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不憫な獣人さん、あるいは実験体一号


獣人さんの腕をガシッと掴み、ジーッと見つめる。


獲物は逃がさない!


獣人さんは、若干……いや、だいぶ腰が引けていた。


「……ふん。」


獣人さんは、ゆっくりと手を上げ、自分の頭頂部を撫でた。


そこには、確かに薄く……「無毛の地帯」が広がっていた。

日差しが当たると、小さな湖のようにちょっとだけ光る。


「……十年。この頭皮には、十年間一筋の毛も生えていない。治癒魔法の専門家、再生系の高位魔法師、 王立研究所の『細胞再編成術』まで試した。……だが、全部無意味だった。『これは、魔法じゃ直せない』と、三度の診断で断られた。」


彼は、少し笑った。

でもその笑いからは、酷く疲れが滲み出ていた。


「お前が何をやるつもりかは知らん。だが……『治させてください』って、初めて言われたな。」


彼は目を伏せ、目尻を押さえた。

しばらくの沈黙の後、彼はまっすぐ私を見た。


「……やれ。だが、一回だけだ。失敗したら、二度と声をかけん。いいか?」


「はい!!」


私は立ち上がり、両手を震わせながら、彼の頭のすぐそばに近づけた。

彼は小さく息を吐いて、目を閉じた。


――そして私は、初めて、自分の魔法を「意図的に」使おうとする。


体質変化 LV.1

体型変化 LV.1


――ただの言葉だったはずのそれが、今、私の指先から、熱のように伝わる。

それに合わせて、両手を縁取るように淡く白い光が滲み出た。


「……っ!」


彼が目を開けた。

私は、自分の手を見つめている。


指先から出る光と、湧き上がる熱。

静かにじんわりと、皮膚の奥で、何かが『再配置』されている感覚。


「……うん?」


彼が、自分の頭を触る。

指が、生え際のわずかな「硬さ」を確かめるように、ゆっくりと、ゆっくりと、頭頂部の皮膚をなぞる。

そして確認するように、その手をじっと見つめた。


「……ち、ちょっと……」


「はい!?」


「……かゆい。」


「え!?」


「……なんか、ちくちくする。でも、痛くない。……むしろ、『ここ、昔毛が生えてたな』って思い出した気がする。」


私は、息を止めた。


彼は、少しだけ目を潤ませて、もう一度頭頂部に手をやった。


そして――


「……生えてる。」


「……え?」


「生えてるよ。……ちっちゃい、産毛みたいなの。チクチクしてる。でも、ちゃんと生えてる……!」


私は、思わず彼の頭を覗き込む。


――本当に、そこにある。


ほんの1ミリにも満たない、キリッとした黒い産毛が、主張するようにまっすぐ立っていた。


「……体質変化……か。」


私は、ぽつりと呟いた。


性質——生まれつき持っている固有の特徴。

型——何かの元になる形状。


……じゃあ、これは……

「この『体質』って、『毛を生やす能力が、後天的に機能不全に陥っている状態』 だったのかな?……それで、それを『変化』させたから『生えて』きた?」


彼は、静かに頷いた。


「……そうかもしれんな。俺の体質は、『再生が極端に遅い』だった。でも、お前の魔法は……『元々あるはずの機能を、『別の状態』へと、そっと変化させる』……そういう魔法じゃないか?」


「……変化させる?」


「ああ。治すんじゃなく、『変化する』。

……治癒魔法は、傷を『元に戻す』ことで埋める。だから、先天性のものには効果がない。でもお前のは…『別の在り方』に変える魔法だ。」


私は、自分の手を見つめた。


……そうか。


だから、辞書に載ってない。

魔法辞典にもない。

だって、これは「攻撃」でも「防御」でも「創造」でも「破壊」でもない。


これは——

「修復」でもなく、「再生」でもなく、「復元」でもない。


……これは、変化」だ。


『あるべき姿へと、変える』魔法。


体質変化

体型変化


「……マダムカナン先生は、『性質』と『型』って言った。」


私は、小さく笑った。


「そういうことだったんだ……」


獣人さんは、黙って、私の顔を見つめていた。




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