表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/112

Scene8 -1-

  現在セイバーとノエルが戦っているのは、これまでとは違うタイプの機械虫だ。いったい何が違うのかと一言で言えば空を飛ぶこと。機械虫が出現して以来、飛行型の機械虫は一体も目撃されていなかった。


  「野郎、ちょこまかと動きが速い」


  セイバーがヘビーアームズ・スタイルのガトリングガンを上空に乱射するが一発の被弾もなく飛び回る。その様はまるでおちょくっているかのようだ。

  形態は蜂に酷似している。ただし頭部には触覚ではなく一本の角があり、手足は全て鉤爪で、何より背中には羽がなく、四つの丸いコブがある。原理は不明だが、あのコブが空を飛ぶための装置なのだろうと推測していた。


  「あぁぁぁぁぁ」


  弾丸を空へ捨てるように撃つセイバーの横で、


  「無駄弾が多い」


 冷ややかとも受け取れる言葉でバッサリ切り捨てるノエルは、ガン・スタイルのライフルモードで狙い撃つ。だが、そのノエルでも三発撃って一発当たる程度だった。


  「ノエルも調子がよろしくないようで」


  指摘されたことへの仕返しに皮肉を込めた言葉を返したセイバーは、ノエルの攻撃を回避する飛行型機械虫の動きを先読みし、両手に装備するガトリングガンを再び乱射した。


  「そこだ!」


  だが先読みした先に撃ち放った弾丸は全て何もない大空へ消えていく。


  「ありがと」


  空中で弾けるような敏捷性を見せる蜂もどきが、先読みして撃つセイバーの攻撃を軽々と回避するその先を更に予測して、ノエルの放ったスナイパーライフルの弾丸が胸部へと命中した。その攻撃の反動で一瞬姿勢を崩すのだが、目に見えるダメージは皆無であった。


  「単体で連結した機械虫並みのエネルギー総量が生み出している力場の大きな抵抗が、弾丸の勢いを殺してしまっている」


  そう博士が説明するように、連結した機械虫は辺り一帯に特殊な力場を広げ、その中ではガイファルドでもそれなりに動きに抵抗が掛かる。過去にセイバーの初陣で初めて遭遇したムカデ型の連結機械虫が放っていた力場はこの蜂型機械虫の2倍以上であったことがのちにわかった。

  その中で何事もなかったように暴れ狂いムカデ型機械虫を破壊しつくしたセイバーは、四千万馬力という想像を絶する出力だったことでその抵抗を物ともしなかったのだ。


  「ってことはこれだけ距離があるからオレたちに影響が少ないだけで、接近したらかなりの抵抗が掛かるってことか。それじゃぁ接近戦は厳しいな」


  「飛んでる相手に接近すること自体が難しい。でも私たちのスラスターでは追いつけない」


  離れて撃っても効果が薄く、飛んでも追いつけず、仮に接近できても格闘戦が有効ではない。ふたりにはこの状況を打破する策が浮かばない。


  「一瞬で距離を詰めてバリアブルガンのフルバーストを撃つのが有効だと思う」


  機械虫が撃ち出すエアロバレットはフォースフィールドで守られているガイファルドに致命的なダメージを与えれないのだが、、射撃の阻害にはなるし、直撃すればオプションスタイルの損傷は免れない。それを連射されてしまうとどうにも精密射撃をおこなう隙が少ないのだった。

  セイバーはヘビーアームズの背部から伸びるフレキシブルアームに取り付けられたシールドを前面に展開して機械虫のエアロバレットを防ぐが、着弾時に激しく弾けることで体を大きく揺らされてしまし、照準が上手くつけられない。更に言えばシールドの強度はいいとしても、アームのヒンジの負荷が大きく既に悲鳴を上げ始めていた。

  ノエルと言えば運動性を邪魔しない軽量のガン・スタイルではあるのだが、動き回りながらでは狙撃することが容易ではない。一瞬で照準を付けて動きを読んだ先を狙って撃たなければならないため、三発に一発当たるだけでも神がかった射撃センスと言える。


  「だぁっ、ちくしょう! 現行の実験型スナイパーライフルじゃ決定打にならない。バリアブルガンのフルバーストは使用に回数制限がある」


  イカロスからモニターするチーフメカニックの剛田が荒々しくデスクを叩く。


  「不幸中の幸いなのがあちらさんにも決定打がないことだね」


  剛田の横で博士がその言葉を言ったとき、機械虫の頭部の角が青白く光り出した。


  「ん?」


  博士が中指で眼鏡を整えつつモニターを凝視した瞬間にカッと一筋の閃光とバリバリバリという音が轟く。


  「あれ? もしかして、僕の言葉がなんかのフラグだったかな?」


  そう博士が口にした直後、


  「がぁぁぁっ」


  セイバーが声を上げてオプションスタイルのバックパックから小さな爆発が上がり煙を吹いた。


  「雷?」


  ノエルの呟きの通り蜂型の機械虫の角からの放たれた雷を思わせる電撃が、セイバーを直撃したのだった。その一撃でオプションスタイルのシステムがダウンしてしまった。


  「ヘビーアムズ・スタイル機能停止、致命的なダメージを受けています」


  当然耐電性の対策はされているが、それを上回る力が掛かってしまい機能を停止してしまったのだった。


  「まさか、狙った場所に電撃を放ったのか?!」


  「がはっ」


  バックパックのロックを解除したセイバーはそのまま膝から崩れてしまう。金属に近しい体を持ってはいるが機械的な作りでないガイファルドは回路のショートで機能停止するようなことはない。しかし、当然ダメージがないわけもなかった。


  「くそ、油断した」


  物理防御に頼るあまり、フォースフィールドの守りがおろそかになっていたのだ。これがまだアクトという共命者が未熟な点である。だがそれも仕方がない。アクトは共命者となってまだ半年足らずで、実戦回数もようやく両手でを使って数えるようになった程度だからだ。付け加えれば、常にフォースフィールドを全力展開するというのは人間で言えば全力疾走しているようなもので、そうと意識しなければアイドリング状態になり、全力で展開し続ければ疲弊してしまう。

  チャンスとばかりにセイバーに向かってエアロバレットが集中的に撃ち出された。その攻撃からセイバーを護るために覆いかぶさったノエルは、全力でフォースフィールド広げる。その衝撃は緩和されてはいるがそれでもノエルの体を激しく撃ち付け、その振動はセイバーに届いていた。


  「動ける? 留まるのは危険。またあの雷が来たらふたりともやられる」


  ノエルに無理やり引き起こされて背中を押されたセイバーは、どうにかその場を走って離れるたが、機械虫はそのノエルに急降下して迫り、すれ違いざまに鉤爪を使って背中と肩を切り裂いた。


  「ノエル!」


  機械虫はそのままの勢いで、振り向き叫ぶセイバーにも鉤爪で引き裂き、二体の巨人は傷口から緑色の体液を流して倒れてしまう。


  「おい、博士。俺も出るから開けてくれ」


  イカロスの後部格納庫で待機しているレオンが声を荒げて出動を要請した。


  「いや、まだ待機だ。君が行ってどうなるものでもない」


  「でもこのままじゃ」


  「ましてや君はふたり以上の肉弾格闘戦特化型じゃないか。空飛ぶ相手にどうしよっていうんだ。ヘビーアームズもガン・スタイルもスナイパー・スタイルもろくに扱えないんじゃ行ったところで格好の的になるだけだ」


  「くっ」


  ルークは今までオプション・スタイルの訓練をろくにしてこなかった。銃という飛び道具が嫌いなこと、格闘戦が好きなこと、その強さに自信があるといった理由が挙げられる。

  今、レオンの頭の中で蜂型機械虫との模擬戦をしてみたところ、確かに有効な手立ては思いつかなかった。自分が出たところで戦況に変化はない。このままふたりがやられることも想像できないが、だからと言って放っても置けない。

  慣れない脳作業を繰り返していると艦内に再びアラートが鳴った。


  「このアラートは。また出たのか?」


  「S国のS研究施設付近に大型の機械虫が出現。恐らくA級以上。数匹の小型機械虫を引き連れているとのことです」


  セイバーとノエルが戦っている機械虫は確定はしていないがA級を超えるS級と言っていい機械虫だった。対機械虫世界軍事同盟の情報からS国に現れた『大型機械虫』という今までにない言い方からすると、連結機械虫もしくはこの蜂型と同じS級であるという可能性がある。


  「ったくいったいどっから湧いて出やがるんだ」


  「アーロン司令、A級かそれ以上の機械虫が二か所に同時に出現してしまった。どうする?」


  普段の戦闘指揮は機械虫を分析した上でガイファルドとオプション・アームズの相性なども考慮し、博士の指示、剛田のアドバイスを受けて共命者が臨機応変に対応している。だが、現場の戦闘ではなく、こういった対応においてはさすがに博士は専門外のため判断がつかない。基地の司令室に居るアーロン司令官に判断を任せた。

  世界の機械虫情報機関からの緊急放送がされ、画面に映し出された機械虫はおよそ虫とは呼ぶのはどうかと思えるような、虫から三歩くらい逸脱した巨大な怪物だった。


  「おいおい、こいつはいったいなんなんだ」


  そう口から言葉を漏らしたレオンは、そのとき既に覚悟を決めていた。これから自分が相手にする敵なのだと。

  緊急放送で大型機械虫が映し出されてから約1分。すでにS国の軍が包囲を始めており、隣国の同盟軍も集結しつつあった。


  「見た感じだけで言えば、今までに出てきた機械虫の中で一番強そうじゃないか?」


  レオンが口にした率直な感想は博士や他のメンバーも同じ意見だった。画面越しとは言えなんとも言えな威圧感を感じてしまうのは大きいからだけではないだろう。もちろん大きければ強い。動物だってカバでもサイでも象でも、人間が素手で対抗する気にはならないのと同じだ。まして間近に相対すればその圧倒的な存在感は肉食獣でなくたって恐怖すら感じるものである。


  「これはガイファルド三体で掛からにゃいかんな」


  剛田の言葉に博士もうなずいた。


  「まずは蜂もどきをみんなで始末してから向かうのが得策だろう」


  誰もが納得する博士の言葉に、


  「先に俺が行って足止め……、いや、俺がぶっ倒してやる」


  レオンは別の選択をした。


  「無茶言うな。まだどういった機械虫かの情報もないのに。それにあの巨体だ、いくらパワー型のレオンでもあれと力比べは無理に決まってる」


  反論されたレオンだったが既に発進準備を進めていた。


  「時間が無い。放っておいたら同盟軍も含めてS国の街と人にも甚大な被害がでちまう」


  「待て、まだ司令の指示が出ていない」


  レオンは格納庫に搭載されているガイファルド一体が搭乗できる小型の輸送機の発進準備を進めていた。


  「おい、レオン!」


  剛田が格納庫に向かおうとしたとき、アーロンから通信が入った。


  「おう、アーロン司令、レオンがひとりでS国の機械虫を相手にするって言ってやがるんだ。早く止めてくれ」


  その説明を受けたアーロンがレオンに命令する。


  「レオン、お前は単身S国に向かい、巨大機械虫の足止め、および人命救助をおこなえ」


  「えーーーー!」


  剛田は派手なポーズで驚き、アーロンに問い返した。


  「おいおい、こっちの蜂もどきにノエルたちは苦戦中なんだぜ。それにあの得体の知れない巨大な機械虫相手にレオンだけで立ち向かうなんて危険だろ」


  「心配する気持ちはわかる。だが、ガイファルドたちが明確な危機に陥っているわけではない。多少の苦戦など知恵と力乗り越えられる。それに、機械虫一匹相手に二体のガイファルドで苦戦するなどあってはならない。それはレオンも同じことだ。例え巨大だろうがガイファルドが機械虫などに負けはしない。そうだろ? レオン」


  「さすが司令、わかってるじゃないか」


  既に輸送機に登場したレオンは発進口に向けて移動していた。


  「その小型輸送機ではオプション・スタイルは積み込めない」


  「だったらなおさら俺が行くべきだろ」


  レオンはこれまでの戦いも基本的にオプション・スタイルを使わずその身ひとつで闘っていた。


  「こっちのことは任せておけ。さっさと片付けて蜂型に苦戦しているふたりの援護に戻ってきてやるよ」


  「バカ野郎、往復でどれだけ掛かると思ってんだ」


 剛田は口を尖らせレオンのジョークに突っ込むが、内心は不安と心配で溢れていた。最近はA級機械虫を超える連結機械虫が登場し、今までのように圧倒することが出来なくなってきていた上に、今度は連結という変則的ではなく、純粋にA級を超えたS級という機械虫が現れたからだ。


  「んじゃ行ってくるぜ!」


  小型輸送機の発進口が開き、カタパルトが輸送機を加速させていく。射出された輸送機は可変翼を広げてジェットエンジンを噴射させ、S国に向かって飛んで行った。


  「剛田君の心配は最もだ。ガイファルドの優位性が失われて行くのを感じているんだろ?」


  各国の軍隊がそうであったように、機動重機部隊がそうであったように、一時は優位にあった戦力が時と共に追いつき追いつかれ、最後は戦力外になっていったのだ。ガイファルドもいつしかそうなるではないかという懸念が徐々に彼らの心に湧き上がってきていた。


  「だからこそ、我々も戦力増強していかなければならない。未知のガイファルドの力におんぶに抱っこではこの先を戦っていくのは難しいからな」


  「そうだな。だから早くアレらの完成をさせなきゃならねぇ」


  不安に揺れた心に希望と活を注入し合ったふたりは、気を取り直して眼下で苦戦するセイバーとノエルへ意識を戻した。


  「さて、レオンが格好つけてひとりで行っちまったんだ。こっちもさっさと片付けてレオンの見せ場を潰しに行ってやろうぜ!」


  剛田はいつもの怒号の声で隊員にも活を入れる。


  「八島、奴の電撃のデータを取れ。チャージ時間、発射のタイミング、有効射程などもろもろだ」


  「了解です」


  「ジョー、北斗、奴の力場の広さに合わせてイカロスを接近。援護射撃で牽制しろ」


  「剛田さん、それはワタシの仕事だよ」


  艦長であるヤマト=ウィルソンが呆れぎみに剛田に抗議する。ヤマトは改めて指示を飛ばした。

  「あの機械虫に接近するとなれば加減速が激しくなる。ゲンジュウロウ、動力炉のリミッターを三十パーセント解放。ジョー、操舵ミスは命取りだ。ガイファルドの攻撃の邪魔にならないようにしろ」


  「アイ・サー!」


  剛田はあくまでガイファルドの戦闘アドバイザーであって、イカロスに対しての指揮権はないのだが、性格が性格なだけに、ついついこうなってしまうのだった。


  「剛田君、調子が戻ったね」


  うんうんとうなずく博士にも剛田は声を飛ばす。


  「博士、やっぱりアレを使おうぜ」


  「アレってアレかい?」


  「そう! ジェット・スタイルだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ