話 類稀なる命
―俺たちは全員で考え込んでしまい、しばらくの沈黙が流れる。
「・・・いずれにせよ探索されつくした初心者ダンジョンでそのようなものをミコト殿が発見するのも、作為的なものを感じざるを得ませんな。」
確かにあの部屋が崩れるとき、何者かがわざと俺にあの装置を使わせたようなメッセージを残していたことを思い出す。
「・・・ここで考えても仕方ないか。とりあえず職業スキルの欄を見ても【???】のままで確認しようが無いんですが・・・ルカの方はどうだ?」
「んー、自分は盗賊のままになってるっス。ただ、見たこともない派生してて今までのスキルは無くなってるっス。それと・・・なんか転生スキルが発現してるっぽいっス。」
そうなるとやはりルカは見た目や人格こそそのままだが、能力はあの装置に格納されていたデータの人として転生したということなのか。
「専用アイテムを使って判別出来ない以上は、ご自分でその答えを探すしかないでしょう。
ただ恐らくですがお二方は件の装置によって調整されているとすれば、それは数少ない成功例と呼べる存在なのかもしれませんな。」
成功例・・・。言われてみればあの時の画面に写し出された他の人のデータは、暴走の恐れだとか利用価値が無いような記載のされ方をしていた。
つまり命としてこの世界に再現出来ても、後天的に真魔化したり有能なスキルに目覚めることが無ければそれは失敗作と呼べるということか。
(そして俺とルカのような転生者の場合、この世界に生まれた・・・いや、作られた瞬間から存在そのものが類を見ないスキルと適合している者は成功作って訳か。)
「それじゃ、まるで――」
「ほっほっほ。この世界は神々の実験場と呼べるかもしれませんな。」
いやいや笑い事じゃないだろう。命をそんな粗末な扱い方をされて、神の気まぐれで済ませていいことじゃないだろうに。
「何にせよこれでルカも転生者になったということね。すごいわ!ルカっ!!」
ミリアがルカに抱き着き頬を摺り寄せている。
「うぐぐぅ、苦しいっスぅ・・・。」
「ほっほっほ。とりあえずこの後に目的の場所が無ければ、一度王都をお訪ねになられてはいかがですかな?」
王都か。セントリアの王族や貴族が住まうこの国の本拠地にして、聖サントマルク教会の総本山もある場所。
「女王陛下ならば、ペンダントについて何か教えていただけるかもしれませんぞ。私ですら奇貨スキルを封じるアイテムなどついぞ知りませんからな。
・・・スキルを無効化出来る王家伝来の品であるとは思いますが。」
女王と言えばミリアの姉にあたる人物か。確かにペンダントを託した張本人が、何も知らずに託すとは思えないしな。
「とりあえず王都を目指そうと思うけど、ミリアに案内をお願いしてもいいか?」
「ええ、あのペンダントのことは私も気になるから、一度姉さんに会いに行きましょう。この町に来る前に通った転移装置からならすぐ行けるわ。」
するとエリゴールさんが少し難しい顔をして、手元にあった書類を俺たちに見せながら注意を促してきた。
「それなんですがな、現在教会側で調査隊が壊滅したことによりダンジョンと転移装置が一時的に封鎖されたとのお達しがありましてな。」
教会への言い訳はガウスの方でどうにかしてくれたはずだが、やはりAランクが初心者ダンジョンで壊滅するなどあり得ないと判断されたのだろうか。
(もしそうだとしたら、主犯がいると思われていたら厄介だな。)
「教会の人間が訪ねてきてもここでの話やミリシア様のことはお話しませんが、くれぐれも用心してくださいませ。」
俺たちはエリゴールさんにお礼を言って一度ギルドを後にし、急ぎ足で宿に戻った。
「厄介なことになったわね。多分だけど、そんなに時間を置かずに教会の連中がこっち方面に押し寄せるわ。もし怪しい冒険者が居たらすぐにとっ捕まえる気よ。」
「はち合わせしないように進むには、荒野の先にある遺跡群とか廃墟を通り抜けないといけないっスから、相当な遠回りっスね。」
簡単に王都まで行けると思ったが、状況は芳しくないようだ。
トマスがドロップした直剣も縁起が悪いからさっさと売ってしまおうとも思ったが、教会の刻印が入った市場には無いものらしく、迂闊に処分すると疑いをかけられるのでしばらく隠し持つしかなくなってしまった。
とりあえずそそくさと荷物をまとめてから俺たちは町を出て、ひとまずは遺跡群を目指すことにした。
どうやら教会に目を付けられたくないと考える冒険者は俺たちだけでは無いようで、町を出るときは大所帯のパーティかと思うような様相を為していた。
「みんな考えることは同じか・・・。」
「そりゃバザーもダメでダンジョンまで封鎖されたら、この町に居る意味なんて半減どころじゃないっスからねぇ。」
少し後ろめたい気持ちもあったが、元はといえばトマスら教会が非人道な突っ走り方ををしたのが原因なのだからあまり考えないようにしよう。
「おお!皆さんはいつぞやの!!」
声をかけられた方を向くと、そこに居たのは以前助けた行商の人だった。
「そういえば後追いでバザーに行くと言っていましたもんね。もしかして皆さんも出立ですか?」
「ええ、商いのチャンスが悉くダメになってしまいましたからな。やむなく遺跡見物でもしながら王都に戻ろうかと。
もし皆さまがよろしければまたご一緒しましょうか?
食事や寝床は提供しますよ。その代わりと言っては何ですが道中の護衛をお願いできますでしょうか。」
渡りに船とはまさにこのことだ。長い道中、野宿のたびにミリアの文句に付き合ってはいられない。
それにそこそこの人数ならば、夜中の哨戒も容易に危険を察知しやすくなる。
俺と、特にミリアは是非にとお願いして町を後にするのだった――。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




