45.日下部さん家の四姉妹②
爆発の現場にたどり着くと、そこでは2人の人間……に見える者達が戦っていた。
「ヤアアアアアアアアアアアアッ!」
20代ほどの年齢の女性が大きくジャンプして、右手を振るった。
瞬間、手の平から漆黒の炎が数十匹の山羊の形になって怒涛のごとく押し寄せる。
山羊の進行方向に立っているのは、同じく20歳前後の若い男。顔はイケメンだが、どこか妖しい雰囲気をまとった男である。
「フフ、ハハハハハッ!」
男が嘲るような笑声を漏らす。その足元から伸びた黒い影が無数の槍になり、炎の山羊を貫いた。
影の槍に穿たれた山羊が爆散して、再び大空に爆炎が舞う。
戦闘中の一方は見覚えのない白髪の美女。
もう一方は……少し前に会ったことがある、2度と会わないであろうと思っていた男である。
「アイツは確か……風夏のストーカー!?」
名前は……えーと、忘れた。
キモメン……じゃないな。『顔だけ男』じゃなくて、『残念イケメン、略してザンメン』じゃなかったか?
とにかく、『創造』の力を持った超能力者だったことは明らかである。
「生きていたのか……あの男だったら僕の命を狙ってくる気持ちは理解できるけど……」
何だろう、この違和感は。
あのザンメンからは以前にはなかった威圧感というか、オーラのようなものが感じられる。外見はそのままなのだが、まるで別人の魂が乗り移ったようだ。
「乗り移る……?」
そうだ。
美月ちゃんと同じ悪魔であったとすれば、肉体に憑依している可能性がある。
例えば……美月ちゃんを狙っている悪魔があの男の身体に憑依して、襲いかかってきたという可能性はないだろうか?
「ということは、あの戦っている美女は……!」
「お兄様の仇! 吹き飛びなさいっ!」
炎の山羊を放って攻撃している美女――彼女の正体は、僕の可愛い妹である日下部美月に違いない。
まあ、髪は白いままで、顔立ちだって成長しているとはいえ子供の姿と変わらない美貌だからわかってはいたのだが。『絶世の幼女』が『絶世の美女』に変わっただけである。
驚かされるのは……美月ちゃんの胸がツルペタのまな板から、華音姉さんをも凌ぐサイズの超絶巨乳に育っていること。
風夏をノーマルサイズとして、飛鳥姉が巨乳、華音姉さんが爆乳とすると、これは『魔乳』とでも呼ぶほかにない。あらゆる男を虜にしかねない傾国のおっぱいだ。
「しかもあんなにエッチな格好を……けしからん! 兄として、あんなおっぱい丸出しの格好で空を飛ぶとか許しませんよ!」
超絶魔乳美女に変身した美月ちゃんであったが、その服装は非常に悪魔チックというかエロ過ぎるものだった。
水着のような……それも一般的な海水浴場に着ていったらすぐに退場させかねないデザインで、おっぱいなんて乳首しか隠れていない。
もう何も着てない方がマシというか、裸よりもイヤらしいんじゃないかと思えるような悪魔過ぎるマイクロビキニである。
「フハハハハハハ、良い! 良いぞ! この身体の試運転にはちょうど良い運動だ!」
美月ちゃんのエロ過ぎる姿に戦慄しているうちにも、戦いはどんどん過熱していく。
ザンメンは陰を操り、次々と炎の山羊を爆散させていく。その身体には火傷の1つもなく、ムカつくイケメンフェイスには余裕の笑みが貼りついている。
「今度はこの身体が有している能力……『創造』の権能を試させてもらおう! 簡単に壊れてくれるなよ、アスモデウスよ!」
「ッ……!」
「来たれ、悪魔の戦士よ! 器を用意してやるぞ!」
謎悪魔が頭上に手をかざすと、そこに虚空から無数の人影が現れた。あのイケメンストーカーが使っていた『創造』の能力である。
「これは……!」
「サイキックといったか? この権能があれば、もう良質な器を探すのに苦労する必要はなさそうだ! 冥界よりやってきた同胞への器をこの力で創造すれば良いだけだからな!」
天空に現れたのは異形の軍勢。
獣であったり、鳥であったり、魚であったり……とにかく、あらゆる生物と人間を強引に掛け合わせたような、悍ましい兵隊である。
「ここにいるのは下級から中級の悪魔。お前から見れば格下だろうが……数百の同胞を同時に相手にすることができるかな?」
「クッ……舐めないでください! やってやりますわ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
異形の軍勢が美月ちゃんに向けて一斉に襲いかかる。
だが……美月ちゃんだって一方的にやられてはいない。炎の山羊を放って襲いかかってくる悪魔を撃墜して、次々と打ち倒していく。
だが……
「カハッ」
美月ちゃんが苦悶の顔で身体を『く』の字にする。見れば、その腹部に銀色の矢が突き出さっていた。
「もちろん、我とて攻撃の手を休めるつもりはないぞ? 悪魔殺しの銀の武器……ハハハ、まさか我がこれを使う日が来ようとは思わなかった!」
「この……力が……」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
悪魔にとっての弱点らしき武器を打ち込まれ、美月ちゃんが弱々しく呻く。
そこに悪魔の軍勢が殺到する。弱った美月ちゃんを数で圧し潰そうとしてくる。
「殺すなよ。その女には裏切りの報いを与えてやらねばならぬ。楽に死なせてなどやるものか」
ザンメンは髪をかき上げて嗜虐的な笑みを浮かべ、上空で悪魔の大軍に飲み込まれている美月ちゃんの姿を見上げる。
ザンメンの中では、すでに戦いは終わっているのだろう。まるでアリの群れにたかられる瀕死のキリギリスでも眺めるように、ひどく退屈そうな目になっていた。
しかし……
「そんな期待を裏切るのが僕だよ。人の家族によってたかって何してんだ!」
「貴様は……!」
ザンメンが目を剥いた。
美月ちゃんに襲いかかっていた無数の悪魔が一斉に切り刻まれ、地面に墜落する。
何が起こったのかわからないだろう。僕は一瞬で移動して美月ちゃんの身体を抱きしめ、同時に周囲の悪魔全てを撃破していたのだから。
「お兄様……?」
「うん、美月ちゃんのお兄ちゃんが助けに来ましたよー」
腕の中で目を見開いている妹へ、僕は穏やかに微笑みかけたのであった。
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