episode11 武器なんて売ればいいっしょ!
冒険者ギルドで受付嬢から説明を受けたレイは、セナとともに森の奥へと進んでいた。
「はぁ……はぁ……森、広すぎ……。」
新調した冒険者服は動きやすい。
しかし、現代で運動とは無縁の生活を送っていたレイにとって、森歩きはなかなかの重労働だった。
「……まだ歩き始めたばかりよ?」
「うぅ……セナさん、体力お化け……。」
「これくらい普通よ。」
隣を歩くセナは涼しい顔。
まるで近所を散歩しているかのようだった。
「……ねぇ、レイ。」
「はぁ……な、なに……?」
「あなた、どうして冒険者になろうと思ったの?」
「え?」
「冒険者なんて、常に命の危険と隣り合わせなのよ。昨日だって死にかけていたでしょう?」
「うーん……。」
レイは少し考えた。
「憧れだから!」
「……憧れ?」
「うん! それに……。」
レイはそこで口をつぐんだ。
「……いや、なんでもない!」
「何それ……余計に気になるんだけど。」
セナは怪訝そうに眉をひそめた。
だが、レイが続きを話すことはなかった。
(……ゴブリンの武器とか装飾品、売ればお金になるかもしれないし!)
(しかも依頼報酬も貰えるんでしょ!? 二重取りじゃん!!)
――言えるわけがない。
そもそもレイにとって、冒険者とはお金を稼ぐ手段の一つだった。
もちろん、異世界の冒険者に憧れがないわけではない。
だが、それ以上に――。
(……稼いで、ガチャ引いて、また稼ぐ!! 最高の生活じゃん!!)
頭の中は、今日も課金のことでいっぱいだった。
一方、セナはそんなレイの横顔を見つめながら、小さくため息をついた。
(……この子、本当に大丈夫かしら。)
昨日はバブルヒポポスに襲われ、今日は懲りずにゴブリン討伐。
しかも、本人には危機感がまるでない。
(……このままじゃ、一月も経たずに死にそうね。)
だが、冒険者を志す理由は人それぞれ。
セナもこれまで、さまざまな事情を抱えた冒険者を見てきた。
もしかしたらレイにも、口にできない深い理由があるのかもしれない。
「……。」
セナはちらりとレイを見る。
「はぁぁ……帰ったらガチャ……。」
「……何か言った?」
「な、なんでもない!!」
――どうやら、深い理由はなさそうだった。
――しばらくして。
森を抜けた先に、少し開けた場所が見えてきた。
「……おっ! なんかそれっぽい場所!」
レイが目を輝かせた、そのとき。
――ガサガサッ!!
「……ん?」
近くの草むらが大きく揺れた。
そして――。
「キシャァァァ!!」
草むらから飛び出してきたのは、緑色の肌をした小柄な魔物だった。
尖った耳に、大きな鼻。
不気味な笑みを浮かべ、手には粗末なこん棒を握っている。
しかも、一体ではない。
次々と姿を現し、レイたちを取り囲むように広がっていった。
「……おぉぉ!!」
レイの目が輝く。
「あっ!! ゴブリンだ!! すごい!! 本物だぁぁ!!」
「……本物って何よ。」
セナは呆れたように呟いた。
だが、レイはそんなことなど気にしていない。
(……うっわ! ゲームで見たやつそのまんまじゃん!!)
緑色の肌。
いかにも雑魚モンスターらしい装備。
そして、何より――。
(……あのこん棒、売れるかな?)
すでにレイの視線は、ゴブリン本体よりも手に持っている武器へと向いていた。
「……よーし!」
レイは腰からショートナイフを抜いた。
「経験値稼ぎの時間だぁぁ!!」
「……経験値?」
またしても聞き慣れない言葉に、セナは首をかしげた。
しかし、今はそれどころではない。
レイがショートナイフ一本で、ゴブリンの群れに向かって歩き始めたのだ。
(……無茶な! あんな武器で!?)
セナは思わず弓へ手を伸ばした。
だが、すぐに思いとどまる。
(……少しは、自分の実力を知ってもらわないとね。)
ゴブリンは確かに下級の魔物だ。
だが、武器を持った相手である以上、油断すれば怪我では済まない。
セナはいつでも助けられる距離を保ちながら、レイの様子を見守ることにした。
(……危なくなったら、すぐに止めるわ。)
そして、レイの正面にいた一体が動いた。
「ギシャァァ!!」
ゴブリンがこん棒を大きく振り上げる。
「……っ!」
セナが弓を構えかけた、その瞬間――。
「ふふん!」
レイは怯むどころか、にやりと笑った。
そして、ナイフを持っていない右手を突き出す。
「『売却』!!」
ピコン!
【こん棒を売却しました】
【所持金:+10G】
パァッ!!
ゴブリンの手にあったこん棒が、光となって消えた。
「……ギャ?」
突然、武器を失ったゴブリン。
そのまま勢いよく腕を振り下ろしたものの――。
――ブンッ!!
空振り。
「……ギャギャ?」
ゴブリンは自分の手を見つめた。
さっきまで持っていたはずのこん棒がない。
「……え?」
セナも固まった。
(……今、何が起きたの?)
確かにゴブリンは武器を持っていた。
なのに、レイが手をかざした瞬間、跡形もなく消えてしまったのだ。
(……武器を消した……?)
だが、そんなセナの驚きをよそに、レイはがっくりと肩を落としていた。
「……あぁ、たったの10Gかぁ……。」
不満そうに唇を尖らせる。
「まぁ、こんなボロいこん棒じゃ仕方ないか……。」
「……は?」
セナには、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
だが、レイはすでに次のゴブリンへと手を向けていた。
「ま、数で稼げばいっか!!」
そして――。
「『売却』! 『売却』! 『売却』! 『売却』!」
ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!
【こん棒を売却しました:+10G】
【こん棒を売却しました:+10G】
【こん棒を売却しました:+10G】
【こん棒を売却しました:+10G】
パァッ! パァッ! パァッ! パァッ!
ゴブリンたちのこん棒が、次々と光になって消えていった。
「ギャッ!?」
「ギャギャ!?」
「ギシャァ!?」
突然武器を失ったゴブリンたちは、大混乱。
互いの顔を見合わせたり、地面を探したりと、右往左往していた。
「……ふふふ。」
一方、レイは満足げに頷いている。
「よーし! これで50G!!」
五体のゴブリンから、こん棒を一本ずつ売却。
たったの50Gだが、何もしないよりはマシだ。
(……ふふふ。武器さえなければ、ただの緑色のちびっこじゃん!!)
レイはショートナイフを握り直した。
「さぁて……ここからが本番かな!」
その後ろで、セナは言葉を失っていた。
(……売却。)
レイは確かに、そう叫んでいた。
しかも、武器が消えるたびに喜んでいる。
まさか――。
(……武器を、その場で売っているの……!?)
あり得ない。
スキルにはさまざまな種類がある。
だが、目の前の物を一瞬で消し去り、金銭に換える能力など、聞いたことがなかった。
ましてや、他人が手に持っている武器を、本人の許可もなく売却するなんて。
(……そんなことが、可能なの……?)
セナの背筋に、ぞくりとしたものが走った。
もし相手がゴブリンではなく、人間だったら?
もし、剣士が戦闘中に剣を失ったら?
もし、魔物の攻撃すら売却できるとしたら――。
(……この子のスキル、あまりにも規格外だわ……。)
先ほどまで、セナはレイを危なっかしい新人冒険者だと思っていた。
いや、それは今も変わらない。
だが――。
(……もしかして、とんでもない子を引き受けちゃった……?)
セナは目の前で得意げに笑うレイを見つめた。
当の本人は、自分がどれほど異常なことをしているのか、まるで理解していなかった。
「ふふふ……次はもっと高い武器持ってきてよねぇ!!」
――むしろ、まだまだ稼ぐ気満々だった。
――――――【 レイ 】――――――
所持金:46,085G(+50G)
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