7章 ローズガーデン
ミンチン学院は19世紀にローズマリー・ミンチンが設立した私立の寄宿学校です。最初はお金持ちの子どもばかりが集まる小さな学校でしたが、生徒の数が増えるにつれて敷地も広くなっていきました。ミンチン・イーグルスが練習で使うサッカーグランドをはじめ、学院の設備も充実しています。
中でも、丸いテーブルの並ぶ、色とりどりのバラが植えられた「ローズガーデン」と呼ばれる中庭は、英国庭園を思わせる美しさがあります。ローズガーデンはセーラとローラに並ぶ学院の看板で、たくさんの庭師も雇われています。生徒たちだけでなく先生たちもこのローズガーデンが好きで、よく利用していました。その目的もさまざまで、一緒に勉強をしたり、相談ごとをしたり、中には愛の告白をする人もいました。
ローズガーデンの庭師の一人であるバート・アボットは担当された区画のバラに水やりをしていました。バートはメイド頭のモーリーとコック長のジェームスの一人息子で不愛想な皮肉屋でしたが、バラの花が好きだったのでこの学院の庭師になりました。
バートが作業をしている場所から近くにあるテーブルには、セーラとローラが向かい合って座っています。
「おとぎ話もいいけれど、自分で作った物語も楽しそうね。」
セーラは自分で考えた美しい物語をノートに書きながら言いました。このノートを使って、セーラはローラと物語を共有していたのです。どんなにくだらないものだったとしても、セーラが書いたら美しく脚色されるのでした。ローラもこの物語の読み手として、それを楽しんでいました。セーラは世界中の色々な物語を知っていましたので、バリエーションも豊富でした。
別のテーブルには、アーメンガード、ハリー、リック、ロッティが座っていました。リックはロッティのそばで絵を描いています。
「アーメンガード、俺たちで良からぬ妄想でもしていたのか?」
アーメンガードはそばを通りかかったニコルに声をかけられ、体がビクンとなるのを感じました。ニコルはアーメンガードを警戒しており、セーラとローラでよくない妄想をしていないか見張っていたのです。本当は関わりたくありませんでしたが、セーラとローラの交友関係を制限したくなかったので黙認していました。
「白薔薇様はセーラとローラとは仲がいいわね、と話していただけなの。」
「へぇ、それで何を書いていたんだ?」
ハリーはアーメンガードのノートを見て、にやりと笑いました。アーメンガードはあわててノートを取りました。
「そんな、大したことじゃないわ!」
「なら、見せてくれよ!」
ノートに何が書いてあるか気になるハリーに、ニコルがため息をつきます。
「よせ、俺たちに見せられないようなことが書かれているぞ。」
アーメンガードのノートには、確かにセーラとローラ、彼女たちと幼なじみのニコルに関する妄想が書かれていました。内容までは知りませんでしたが、ニコルは自分たちのことを妄想の題材にしているだろうと考えていました。
また別のテーブルには、マルク先生がアメリア先生やカール先生と座って話をしていました。
「セーラさんとローラさんは誰に対しても優しいね。マリアは彼女たちを嫌っているけど。」
マルク先生はセーラとローラのことをよく思っていましたし、学院の看板生徒にふさわしいと思っていました。ミンチン先生はセーラとローラを好きではありませんでしたが、プラチナ生だったので気を使っています。もし、セーラとローラがこの学院をやめたいなどとクルー大尉に送ったら、クルー大尉は彼女たちをすぐに転校させてしまいます。
マルク先生は穏やかな男性で、生徒たちからもしたわれています。学院長を娘に譲る前は奨学金制度を導入するなど革新的な改革をしました。
プラチナ生は保護者が学院に多額の寄付をしているので、特別な待遇を受けていました。そのため、お金持ちの生徒が優遇されるのも無理はありません。プラチナ生は学院の宣伝に一役買っていました。
セーラとローラはその中でも、特に大事にされていたのです。