『植木鉢に…。』
翌朝。
俺は目覚めと同時に、昨夜の出来事を思い出した。
種を水に浸し、枕元に置き――そして、あの声。
「……夢だよな」
そう自分に言い聞かせながら、ボウルを覗き込む。
だが、確かに変化はあった。
黒かった種の表面に、赤い筋のような模様が浮かんでいる。
血管のように見えるのは、気のせいか?
俺は震える手で、それを取り出した。
説明書の通り、推しキャラの鉢に埋める。
土をかけ、水を少し注ぐ。
「……頼むぜ。可愛い芽が出てくれよ」
冗談めかして呟いた。
だが、心臓は妙に高鳴っていた。
昨夜の“おとうさん”という声が、耳に残っている。
昼頃。
仕事に出る前に植木鉢を覗くと、もう小さな芽が出ていた。
早すぎる。普通じゃない。
その芽は――細い茎の先に、柔らかな葉を二枚。
だが、その葉が形作るシルエットは、俺の推しキャラの“笑顔”に見えた。
「おおっ……!マジかよ……」
感動のあまり、思わずスマホで写真を撮る。
だがシャッター音が鳴った瞬間、画面に映った葉の影は違っていた。
――笑顔ではなく、泣き顔。
俺は息を呑み、慌ててスマホを下ろした。
現実の芽は、確かに笑っているように見える。
でも写真には、確かに涙を流している。
その時、植木鉢の中から微かに音がした。
土の奥底から、か細い声が震えるように漏れてくる。
「……おとうさん、もっと……水、ちょうだい……」
説明書の注意が、頭をよぎる。
――【あまり甘やかさないこと】。




