種の声…。
早速、家に帰った俺は、自室の片隅に並んだ“推しキャラ植木鉢”の前に座った。
――推しキャラのグッズやイラストをあしらった、俺専用の鉢植え。
正直、観葉植物よりこっちの方が大事だ。
カプセルに入っていた小袋を開けると、黒い種のような塊が出てきた。
妙に冷たくて、手に吸いつくような感触。
嫌な予感はしたが、それ以上に“推しキャラが微笑むガシャポンのイラスト”が俺を突き動かしていた。
ふと、小さな紙切れがもう一枚入っていることに気づいた。
――説明書。
震える指で広げる。
> 一晩、水に浸し、枕元に置いてください。
眠る時は、貴方の推しキャラを強くイメージしましょう。
そして翌朝、植木鉢に植えてください。
そこまでは、まぁ分かる。
だが最後の一文が目に刺さった。
> 注意:あまり甘やかさないこと。
「甘やかさない?」
思わず声に出してしまった。
ガシャポンにしてはあまりに奇妙だ。
でも俺は、好奇心と、そして“推しと出会えるかもしれない”という期待に負けてしまった。
その夜。
小さなボウルに水を張り、黒い種を沈めた。
枕元に置き、目を閉じる。
推しの姿を思い浮かべる。
アニメの中で笑うあの笑顔、元気な声、俺を裏切らない二次元のヒロイン。
……俺の脳裏で、種の表面がぬるりと光った気がした。
深夜。
ふと目が覚めた時。
暗い部屋の中で、枕元のボウルから――小さく、子どもの声のような「……おとうさん……」が聞こえた気がした。