神殿日誌〜冒険が始まる前の話〜
ナナが勇者だと発覚する前の話。
ただの怪我の多い魔物ブッコロ狂いの青年冒険者と思われていたころ。
朝方、空がピンクとブルーのグラデーションの帯を引く時間。
神殿の扉を開けて早々、扉の前で小綺麗なナナがいた。
「あ、あの神官さん、おはようございます。いつもありがとうございます。これ魔物倒してる時に生えてるの見つけて拾いました。あげます。」
ナナが今日はボロボロの彼の身ではなく、彼が両手で抱えるほどの新聞紙に包まれた薬草の束を差し出してきた。
「ありがとうございます。助かります。ちょうど足りなくて困っていたので」
いつも血だらけの革鎧姿しか見なかったので今の彼の姿は新鮮だ。
穴ひとつない清潔感あふれる長袖の白シャツと黒いズボンに、黒い靴、真っ黒な手袋をしている。
手袋はよく思春期のやつがするファッション的なやつかな。
「ほう、今日はどこも怪我してませんかね。」
私はナナの顔をじっと見てしまう。
いつもここに来る時は、血だらけで血の気の引いたどこか遠くを見るような顔をしていた。
今日はやけに血色がいい普通の青年の顔をしてる。
「ええ、神官さん。怪我疑ってるんですか。神官さんにかかるような傷なんて負いませんよ」
私はナナが差し出した薬草の束を受け取る。
「これはアロエロアですね。随分と硬いし、葉の周りのトゲも鋭いし。少し危ない薬草ですよ。おい、手を隠して距離取ってるんですか。」
ナナは、私から距離を取り神殿から出ようとした。
「何にも隠してない。神官さん、受け取ってくれてありがとうございます。今日はいつもお世話になってる人たちにお礼の品やお手伝いしないといけないから」
ナナが神殿の外から出ようとする。
私は追いかけて、ナナの腕をガシッと掴んで止める。
「ッツ、いた、くない。」
ナナの腕を触った時、彼は顰めた顔した。
「痛いでしょ!腕と手を見せなさい。見せないのならこの場でその服の袖引きちぎりますよ」
私はナナの服の袖をグッと引っ張る。
「わかりました。」
ナナが手袋を外して袖をまくる。
両手両腕にかけて、細かい赤い薄い皮が張りかけの細かい傷がいくつも入っていた。
思わず手をそわせて触る。
熱い。
顔色がいいように見えたのは熱が出ているせいか。
「今日はゆっくり寝てください。こんなに体ボロボロにして、アロエロアは葉自体に毒を持たなくても、葉の棘が鋭いから危険な薬草なんですよ。
大方持って帰る袋なくて素手で抱えて帰ってきましたね。。
アロエロアもやけに土の匂いしないのは血を洗い流すためによく水場で洗ったからでしょう。そのせいで風邪も引いて」
私の言うことに図星をつかれたナナが固まる。
「さあ、治癒魔法かけてあげましょう。」
私が空いてる手をかざして治癒魔法かけようとすると手を振り払おうとした。
「だめだ。こんな傷は放っておいても勝手に治るからいい。神官さんの治癒魔法かかるとすごく眠くなるから」
ナナは嫌がる仕草を見せる。
「当たり前でしょ。ちゃんと、体を直して、体に負担のかからない魔法ですからね」
私は首を傾げる。
「今日はここの治癒院のベッドで1日過ごしたくない。もっと今日は効率よく動いてみんなと仲良くならないと」
ナナは少し焦った様子だった。
神殿の日時計をみて、余計慌てた様子だった。
「チッ、ここでこんなに時間かける予定なかったのに。このイベント長い。友好度をあげておきたかっただけなのに」
なんか訳わからないことを言っていたが、きっと風邪のせいだろう。
傷だらけの上に長く水に触りすぎたせいだろう。
私は容赦なく治癒魔法をかけて彼を治癒院のベットに寝かせた。
「やだ、ねたくない。みんなと仲良くならないと。家族褒めてもらうの。いい子だったねって」
うわ言を言って寝付きが悪そうだったので、もう一度治癒魔法をかけた。
「あなたは、魔物退治や街周りのパトロールで十分頑張ってるし、信頼されてる。今日ぐらい休みなさい。」
少しでもゆっくり寝てほしいと嘘と毛布をかけた。
私だけだよ。
君を恐れて、敬い避けたりしないのは。
血だらけで傷だらけになっても魔物に立ち向かい狩り続ける姿は一見、健気で家族に対して認めたがり屋な青年だ。
でも、怪我をしながらも一体でも魔物を多く狩って、倒そうとする。
私にはただの死に急ぎにしか見えない。
そんなにあの世の家族に会いたいか。
今生きている人間、私は大切ではないのか。
スースーと寝息を立てて眠るナナを見ながらそう思った。




