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予言の紅星4 上級学校の学生  作者: 杵築しゅん
春大会

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春大会 (5)

 ザクは、1年生のイツキに叱られている先輩方に信じられない異様さを感じた。イツキ君っていったい何者なのだろうと訊かずにはいられなかった。

 

「ああ、ザク、多くは教えられないが、我々のリーダーは実はイツキ君だ。君はさっき、今日の春大会参加で、イツキ君に恥をかかせることになって、本当に申し訳ないと言っていたが、それは違う、勘違いだ。明日になったら分かるが、今日の大会で最高得点を叩き出したのはイツキ君だ」


エンター部長は、イツキと自分の覚悟の違いを、改めて思い知った気がして落ち込みながらも、イツキについての説明をザクにする。


「そうだ。しかも……恐らくぶっちぎりで」


イツキの自分への問いで、自分の視野が狭過ぎたこと、そしてこれは、この戦いは命懸けの戦いだったと、自分の甘さに気付いたインカ隊長は、ザクにも視野を広げさせるために、真実を告げる。


「ええっ?イツキ君がリーダーで最高得点?」


ザクの頭は処理能力を越えてしまったようで、2人の先輩方の顔を見てはイツキの顔を見て、何とか言葉の意味を理解しようと努める。


「ザク先輩、人とは過ちを犯す生き物なのです。だからこそ悔い改めて、どう償うかが大切なのです。しかし、中には罪を罪とは思わず、悪を悪だと気付かない者がいます。その殆どが歪められた教えや、自分に都合のいい解釈によって己を正当化する弱い心のせいで、正しいことに気付けなくなるのです。ブルーニは、歪められた教えに洗脳された、操り人形に過ぎません。切れるものなら操る糸を切りたい。それが僕の目標です」


ブルーニの洗脳がどんどん凶悪化していく前に、何とかしなければとイツキは思いながら、悔い改めてくれたザクを仲間にするために、戦う敵の正体と自分の目的を教える。


「洗脳された操り人形・・・ブルーニが・・・」


ブルーニという強大で邪悪な先輩を、操り人形扱いするイツキの話に、ザクの思考は混乱するばかりだった。 

 インカ隊長はザクの様子を見て、イツキの話の内容は、イツキが何者であるかを知らないザクには、難し過ぎるだろうと判断した。隣に座っているエンター部長を見ると同じ考えのようで、交わした視線に頷いている。


「イツキ君、ザクには分かりや易くエンター部長と俺で説明するよ。明日計画しているブルーニたちの策略阻止の方法は、これから考える。いつもイツキ君に甘えてばかりでは情けない。必ず君の親衛隊副隊長のモンサンは守ると約束する」


インカ隊長が力強くそう宣言すると、エンター部長も頷き「任せろ!」と誓う。


「イツキ君、僕を信じてくれてありがとう。僕の償う方法が工作員で良いのなら、全力で頑張るよ。それから、僕のように脅されている学生がいないか探ってみる」


ザクはもう泣いていなかった。もう1人ではないし、人を傷付けなくて済むのだ。イツキに新たな目標と償う道を与えられ、生きて頑張ろうと思うのだった。





 イツキはエンター部長の部屋を出た後、東寮の管理者であるフォース先生の部屋を訪ねていた。

 今日の犯人とその背景の報告、そしてザクの処罰に対する依頼と、これからの戦い方についての相談の為に。


「そうか、執行部のザクが……でも罪は罪だ。イツキ君が言っていた、洗脳者は自分の手を汚さないというやり方は、これから犯罪者を増やす可能性があるということだな」


仲間の弱味を握って、脅しをかけ罪を犯させる。それをまた脅しの材料にする……そんなことを学生が行う。その現実にフォースは恐怖を覚えた。

 伝統あるレガート国立上級学校の学生を洗脳する。その意味を考えると、この国の将来を担う学生たちが、悪に染まった状態で地方や王宮の上官になっていくのだ・・・考えただけでも身震いする程恐ろしい。


「フォース先生お願いなのですが、ザク先輩の処分は、何時でも出せるようにしておいてください。ブルーニはザク先輩が寝返ったと知れば、必ず報復してきます。先輩の罪を奴等の手で公にされる前に、自ら罪を校長に告白し、ペナルティーを受け、命令ではなく自分から執行部役員を降りたと、掲示板で公表されなければなりません」


イツキはザクを守るための依頼をして、これからは自分が矢面に立ち、奴等の狙いを自分に向ける決断をしたと告げた。

 フォースは、そんなイツキの決断に、止めろともダメだとも頑張れとも言えない自分が、酷く情けない気持ちになった。イツキは【治安部隊指揮官補佐】であり、自分よりも専門家なのだ……下手な指示など出来ない。

 恐らく在校生の中で最年少でありながら、誰よりも大人である。


 まだ14歳になったばかりの目の前の少年は、任務よりも普通の学生として生活するよう、下された王命さえ拒んで働こうとしている・・・そして、とうとう危険を覚悟で前に出ると言う。教師として自分に出来ることは何だろうか……?


「分かった。校長に伝えておく。イツキ君、必要なら何時でも声を掛けてくれ」

「ありがとうございます。では今度、剣の練習に付き合ってください」


イツキは嬉しそうにそう言うと、部屋の中に積まれていた本の中から、1冊の本を抜き出して「借りていきます」と笑って出て行った。

 その夜、フォースは眠れなかった。

 イツキの生き方を理解しようとして理解出来ず、イツキの育った環境を知れば、何か理解できるのではないかと思いついた。




【春大会】2日目の朝は、生憎の雨だった。

 学生たちは恨めしそうに空を見上げて、午後からは晴れますようにと願を掛ける。

 朝食を食べに来た3年首席のクレタは、半数の学生たちに笑われながら「ドンマイ」と声を掛けられていた。

 ブルーニに至っては、食事中のクレタの側まで来て「お前は一生レガート城に行くことはないだろう」と、わざわざ宣言をしに来た。



 そして訪れた昼休み、学生たちは食堂の掲示板に貼られた順位表を見ようと、我先にと走って食堂へ急いだ。

 自分たちのグループは、いったい何位なのか、そして課題1の100問試験で最高得点を叩き出したのは、どのグループなのかを知るために走る。

 課題2の暗号問題は、インカ隊長のグループがトップだと皆が思っていた。

 最も重要なのが、総合トップは誰が率いるグループなのかである。


 皆の予想では、暗号問題で3題全てを解いた、インカ風紀部隊長の率いる2年ヤン、ミノルのグループと、エンター執行部部長の率いる2年ヨシノリ、ロマノのグループが最有力候補だった。

 拮抗してブルーニ率いるグループと、植物部部長パルテノン率いるグループ辺りが、上位につけていると予想されていた。

 知能で勝てないグループは、今日のリレーマラソンで入賞を狙うしかない。その為、7位から15位までのグループは、今日の出来に全てが掛かっているのである。



 掲示板には3枚の紙が張り出されていた。

 1枚目は課題1【100問試験】の順位と得点。2枚目は課題2【暗号問題】の順位と得点。3枚目は【総合得点】の順位表だった。

 集まった学生たちは、予想外の結果に「ええぇぇー!!」と驚きの声を上げ、信じられないと黙り込み、イツキが姿を現したところで、大歓声に変わっていった。


【100問試験】1位 グループ名 最強化学部(1年イツキ、2年セティ、ウナス) 

 得点 98点(社会の2点分は現在審議中に付き、99点、100点の可能性あり)


 2位はエンター部長のグループ 70点。3位はインカ隊長のグループとブルーニのグループが、同じ67点だった。


【暗号問題】 1位 グループ名 最強化学部  得点 130点


 2位 インカ隊長のグループ 110点  3位 文学部部長のグループ 90点  4位の80点は6グループいた。


【総合得点】 1位 最強化学部 228点(暫定)  2位 インカ隊長のグループ 177点  3位 エンター部長のグループ 150点  4位 文学部部長のグループ 148点  5位 ブルーニのグループ 147点


 この結果、午後から行われるリレーマラソンの最高得点50点を、2位のインカ隊長のグループが獲得したとしても、イツキのグループ最強化学部が1位を守り抜けることになる。

 リレーマラソンはタイムで競うが、規定の時間以内にゴール出来れば5点は貰える。


 昨夜クレタは同じグループのセティとウナスから、イツキ君は100問試験を全問解答し、暗号問題は130点だったと聞かされていた。しかし、100問試験を1人で98点取れるとは思っていなかった。2人の後輩から、イツキ君は天才だと思うと言われていたが、まさか本当に天才だったとは・・・

 感極まったクレタは、思いっ切りイツキに抱き付き、セティとウナスと共に、必ずリレーマラソンでも加点してみせるとイツキに誓った。



「イツキ君ありがとう。先週教えて貰っていた暗号の解き方が役に立ったよ。文学部で5位に入ったのは10年振りだ。本当に・・・う、嬉しいよ。また部室に遊びに来てくれ」


文学部部長は半泣きしながら、文学部の全員を引き連れて、イツキにお礼を言いに来た。皆は尊敬と憧れで瞳をキラキラとを輝かせて、何故かイツキを拝んでいる。

【総合得点】の10位は114点なので、リレーマラソンで30点取れば10位入賞も夢ではないらしい。「死に物狂いで走ってレガート城に行くぞー」と叫びながら、文学部の皆さんは去って行った。


 例年10位以内の得点は、180点以上らしいが、今年は暗号問題で、3題目の問題を解くことが出来たのが、3グループだけだったので、平均点が低かった。

 

『本当にぶっちぎりだ・・・!』


風紀部役員と、ブルーニを除く執行部役員は、まさかここまでとは……と、分かっていたつもりだったが、実際に結果を見て改めてイツキの天才振りを思い知った。


「やあブルーニ、今朝は心配してくれていたが、君のお陰で僕はレガート城に行けることになったよ。でも感謝はしない。僕は暗い所は好きじゃないんでね」


含みのある言い方で、クレタはブルーニに勝利宣言と、宣戦布告を告げた。


 食堂内は、イツキのぶっちぎりの1人勝ちに、暫く興奮が納まらなかった。

 そして全学生が、1年のイツキは、天才的頭脳の持ち主であると知ったのである。



 昼食が終わる頃、空は明るくなり始め雨は止んだ。

 いよいよ【春大会】最後の課題である、リレーマラソンが開始される。マラソンコースは、上級学校の外周を6周するのだが、1人必ず2周しなければならい。

 順番は各グループでどう決めても構わず、1周する毎に先生が手に色印を付けるので、3人の手に着いた色の合計は、6色でなければならない。


 エンター部長とインカ隊長は、ブルーニとザク以外の役員を集めて、誰と誰がモンサンと走るのかを決めていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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