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異端聖女の魔王領ガラス革命  作者: 月渚


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2. 聖女

 

 石造りの冷んやりとした部屋の中。

 私は魔法陣の中心に座り込み、西洋の貴族や司祭のような格好をした人々に囲まれている。


 ……夢?

 いや、私は夢の中でこんなに鮮やかな色彩を認識できない。

 ならば二択だ。

 酔ってシェイクスピアの演劇舞台に上がり込んでしまったか、アニメでよく見る異世界誘拐か。


 だけど……


 夢じゃないなら現実。

 思考が散らかる。

 だが、状況把握が最優先だ。

 速やかにぐるりと背後まで確認した。

 観客は居ない。



 質問をしたいが先に言葉を発するのはよくない。

 ここまでで三秒程……


 周りで呆けた顔をしていた人々がやっと復活した。


 まだ召喚と決まった訳では――


「……成功だ!」

「聖女様だ!」

「うおおおおおお!」



 ……聖女。

 歓喜に湧く人々とバッチリ目が合っている。


 じわじわと喉の奥が痒くなってきた。


 自分の服、出口、逃走経路、武装した人間の数、外の状況は?――


 一人、魔法陣の縁でしゃがみ込んでいる。具合が悪そうだ。


 少し気になって観察していた瞬間、目の前に手が伸びてきた。

 整った顔立ちの身なりの良い青年。


 見ず知らずの誘拐犯と不必要な接触をする程人肌に飢えてはいないので、自ら立ち上がった。


「よくぞ我が国に降臨してくださった。聖女様」



 無表情で、煮えたぎる怒りを腹の底に沈める。



 別室――

 主要人物らしき人々が名乗っていたが、覚えていない。


「我が国は古より自然災害に多くみまわれ、飢餓や疫病に苦しめられております。しかし、その度に清き聖女様を異界からお迎えし……」

 悪びれる様子もなく誇らしげに語っている。


(ああ、ここも同じか)


 この手の人間に道理を説いても意味は無い。

 意味は無いが……


「若い娘を拉致して、奴隷として働かせる事について思うところはないのでしょうか?」


 一応確認しておく。


「拉致!? 奴隷だと!?」

 正面の青年がわなわなと震え出した。


 フッ。


 逆ギレ文化は万国共通……いや、世界が変わっても同じらしい。


 私は発言するのをやめた。


「本日はゆっくりお休みください」


「では、この国の資料と魔法の本があれば部屋に持ってきて頂けますか?」


 親切な誘拐犯たちの好意を、私の好意で塗り替えて、たった数日の聖女生活が始まった。



 聖女として召喚された私に与えられた部屋は王宮の豪華な一室だった。


 持ってきてくれた資料は全て読み、三時間ほど眠った。

 私の一番快適な睡眠量だ。試行錯誤の結果たどり着いた。

 それ以上寝ると返って生産性が落ちる。


 翌朝――

「今日一日は、王宮内のご案内と魔法や地理、歴史の講義をさせていただく予定でしたが……」


 昨夜のうちに独学で既に終えている。


「ここまで優秀な聖女様は初めてでございます」


「比較対象を存じ上げませんが、私は特に優秀な人間ではありません」


 淡々と事実だけを述べる。


 講義をしてくれるはずの老人の手が震えていることに気がついた。


 私の言葉に怯えている。

 いつものことだ。




 突然、バン! と乱暴に扉が開き、一人の騎士が飛び込んで来た。


「大変です! 王都西側の貴族街で大規模な倒壊事故が起こりました。負傷者多数――」


 言い終わる前に迷わず立ち上がった。

「行きましょう」



「聖女様! アンブローズ伯爵から治療をお願い致します」


 現場はまだめちゃくちゃだった。

 怪我人もあちこちに適当に寝かされている。


(集めるくらい出来なかったか?)


「トリアージします」

「とりあーじ?」


「何を言ってるんだ! 閣下が最優先だ!」


 激昂した騎士が私の腕を強く掴む。

 鬱血した私の腕は誰が治すんだろう?

 鬱血箇所は治癒ではなく、浄化魔法をかけた。


 そして、黙ってその貴族を診察した。


 その後は強引に重傷者から治療し、

 幸い、死者はおらずその場の全ての方を救うことはできた。




 王城へ戻った私は、昨夜作成した提案書を提出した。

 紙束はかなりの厚さだ。


「こちらは?」

 上座に座る男性が紙をぱらぱら捲る。


「この国は聖女召喚によって衰退しています」

 いきなり空気が止まった。

 やはり先に結論を言うのはダメだな。


「災害の度に奇跡に依存し、根本対策を放置しています」


 教会側の男が低い声を出した。

「……聖女様。言葉を慎まれよ」


「さらに召喚術者は使い捨て」

 視線を、あの日魔法陣の前でしゃがみ込んでいた術者の男性へ向ける。

 彼は青白い顔のまま座っていた。


「二度と魔法が使えなくなるようですね?」

 返事はない。

「加えて、国土の魔力を消耗する」


「短期的には救済でしょう。しかし長期的には国力を削り続けている」


「召喚一回分の資源で、河川整備と治療院拡張は十分可能です」


「黙れ!」

 怒声が飛ぶ。


「この国は奇跡を前提に社会を構築している」


 誰かが机を叩いた。


「神への冒涜だ!」


 もっと気が利いたことは言えないのだろうか。


 しかし、彼らは怒っているのではない。

 怖がっている。

 この国の根幹を否定する私を。


 沈黙。


 誰も言葉を返せなかった。

 そして、それが答えだった。

 結論は、その日の夜には出た。

 表向きには、 『聖女様は心身ともに疲弊されている』 という理由で静養が決定。

 実態は隔離。


 もちろん城中の本を読んで過ごした。

 どうせすぐ読めなくなるだろうから。


 案の定、数日後。

 私は“新たな聖女召喚”のため、国外退去を命じられる。

 異端の聖女は不要。


 もっと従順で、 もっと神聖で、 もっと都合のいい聖女が必要なのだ。


 そうして私は、瘴気に汚染された魔王領へ廃棄された。



 いつもと同じ。

 異端。

 それは私には褒め言葉。


 あれ?

 人間に比べたら瘴気の方が扱い易いのでは?


 帰れないなら何して過ごす?

 やはり田舎でスローライフというやつかしら?

 ここ数日の出来事に頭の中で『済』スタンプを押してシュレッダーした。

 さあ、廃棄されよう!



貴重なお時間、お読みいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。

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