「今日も毒は美味しい」
「ユッテミア様、ご無事でよかったですわ」
「ジスレニス様、ありがとうございます。毒って、あんなに苦しくなるんですね! ああいう毒を無効化出来ているとはいえ、食べているジスレニス様ってすごいなって思いました」
「だって、美味しいもの。私みたいに毒を無効化するスキルを持っている人が居たら、同じように毒食について語れるのになぁ」
ジスレニスはその日、毒から回復したユッテミアと会話を交わしていた。
ジスレニスは自分と同じように毒無効化を持つ人がいれば、一緒に毒食巡りをしたり、毒食について語れるのにと思っているようだ。
ユッテミアはその言葉を聞いて、恐らく毒無効化のスキルを持っていても毒を好んで食べることはないだろうと思ったが、にこにこしているジスレニスには言わなかった。
「ジスレニス様って、幼い頃に毒を盛られ続けたんですよね? それでも……毒が好きってすごいなと思うの」
「私の場合は本当にずっと昔から毒が好きだったもの! こうやって好きなものがあるってとても楽しいわ。私の頭の中なんていつも毒のことばかりなのよね。あのね、今度――」
今日も元気に毒のことを語るジスレニスの言葉を聞きながら、ユッテミアは楽しそうに笑っている。
――こうやって自分の話す毒の話を沢山聞いてもらえることがジスレニスは何よりも嬉しかった。
ジスレニスは目の前のユッテミアがインエルの恋人で良かったなぁなどと思っている様子だ。
(マーデダ様がそのまま相手だったら色々面倒だったしなぁ。ユッテミア様みたいな私の『毒食』の趣味を受け入れてくれる人がインエルの恋人なら接しやすいしよかった。ユッテミア様も優しくていい子だし)
ご機嫌な様子でにこにこ笑っているジスレニスは、美味しそうに毒入りお菓子をバクバク食べているのであった。
ジスレニスはユッテミアと会話を交わすことも結構好んでいる様子で、ユッテミアと会話を交わした後はご機嫌そうな笑みを浮かべている。
「ねぇねぇ、バトアン。ユッテミア様って可愛い方よね!! 一緒に話しているとインエルが惚れた理由も何となくわかるわ。同性の私の身から見てみても、可愛いもの」
「俺にはジスレニスの方が可愛いけどな」
「ありがとう。私にとってもバトアンが一番かっこいいわ」
ジスレニスは嬉しそうにユッテミアのことを語り、その言葉を聞いてバトアンが笑う。
バトアンはいつでもどんな時でもジスレニスの味方でいてくれるのでジスレニスはそれが嬉しくて仕方がない。
「ねぇねぇ。バトアンは子供って何人ぐらいほしい?」
「急に何を聞いているんだ? ジスレニスの子供なら可愛いだろう」
「私も可愛いって思うわ! 沢山子供産みたいなぁ。誰か一人ぐらいは私と同じ毒無効化の能力持ってて、毒食に付き合ってくれたりしないかしら」
「……毒無効化のスキルを持ってたとしても食べるとは限らないだろ?」
二人して、未来のことを確定事項のように語っている。
二人の間では、互いに結婚して、子供が産まれるというのは当たり前の未来のようだ。もしかしたら何らかの事情で子供が産まれないということもあるかもしれないが、一先ず結婚して一緒にいることは確定しているようだ。
「毒ってね、本当に美味しいっていうか、癖になるんだよ。私はもっともっと未知の毒を探しに行きたいなぁ。結婚したら毒を探しに時々家を空けてもいい?」
「……なるべく俺がいる時にしてくれ」
「なるべくそうするわ。あのね、あと毒の生物も色々集めて、毒の樹液とかそういうのも直飲みしたい」
「毒効かなくてもお腹壊さないか?」
「大丈夫よ!! はぁ、夢が広がるわ!! あのね、毒の樹液のムースとか作ってもらっていて、それがとても美味しくてっ!!」
ジスレニスは屋敷の料理人たちに作ってもらった料理について語りながら、嬉しそうに笑っていた。
……料理人は毒料理をまさかこんなに試行錯誤して作ることになるとは思っていなかっただろうが。ただ今はすっかり楽しそうに毒料理を作っている。それもジスレニスが毒料理をとても美味しそうににこにこしながら食べているからと言えるだろう。
ジスレニスは、今日も今日とて、毒の話題ばかり話している。
そしてそんな会話を交わしながらも、自分で作った簡単な毒入りお菓子を口に含む。
「今日も毒は美味しい」
そして今日も美味しいと口にする。
満面の笑みを浮かべて頬を緩ませる。その嬉しくてたまらないという笑みを浮かべているジスレニスのことを、バトアンは優しい瞳で見つめている。
『毒食令嬢』が美味しそうに毒を食べる隣にはいつもそれを優しく見守っている公爵子息がいるのだった。
その二人は『毒食令嬢』の趣味のことも有名だが、その仲の良さの方が有名になっていくのだった。
――その『毒食令嬢』の毒食の趣味は、自身が断言している通り、その命が失われるまでずっと続けられるのであった。のちには『毒食レシピ』という本を出したり、毒動植物を探しに出かけた先で新種の動植物を見つけたり――、色々やらかすわけだが、それはまた別の話である。
というわけで一旦、これで終了です。
色々書きたい話が多すぎるため、短めで終了ですが、書きたいシーンは書きたいだけかけたので満足はしております。
毒を食べるのが大好きで仕方がない女の子が主人公でもいいかなと思い、こういう物語を書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
感想などもらえたら嬉しいです。
2022年5月7日 池中織奈




