ある母親
ふっくらした体型ゆえ、ぎりぎりまで妊娠に気づかず墮ろせなかった二人の娘。
貧しくて育てることができず、捨て桜に捨ててきた。
いつも夢で名を呼ぶ。
可愛いユズコ、可愛いユリ。
大好きよ。
夢で見る二人はいつまでも赤子で。
これからも赤子なのだろう。
もう赤子は捨てたくない。
次に身籠る赤子は大切に育ててやりたい。
ユズコの父親はとても美男子。
私の持っている舶来品の中にある、西洋人形のような青年だった。
造られたような均整な顔。
筋のとおった鼻と深く窪んだ目。
私を気に入ってくれた。
今はもうどこにもいない。
いつの日か家を出て行ってそれきりだ。
ユリの父親は青い目をした純朴そうな青年だった。
ユズコの父親に美男子ぶりでは劣ったがそれでも日本にはいない端正な顔立ちだった。
そうして生まれたユリはきっと、私の目と彼の目を半分づつ貰いたかった優柔不断な子なのだろう。
私が生む子は普通と違う、と近所に囃されたが。
それはそうだ。
父親が日本人でないのだから。
違うに決まっている。
見た目が違うから捨てたのではない。
もう私は自分が暮らしていくことすらできないほどの貧乏なのだ。
明日は生きられるか。
ユズコとユリはあの時、死んでしまったのか。
誰か心優しい人が引き取って大切に育ててくれているのか。
見世物にならないでほしいが、難しいことだろう。
私の心の支えだよ。
ユズコは生きていれば今日で十八歳になる。
美しい娘に育っているのだろうね。




