帰り道での小さな冒険
遠足もそろそろおしまい――帰り道のバスに揺られ、園児たちは疲れの中にも満足そうな顔をしている。
マオは運転手さんに感謝の一礼をし、まるで陣頭指揮を終えた将のようにバスの後部で子どもたちを見守る。
「……本日の任務、完了間近。しかし油断は禁物……」
そう呟いた直後、窓の外から小さな声がする。
「園長、あれ見て!」とリナ。みんなが指さす先には、ふと立ち止まる古い橋と、その手前で小さな子犬が迷っているのが見えた。
園児たちの目はキラキラ、誰もが「かわいい!」と騒ぐ。だが子犬は怯えていて近づけない。
マオは即座に魔力でやさしく光を灯し、子犬の不安を和らげようとする。が、ほんの少し強めに光らせすぎて、子犬が逆にびっくりして橋の下へ逃げ込む。
「園長ー!子犬が隠れたー!」園児たちが大騒ぎ。サクラが「落ちついて!」と叫ぶ間、マオは胸元の名札を撫でつつ、静かに方針を立てる。
魔王流・低刺激作戦。魔力を極小に絞って、囁くように橋下の暗がりを温め、小さな光の道を作ると、子犬はゆっくりと顔を出した。
ユウトがそっと近づき、優しく手を差し出す。犬は躊躇したのちに鼻を擦り寄せ、園児たちは歓声をあげる。
「園長、すごーい!」リナが抱き上げようとすると、犬の首輪に小さなメモが挟まっているのをミオが見つけた。そこには「迷子のロッコ。見つけたら連絡を」と書かれた電話番号。
マオはすぐ園に連絡、保護者(?)ではなく近所の老婦人の元へとロッコ(仮名)を返すことになった。帰り道、老婦人は涙ぐみながらお礼を言い、園児たちは誇らしげ。
「小さな命も守る。これも園長の仕事だ」マオは胸がじんわり温かくなるのを感じる。
だがそれで終わらないのがこの一行。帰路、バスの脇に植わる桜の低い枝にユウトの帽子が引っかかっているのを見つけたリナが「取りたい!」と大騒ぎ。安全第一でサクラが梯子を出す段取りをするが、魔王は「俺が」とふらりと外へ出る。
「うむ、ここで一発、魔王の仕事ぶりを見せるか」――と、つい魔力で枝をふんわり押し上げようとした結果、桜の花びらが一斉に舞い降り、バスの上にピンクの雪が降るような風景に。園児たちは歓喜。保護者たちは「素敵…!」と感動しながら、魔王の豪快さに拍手を送った。
バス到着、園に帰ってからは小さな報告会。ロッコの出来事、帽子事件、桜の花びらのダンス――どれも「今日のヒーロー話」として夕食の話題になるだろう。
マオは泥だらけの手を見つめ、呟く。
「……支配ではない。守ることの細やかさ、だな」
帰り道の小さな冒険は、魔王の“守護者”としての幅をさらに広げたのだった。




