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08.『先生って過激』

先生と会話、ヒロインと会話のループ。

 僕は頬杖をついたまま教室内を見回した。

 既に他の生徒は一切おらず、僕だけとなっているのだが、


『頑張るのではなかったのか?』


 僕の中にいる西山先生がそう指摘してくる。

 そう、頑張ると決めていたくせに放課後まで話すことができなかったんだ。

 理由は単純に、昨日の突き放したような態度が良くなかったから、だと思う。


「よぉ、駄目な友達よ」

「酷いですよ……。ま、先生と会話をするために残っていたんですけどね」


 できればもう少し早く来てもらいたいものである。毎回毎回、17時半過ぎに来られても困るわけだ。


「そういえば駄目な友達よ、また瀬戸と一緒にいるようになったんだな」

「そうですね、瀬戸さんに土下座をして頼みました」

「なんでもかんでも土下座をすればいいと思うなよ?」

「嘘ですけどね。昨日、一緒にとんかつを食べに行ったんです、その時に色々と話しましてね。で、僕が友達になってほしいと頼んだだけですね」


 ふたりともしおらしくて調子が狂いそうだった。

 片方はひとりで寂しいところにいたし、「家に帰りたくない」とか言ってこちらに頼ってくるしで、大変だったのだ。


「ふむ。なあ箱田、私もそこに連れて行け」

「え、流石に先生と二人で行動するのは不味くないですか?」

「いや、瀬戸も含めてならいいだろう?」

「まあ、それならいいんじゃないですかね。ただ、彼女の分まで払ったのもあってお金がないんですよね。お小遣いを貰った後でもいいですか?」


 泣きつけばいいと決めてはいたが、奢ってもらうわけにもいかない。そういうのをホイホイとされるべきではないだろう。


「いつだ?」

「今月の25日でしょうか」

「遅い、待ちきれないぞ」

「子どもですか……」

「だって緒方があのままだと困るだろう? 緒方だってとんかつを食べさせれば元気になるだろ」


 女の人って苦手だ……。

 どうして分かるんだよ、まさかチェックしているわけでもないだろうし。

 そのことを相談をしたわけではない、……雰囲気とかで分かるのだろうか。


「私が貴様と外食に行きたいとでも勘違いしたのか?」

「……自惚れてました、すみませんでした」

「まあいい。緒方! 入ってこい」


 って、このパターン好きだな……。

 おまけに何故か瀬戸さんもいるようだった。

 紗織はこちらを見ないようにして、それでも何故か僕の後ろに座った。瀬戸さんは横に座る。先生が前に座っているため、挟まれる形になるのだが……。


「箱田、私は見ていてやるから存分に話し合えよ?」

「先生が黙っていてくれれば話そうと思っていましたけどね」

「嘘を言うな、放課後までなにもできなかったくせに」

「うっ……、ま、まあそのとおりですけど。というか瀬戸さん、暗いところ怖いんでしょ? なんで教室で待ってなかったの?」

「……西山先生が廊下で待っていろって」


 僕が先生を睨むと「私のおかげで会えるんだぞ?」と睨み返してきた。すっかり僕は萎縮し机に突っ伏す――なんてことはせず苦笑い。


「先生、僕だけで頑張りますので」

「分かった、それじゃあ気をつけて帰れよな」

「はい、ありがとうございました」


 僕は後ろの子の方を向く。


「風邪を引かなくて良かったよ」

「…………啓くんこそ」

「昨日は突き放すようなことしてごめん。これだけは今日中に言いたかったから、先生が君を残してくれていて助かったよ」

「……なんで家に入らなかったの?」

「僕は……君のお母さんが苦手なんだ。ほら、頰を叩かれたこともあったしさ」


 バッチーンッ、辺りに響くくらい大きな音、そして衝撃だった。

 ちなみに紗織が近くにいたので、恥ずかしいところを見せたという形になる。


「箱田くん、私と別れた後に紗織と会ったんだ」

「うん、約束はしていなかったんだけどね。なんか嫌な予感がしたから公園に行ってみたら案の定、このお馬鹿な子がブランコに座っててさ」


 ただ、余計なお世話だったのかもしれない。僕と出会ってなければ濡れる前に帰れる可能性があったからだ。とはいえ、気づいたからには無視はできない、と。

 優しさなのか、弱いのか、それが僕には分からないままだった。


「しかも前みたいに名前呼びをしているんだね」

「ああ、それは紗織に言っているんでしょ?」

「うん、そうだよ」

「……なんか違和感があったの、啓くんのこと名字で呼んでいるのが」


 分かる、僕も紗織のこと「緒方さん」と呼んでいた時は違和感があったから。

 さて、またまた薄い笑みを浮かべている彼女をどうするべきだろうか。美味しいご飯を食べた時だけに発生することではないということは、昨日の時点で分かっている。……なんだろう、都合が悪い時だけに出るものなのか?


「瀬戸さん、まただよ」

「べつに偽っているわけではないんだけどね、なんでだろうね」


 なんでと言われても僕にはなにも分からない。

 自惚れと言われてもやってみる価値はありそうだ。


「櫻」


 名前で呼ぶと彼女は笑みを引っ込め無表情に戻る。


「ごめん、求めているのかなっと」

「べつにいいけどさ、そういうのあんまりしない方がいいよ」

「うん、そうだよね」


 紗織は突っ伏し、瀬戸さんは頬杖をついてつまらなそうにし、僕はただ黙ることしかできなくなって、ここに残っている理由が行方不明となる。


「紗織、ミロちゃんの散歩をしに行こうか」

「……雨だもん」

「あ……そういえばそうだったっけ」


 おまけに雨の音にすら気づけず、本当に馬鹿すぎる。


「箱田くんはそんなんだから変な噂が広がったんじゃない?」

「だからそれは瀬戸さん達のせいで……」

「私達はただおしゃべりしていただけだったんだけどね。あそこまで広がるとは思ってもいなかったなあ」


 僕もそう、当時はそう思ったものだ。

 それまで僕になんか一切興味がなかったくせに、ある意味、有名になった。

 教室内で留まっていた内は楽だと思っていたのだが、それがいつの間にか他クラス、他学年にまで広がり、当然教師の耳にも届いたということになる。

 仕事で忙しい母をわざわざ学校へ呼んで、真実かどうかも分かっていないことを説明して、実は母にも1度だけは疑われた。

 その瞬間、色々なことがどうでも良くなったんだ。だから言い返すのをやめた、ひたすら逃げずに受け入れてやろうと決めたんだ。……ま、精神がボロボロだったので部屋では泣いたけどね。


「啓くん、悪いのは私だよ。私がそもそもあんなことを言っていなければ……」

「まあ過去のことはもういいよ。というか、傘ないよねみんな」

「私は折りたたみ傘を持っているから、紗織と相合い傘をして帰るね」

「うん、それがいいよ、気をつけてね」

「待ってっ、啓くんはどうするの?」

「んー、雨が弱まったら帰ろうかな」


 放課後に遅くまで残るのは得意だ。

 多分、先生も来てくれるので、退屈な時間を過ごすようなことにはならない。


「ばいばい」

「うん、じゃあね」


 ふたりが出ていき、僕は先生が入ってくるのを待つ。


「箱田、流石に相合い傘はできないぞ?」

「期待していませんよ、ちょっと付き合ってくれませんか?」

「生徒を食う趣味はないな」

「違いますって。暇ですから一緒にいてほしいんです」


 別に話してくれなくても構わない、ただ一緒にいてくれるだけで十分だ。


「教師には怒れて、同級生には怒れないなんて、おかしい話だよな」

「そう言わないでくださいよ、あれが最適だと思いますけど」

「相手が調子に乗る前に叩き潰すのが普通だ」

「先生って過激ですよね……」


 胸の大きさとかも含めて。

 そりゃ確かに当時は恨んでいたものだが、過去のことをを気にするなと言ったのは先生で、だったら今更そのことを怒っても仕方がない。

 昨日は許すみたいなことを言っておいて、いざ指摘されたら感情に身を任せるなんてどうかしている。

 それに、先程のは僕が調子に乗ってしまったから彼女も指摘してきただけだ。


「瀬戸も緒方もお前が怒らないから困っているんだぞ?」

「そうですかね……」

「ああ。自分がしてしまった事の重さに押し潰されそうになっているんだ。だというのに貴様は変に優しい言葉を投げかける。自分が悪かった、君は悪くないよと、甘い言葉を囁く。それがどれだけ相手のためになってないか分かっていないのだ」


 そうかな、僕は十分あの頃に怒ったと思うけどなあ。

 でもあれか、母に疑われてからは文句を言うこともやめたわけだし、紗織母に叩かれた時だって頑張って笑ってみせた。その内側で負の感情が暴れていることをしっかり把握しておきながら、僕は抑え込み続けることに成功した。

 でも、耐えられたのは部屋で暴れていたからだと思う。

 暴れた僕は自分でも止められないくらい凶暴で、シリーズ本を一気に読んだり、隅から隅まで綺麗にしたりと、あれはもうやばかったとしか言いようがない。

 そのせいで睡眠不足になり倒れたこともあった。だからもう、あのもうひとりの自分が出てこないことを切に願っている。

 ……良くも悪くも適度が大切と分かった時間だった。


「箱田、お前は馬鹿だが優しさをもっている。だからこれからもそのまま接してやれ」

「んー、矛盾してますし、馬鹿って言いすぎじゃないですか?」

「うるさい黙れ。さてと、車で送ってやるから付いてこい」

「じゃあ先生の家を教えてください、毎日通いますよ?」

「箱田……同級生と恋ができないからって年上を狙おうとするな」

「ちょ……マジトーンと真顔やめてください……」


 それで先生の車に乗させてもらったのだが。


「着いたぞ」

「先生、僕と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」

「は?」

「いえ、この車に毎日乗りたいんです! だって僕の家には車がないから!」


 快適と言う他ない。

 自家用車に乗るのなんて凄い久しぶりで新鮮だったんだ。

 しかも多分、この車は相当高いはず。

 シートは柔らかく、広く、なんなら住めるくらい快適な空間だった。


「馬鹿言うな、さっさと降りろ」

「そうだ、先生もたまには来ませんか? 今日はふたりきりですよ?」


 母はお友達と食事に行くと言っていたし、ひとりでいるには寂しいのだ。


「できるわけないだろ、いいから降りろ」

「ツンツンしてますね……まあいいです、ありがとうございました」

「ああ、風邪を引くなよ、さよならだ」


 家に入ってリビングのソファに寝転ぶ。


「ちぇ、来てくれると思ったのに。あーもう、寂しいんだよ……」


 でも母が凄く楽しそうにしていたことだけは嬉しかったが。


「あれ」


 インターホンが鳴って玄関の扉を開けると、


「箱田くん……」


 何故かびしょ濡れ状態の瀬戸さんがいましたとさ。

 いや、なんなんだろうこれは……。

先生と恋愛も面白そうだけども。

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