アティア・ミセリア
「——あの時は本当に勢いで言っちゃったからなぁ。しかも、アレで絆の契約が成立してしまうとはな。でも後悔はしてないから良いんだよ」
そう言ってレインの頭を撫でる。
「えへへ〜、私も頑張るからよろしくねっ!」
晴天のように明るいレインの笑顔——守らないとな。
「任せとけい、そういえばアティアはどうした? レインが起きてるってことはあいつも起きてるよな?」
もう一人の相棒、アティアのことを聞く。
アティアは、俺が入学した時に契約したドラゴンで、俺の二人目の相棒だ。
入学する前にガロウ校長から『物静かだけど毒舌』と言われていたあのドラゴンだ。
アティアってのは略称で本当はアミキティアって名前なんだけど、長ったらしいからアティアで通ってる。
実際に物静かだったし、人の痛い所をチクチクと突いてくる。だけど、料理がめちゃくちゃ上手くて美味い。人間とドラゴンの味覚の違いをしっかり理解していて、俺たちのは薄めで、ドラゴンたちのは濃いめの味付けの料理を作ってくれる。一度、レインの肉をつまみ食いした時、あまりの味の濃さに一日中舌が狂ってしまった。半竜でも味覚は人並みなんですよ。
ちなみに鱗の色はリーフグリーンでレインのスカイブルーに負けず劣らずの鮮やかさだ。
俺にアティアの事を聞かれたレインは俯いていた。
アティアになんかあったのかな?
「……アティアお姉ちゃんは朝ごはんを作ってから来るって言ってたよ……ミセリアお姉ちゃんと一緒に……」
「なん……だと……?」
俺はレインが俯いていた理由を理解した。
ミセリアはフロースの相棒で、しっかり者の赤いドラゴンだ。赤いところも、しっかり者のところもフロースとよく似ている。
それと、フロースは料理も——アティアほどではないが——結構できる。
だが、ミセリアが作るものは、もはや食べ物ですら無い。
あれを食べ物と言えるのはプヨプヨのスライムくらいだろうな。
ミセリアの作ったものを食べたフロースが保健室に運ばれた時、保健室の先生が『私の知識で解毒できない物があるなんて……』とか、言うくらいのヤバイ物を作ってる。
ヤバイ、特訓の後に地獄が待ってるとわかっているのにそこに行かなければならないとか、ヤバイ。
うまく回避しなければ……
「そういえば、フロースお姉ちゃんは?」
顎に手を当てながら考えているとレインに聞かれた。
「あいつは走ってきたらいつの間にか抜かしちゃってた。そのうち来るだろ」
「そっかぁ。……あ! アレって……」
頷きながら上を向いたレインが空を凝視している。
俺も見上げてみる。
なんかキラキラ光るものがこっちの近づいてくる気がする。
つまり、落ちてきている。
半竜の目を少し使ってよく見てみる。
……アレって、槍じゃね? しかも、見覚えのある。
……フロースの槍じゃね? しかも、炎を纏ってる。
あ、ヤバイ。
このままじゃ串刺しにされて焼かれる。
そう思った瞬間俺はレインを抱えて思っ切りその場から飛んだ。
「えっ、ちょっと!?」
驚くレイン。どさくさに紛れて色々触っちゃったけど、バレてないよね?
ゴオォォォっと音を出しながら槍が地面に突き刺さる。
俺たちがさっきまで居た場所はクレーターになっていた。
うん、アレ食らったらヤバイ。
「クロエえぇぇぇ!! なに人を置いてっとんじゃボケがあぁぁ!」
フロースが物凄い勢いでこっちに走ってくるのが見えた。ご立腹みたいですねぇ。
「遅かったな、フロー……ゴフゥ!」
みぞおち殴られた。
「あらあら、おはよう、レインちゃん。他の二人はどうしたの?」
殴っといて無視かよ。
「お姉ちゃん達はごはん作ってる……」
レインはガクガクと震えている。
フロースの後ろに怒りの化身でも見えたか。
「ミセリアも作ってるのね……それはクロエに食べて貰うとして、今日は回避訓練しましょうかぁ?」
そう言いながら俺の腕をロープで縛るフロース。
……ナニイッテンノ?
ミセリアの料理を食べろだと……
そして回避訓練ってなに——
「レインちゃんは危ないから離れててね。それじゃクロエ〜、私の魔法を全力で避けてねぇ。竜装は使っちゃダメ。とにかく避けるのみ。わかった?」
「は、はぃ」
有無を言わせない口調につい、返事をしてしまった。
レインは……めっちゃ離れてるぅ。
ブオン!
俺の顔の真横を炎の玉が通り過ぎる。
めっちゃ熱かった。
「もう、始まってるの。よそ見してる暇なんて無いわよ」
連続で炎の玉が飛んでくる。
もう、ヤダァ……