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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第2章

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第31話 撃退

「これ、美味しいね」


「でしょー! ここのオムライス、卵がトロトロだよ!」


お昼休み、学食ではなく大学近くのカフェに来ていた。木目調の内装と観葉植物が落ち着いた空間を演出している。


目の前では、朝日ちゃんが笑顔でオムライスをすくっている。私はというと、パスタのフォークを持ったまま、ほっとしたように目を細めていた。


やっぱり、彼女と一緒にいると、気が楽になる。


「にしても、星羅ちゃんってマジで顔整いすぎでしょ。なんかもう、こっちが緊張するんだけど」


「そんなこと……」


「あるよ! 入学式の日、光の中から現れたもん。女神かと思った。もう完全に“降臨”だった」


「……ふふ、なにそれ」


「でも、マジで気をつけなよ。変な男呼ぶから」


(……まさにこの前、呼んでしまった)


笑いながら、そんなことを思ってしまった自分がちょっと悔しい。朝日ちゃんに心配かけたくなくて、何も言わなかったけど。


でも。


それでも。


「……ありがとう、朝日ちゃん」


「ん? どうした?」


「なんでもない。ただ、今日一緒にご飯食べてくれて、嬉しいなって」


「まあ、私も楽しいからいいけど……って、ん?」


朝日ちゃんの表情が、一瞬で変わった。笑顔がぴたりと止まり、目だけが鋭くなる。


その目線の先には――見覚えのある男性。


「よぉ、また会ったね」


(……この前と同じ人)


男は、あえて周囲の客に聞こえるくらいの声で話しかけてきた。人目を気にするふりをしながら、楽しんでいるように見える。


「やっぱ一人じゃなかったんだ。でも、せっかく偶然だし、話くらい――」


「は?」


低く、鋭い声がカフェの空気を裂いた。


「ふざけんじゃねえよ、てめぇ」


私は、固まった。


その言葉が、朝日ちゃんの口から出たことが、どうしても信じられなかった。


「おまえ、女に声かける前に、自分の鏡見た? 何回ノーって言われたら分かるわけ? 馬鹿なの?」


男は呆気にとられたように立ち尽くした。


「……なんだよ、お前」


「なんだよじゃねーよ。こっちは“お前が何だよ”って聞いてんだよ、今すぐ消えろ。警備呼ぶぞ?」


その一言に、男の顔色がみるみる変わった。最初は強がっていたのに、周囲の視線に気づいたのか、舌打ちをして、無言で立ち去っていく。


「……」


私の手の中では、フォークが震えていた。


それを見た朝日ちゃんは、溜息まじりに水をひと口飲むと、何事もなかったかのように笑った。


「……ああ、ごめんね、ちょっと口悪かった?」


「……すごくびっくりした」


「だよね〜! ごめんごめん、ああいうの見るとつい素が出ちゃうんだよね〜。でも、ああいうのに遠慮とかいらないから。変な目で見てたし。」




あの視線の動き、空気の違和感、相手の距離の取り方――たしかに、私は全部「慣れているから」と片づけていた。


でも、それは違ったのかもしれない。


「ありがとう、朝日ちゃん」


「なにが?」


「……守ってくれて」


「ふふっ、なに言ってんの?私はただ、友達が嫌な目に遭ってんのにイラついただけよ。ああいう奴、一発殴ってもいいくらいだからね」


「……優しいね」


「えー、優しくはないよ、口悪いし。けど、星羅ちゃんは……たぶん、普通の子より“狙われやすい”って思う。だからマジで気をつけなよ?」


「……うん」


彼女の言葉が、胸にじんわりと沁みていった。


そして、私はふと思う。


――あの時も、そうだった。




(……どうして)


こんなにも誰かに、気にかけられていることに、私はどうしてずっと気づけなかったんだろう。


帰り道、ふとスマホを見ると、未読のままのメッセージが届いていた。


「帰り、迎えに行きます。」


送信時刻は、昼食前。私がその店に入った直後だった。


私は、胸の奥がひどくぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。


怖いとか、嫌だとかじゃない。


ただ――その気配が、あまりに近すぎて。


(……私、いま、誰に見つめられているんだろう)


その夜。


ベッドの中で毛布にくるまりながら、私はまた、思い出していた。


「星羅」


あの一言が、どうしようもなく、頭から離れない。


(……なんでだろう、なんでこんなに……)


胸が苦しくなるのは、きっと風邪なんかじゃない。


それだけは、私にも分かった。

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