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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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041.どっちも困った存在

 胡椒は僕が思っていた以上に出来た。

 パフィは胡椒がたっぷりかかった鶏肉に満足して、他にも作るぞ! ……と、次々と香辛料の元となる木を育てていった。

 いくらなんでも育て過ぎなんじゃないの? と言うと、にやりと笑って、アマーリアーナの時間だから構わんと言う。

 ……アマーリアーナ様、怒らないと良いんだけど。


 香辛料がダンジョンで栽培出来るようになったから、食材にお金をかけられるようになったのは嬉しい。

 城のみんなも嬉しそう。


「なるほど、パシュパフィッツェ様の助力をいただいたから香辛料は無事に育ったのか」


「そうなんです」


 殿下はカウンターに腰掛けてミルク入りコーヒーを飲んでいる。


「最近、アシュリーの料理が前にも増して美味しくなったから、何でだろうと話していたんだけど、そう言う事だったのか」


 新鮮な香辛料と、種類が増えた食材のおかげです。

 しけっていない香辛料は、香りも味も強くて、料理の味が別の物になったように変わる。

 特に胡椒はそれが分かりやすい気がする。


「美味しく食べてもらえてるなら、嬉しいです」


「それで、それは何なのだ?」


 作業しながら殿下と話すのは良くないんだけど、殿下が良いって言うし、早めに処理しなくちゃいけないから、お言葉に甘えて作業してる。

 ギルドの人と香辛料と引き換えに貝を沢山もらったから、その下処理と言う奴です。

 分からないことばかりだから、ラズロさんに教えてもらいながら作業してる。


「砂を吐かせるんです」


 大きめの器の中で、まだ生きている貝がうっすらと口を開けてる。


「砂? それは貝と言う奴だろう? 貝は砂を食べるのか?」


「餌と一緒に食っちまう、って言った方が正しいですね」


 ラズロさんの説明に殿下はなるほど、と頷く。


「我らは砂を食べないからな、吐き出させるのか」


「それもそうですけど、美味くないでしょ」


 笑うラズロさんに、確かにと答えて殿下は笑う。


 ギルドに海と繋がったダンジョンが出来て、羽毛布団を作る為の鳥の飼育場が出来て、薬屋にする為の建物が建てられていってる。

 大浴場も出来た。

 今はまだ、北の国との交易が途絶えて困ったものの対応が済んだだけ。


 まだまだやらなくてはいけないことは沢山あるんだろうけど、事件直後の重苦しい空気はなくなったように思う。


 人は一人で生きていなくて、色んなものと繋がって皆の生活が出来ているんだって今回のことでよく分かった。

 あと、出来るからって、なんでも力で解決しちゃ駄目なんだってことも。

 力強い存在がいるとどうしても頼りたくなってしまう。でもそうやってると成長しないんだってこととか、その存在がいなくなるとこんなに簡単に足元が頼りなくなるんだってこととか。


「何が出来るのか楽しみだ」


「今日はミルクがたくさんあるので、貝とミルクでスープを作ります」


「スープか、身体の中から力がわくから、好きだな」


 よく動いて、よく食べて、寝ているからだろうな。

 殿下は前よりも顔色が良くなった。

 元々身体が強くないから、見た目は変わらないけど。


「もし出来るなら、平パンも食べたい」


 珍しく食べたいものを殿下が口にする。


「分かりました」


 殿下に出すパンには、前と変わらずにジャッロたちの蜂蜜が入ってる。

 まだまだ、殿下の身体は色んなものを必要とする。


「たくさん食べて下さいね」


 もちろん、と答えて殿下は食堂を出て行った。


「最近は悪夢に魘されることも減ったみたいだぞ」


 隣のラズロさんがぽつりと呟く。


「ネロにお願いして、たまにですけど殿下の寝室に忍び込んでもらってます」


「なるほどな」


 毎日だと殿下にバレてしまうから。

 勘が良いから、もうバレているかも知れないけど。


 進んだと思っても、思いがけなく立ち止まることがあるんだ、ってラズロさんが言う。

 それは自分が思うよりも深く自分の中に入り込んでいたりするんだって。

 殿下のそれも、そういうものなのかも知れない。


「アシュリーも、ちょっとでも辛くなったら言えよ?」


「はい。でも僕は大丈夫ですよ」




 貝と野菜のたっぷり入ったクリームスープを、パフィは満足気に食べてる。

 このスープはパフィのリクエストで作っただけあって、喜んでる。


『美味いな。海沿いの街で食べた時より美味い』


 香辛料だな、と言ってぺろりと口を舐める。

 中身はパフィなんだけど、猫の姿だからか可愛いなぁ。

 思わず撫でたら手をぱし、と叩かれた。


 僕もスープを口にする。

 うん、ラズロさんが言うような、砂のジャリジャリした感じもないし、美味しい。生臭くもないし。

 やっぱり鮮度が大事なんだね。


『第二層が出来たな。後は第三層と第四層。それから第五層だ』


 春、夏、秋、冬で四つの層を作るのは分かってたけど、第五層も?


「五つも層を作るの?」


『アマーリアーナからの依頼だ』


 アマーリアーナ様に頼まれた物を作るのに層が必要ってこと?


『冬になる前に、無駄に増えたダンジョンも消さねばならんし、忙しくなるぞ』


「どっちもやるの?」


 ダンジョンの層も増やして、他のダンジョンも消して、って凄い大変そうに思えるんだけど。


『そうだ。ダンジョンが自然発生するあたりは魔力が滞留しやすい。そこの魔力をこっちに送る必要があるからな』


 なるほど。

 裏庭のダンジョンはあちこちから魔力を持って来てるんだもんね。でも魔力もいくらでもある訳じゃないし、新しい場所から持ってくる必要があるんだろうな。


 おかわり、と言われたのでパフィ用にスープをよそいに厨房に入る。

 今日はラズロさんは宵鍋に行ってていない。

 香辛料をお裾分けした。宵鍋以外のお店にも少しずつ配るって言ってた。

 パフィもそれには反対してなかった。……アマーリアーナ様の魔力で作ったから反対しなかったのかも知れないけど。


『世界中は無理だが、この国にある余計なダンジョンは消しておく。冬の王を作らせない為にもな』


「それなら隣の国のも消した方が良いんじゃないの?」


 冬の王が現れると、要請が来るって言ってたし。


『北の国がか? どのツラ下げて依頼するのか、見ものだがな』


「犠牲になるのは、ナインさん達のような魔術師達だよ?」


 そのスキルを持っているだけで奴隷にされてしまった。何も悪くないのに。


 そうだな、と答えてパフィはしっぽを揺らした。


『使えるかも知れんな』


 使える?


『北の国のダンジョンを氾濫させる』


「え?!」


 そうなったら奴隷にされた魔術師の人たちが大変な目に遭うだけなんじゃないのかな?


『ダンジョンの奥に、救いを求める者だけが通れる門を作っておけば良い。この国は魔術師が少ないからな、重宝されるだろう』


「それは名案ですね。衣食住を用意しないと」


 声がして振り向くとノエルさんが立ってて、目が合うと笑顔で手を振ってきた。


「アシュリー、僕もスープもらって良い?」


「はい、すぐ持って来ます」


 立ち上がろうとしたら、止められた。


「大丈夫、自分で用意出来るから」


 そう言って厨房に入るノエルさんを見て、パフィが言う。


『大盛りにしてくると思うぞ』


「僕もそう思う」


 思っていた通り、ノエルさんはたっぷりスープをよそってやって来た。

 満面の笑みで。


『ほらな』


「さっきの話ですが」


 ノエルさんが話し始める。

 パフィの言ったことが気になってるみたい。


「賛成です。

あの国の魔術師の扱いは非道だった」


 思い出して眉間にしわを寄せるノエルさん。

 本当はもっと助けたかったけど、出来なくてナインさんだけでもと連れて帰って来た。


『滅ぼすのか、存続させるのかを決めろ。

南もだ』


 南もですか、と答えて困った顔を見せるけど、驚いた様子ではないから、ノエルさんも考えてはいることなんだろうか、もしかして。


「滅ぼすのは無理ですね。多くの人がこの国に入り込んでしまう。存続させつつ、打撃を与える事を考えなくては」


 言いながらもスープがノエルさんの口に消えていく。

 いつも思うんだけど、この細い身体のどこに入っていくんだろう?


『何でも良い。民ごとまるっと滅ぼしても構わん』


 物騒なことを言ってのけるパフィに、ノエルさんは困った顔をする。


「パシュパフィッツェ様は、北と南を厭われてらっしゃるのですか?」


『どちらもいずれ、コレに気付く。既に気付いているかも知らん』


 コレ、と言いながら僕をしっぽで指す。


 僕の存在が知られたら……大変なことに、なりそうだなぁって、僕でも思う。

 北の国はクロウリーさんのこともあって、僕のことを許さないだろうな。でも、ダンジョン蜂のこともあるから、奴隷にされるんじゃないかな……。


「不自然ですからね、この国が北と交易せずともいられる事や、ダンジョン蜂の蜜、国の復興の速さなどが」


『そうだ。そうなった場合に、多くの魔術師が投入される。北が本腰を入れれば南とて気付く。

南の奴らならば平民を囲い込み己が国の犠牲にしてるとでも、嘯くだろうよ』


 パフィの言葉にノエルさんが眉間に皺を寄せる。


『どちらも上だけが屑なのだ。

それらを取っ払えば存外誰もが幸福になるかも知れんぞ?』


 にやりと笑ってパフィはぴょんとベンチから飛び降り、食堂を出て行った。


「パシュパフィッツェ様のおっしゃる事、ありかも知れないなぁ」


 ノエルさんの言葉にびっくりしてしまう。

 だってそれって、戦争になるってことじゃ……。


「北と南の国以外は、この周辺は穏やかな国が多いんだよね。だからどっちもいなくなってくれたら、本当に平和かも」


 うん、ありな気がする、と言ってノエルさんはスープを食べていく。

 ぺろりと平らげてから、「大丈夫、アシュリーが心配するような事は起きないようにするからね」と笑顔で言って、いなくなった。


 僕は思わず、隣に座ってるフルールに話しかけてしまった。


「どう思う? フルール……」


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