episode6 零、現代のスキルを活用する
「異世界といえば……まずは冒険者ギルドでしょ!」
意気揚々と街を歩く零。スーツから冒険者風の衣装に変わったおかげで、周囲に溶け込みやすくなった気がする。
(ていうか、どこにあるのよギルド……異世界って看板ないの!?)
しばらく歩いていると、それっぽい建物が目に入った。くすんだ木製の扉、鉄の看板、なんとなく荒くれ者が出入りしそうな雰囲気……。
「ここだ!」
勢いよくドアを開ける。
――が、中は完全に居酒屋だった。
カウンター席に座る屈強な男たちが、一斉にこちらを睨んでくる。
(やば……完全に間違えた……!)
ごくりと喉を鳴らしながらも、零はなるべく平然を装って店内を見渡す。冒険者っぽい雰囲気の男がいたので、恐る恐る声をかけた。
「すみません、冒険者ギルドってどこですか?」
「はぁ? 教えて欲しいなら、それなりに金がねぇーとなぁ?」
いきなり絡まれる。面倒くさいタイプだ。
「いや、そういうの大丈夫なんで。普通に教えてください」
「はぁ!? 俺はC級冒険者だぞ! お前みてぇな小娘に……」
「……バルガさん、25歳」
「は?」
「ショートツインナイフ使い。左胸に傷。お風呂は……5日に1回。あと、妹さんのために冒険者やってるんですね」
「え、ちょ、待て。なんでそん……」
「妹さん、今12歳。結構年離れてるんですね。えらいです、いい兄です」
「も、もういいっ!! 教えるから!! 黙ってくれぇ!!」
(社畜時代の営業経験、意外と役立つかも♪)
鑑定スキルは予想以上に情報が丸分かりで、脅しには最適だった。
バルガの案内で、ようやく本物の冒険者ギルドへとたどり着いた零。
ギルドの扉を開けると、まさに「それっぽい」光景が広がっていた。
受付には真面目そうな女性、壁にはたくさんの依頼書、奥にはゴツい冒険者たちが笑い声を上げながらくつろいでいる。
(うわ~! まさにファンタジーRPGって感じ! テンション上がる~!!)
鼻息を荒くしながら受付へ駆け寄ると、きちんとした制服に身を包んだ女性が、優しい微笑みを向けてくれた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録希望でしょうか?」
「はいっ、冒険者になりますっ!」
「では、あなたの名前をお願いします」
「金雀涙――……じゃなかった! レイです!“レイ”で!」
危うく本名を言いそうになり、慌てて修正する。ここは異世界。ちょっとくらい馴染まないと。
「レイ様ですね。ではご説明します。冒険者は最初はG級からスタートし、依頼をこなすことでランクを上げていくことができます」
(ふむふむ、ゲームでもよくあるやつね)
「登録には、登録料として銅貨10枚をいただきます」
「了解で――ん?」
小首を傾げるレイ。
(銅貨10枚って、ポケットマネーでいうといくらだろ?)
すぐさまステータス画面を開いて所持金を確認する。
――【ポケットマネー:1081G】――
(……うん、めっちゃある。余裕♪)
「えっと、この“G”で払えますか?」
「……? ポケットマネー……ですか?」
受付嬢が小さく首を傾げる。どうやら通じてないようだ。
「それって……別通貨ですよね? この世界では“銅貨・銀貨・金貨”の3種類が基本です。ポケットマネーは換金所でも見たことがない通貨ですね……」
(あ、やっば……異世界の通貨と連動してないの!?)
「えっと、他に方法はないですか……その、登録料払わなくても……とか」
「うーん……ちょうど、銅貨10枚以上の報酬が出る依頼があるので、それを先にこなしてもらえれば……例外的に登録後払いという形でも大丈夫です」
「本当ですか!? 助かります!」
(この人、女神か何かか!?)
受付嬢に深く頭を下げたあと、壁の掲示板へ向かうレイ。そこには様々な紙がずらりと貼られていた。
(うーん……どれにしようかな~♪)
その中で、目立つ文字が書かれた一枚に目がとまる。
《【急募】道中注意!魔物討伐依頼》
(急募って書いてあるし…魔物討伐も何とかなるでしょ!)
自信満々で依頼書を引きちぎり、受付に持っていくレイ。
「この依頼、受けますっ!」
レイが笑顔で差し出した紙を見て、受付嬢がにこやかにうなずいた。
「はい、確認しますね。えーと、報酬は……『10枚』。……はい、大丈夫そうですね!」
「よかった~! これで登録料分もバッチリですっ!」
「ですね! では、この依頼書にサインをお願いします」
「はいっ!」(カキカキ)
「初めての依頼、がんばってくださいね!」
「任せてくださいっ、私、根性だけはあるんで!」
そして、ウキウキでギルドを後にするレイ。
一方その頃….
さっきの受付嬢はレイを見送った後、依頼書に違和感を覚え、改めて見返した。
「………あぁ!?!?…「銅貨10枚」じゃなくて、「銀貨10枚」だあ!?どうしよう…!!」