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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第4章 休息

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90.1人での依頼 前編

 改めて依頼板を見にきた稜真は、1つ気になる依頼を見つけた。


『ワイズ村の雪下ろし』


 若手が出稼ぎに出ており、その村には老人と子供しかいない。雪深いその村では屋根の雪を降ろさないと、家がつぶれるのだ。今年は特に雪深く、村までの道が閉ざされていた。

 村では毎年この時期になると、必ずギルドに依頼を出す。雪下ろしは早急に行う必要があるのに、今年は依頼を受ける者がいなかった。

 道が無く、迂回路もないのだ。雪をかき分けて進むとなると時間がかかりすぎる上に、遭難の危険性がある。割に合わず、依頼料も安い。


 稜真が1人で魔物退治を受けると、アリアに何を言われるか分からないが、これならば問題ないだろう。人助けにもなる。稜真はこの依頼を受ける事にした。

 受付へ依頼書を持って行くと、パメラが喜んだ。

「リョウマ君がこの依頼を受けてくれるの? 助かるわぁ。もし良かったら、もう1つ、依頼を受けてくれないかしら?」


 そう言うとパメラは、手元の引き出しから1枚の依頼書を出した。同じ村への食料配達の依頼だ。


「依頼主は、雪が降る前に配達する予定だったの。急な雪で配達が出来なくなり、困ってギルドに依頼を出した。でも、雪下ろしと同じで、受けてくれる人がいなかったの」


 引き出しに入れていたのは、依頼主が冒険者を雇って配達する依頼に変更しようか、パメラに相談したからだ。余程報酬を弾まなければ、引き受ける者はいないと説明し、依頼主は取り下げようか報酬を用意しようか、検討中なのだ。


 配達品の内容は、砂糖等の調味料、酒、果物、お菓子等だった。年越しのお祝い用だったらしい。


「リョウマ君ならグリフォンで行けるものね」

「はい。行き来が閉ざされてから長いんですよね。村の人が無事でいるのか心配です」

「村の人はたくましいから大丈夫よ。それで、この依頼、受けてくれるかしら?」

「分かりました。村に向かうついでですからね」

「助かるわ。村の子供達は、お祝いのお菓子がなくて、寂しい思いをしたと思うのよ。きっと喜んでくれる。お願いね」

 そう言って、パメラは微笑んだ。


 稜真は2件の依頼を受けると、きさらとそらに食事を用意し、自分も昼食をすませた。そして、きさらとそらを連れ、配達の依頼者の商店へ向かった。

「こんにちは。ワイズ村への配達依頼を受けて来ました」

 商店の中へ声をかけると、男が出て来た。

「あの依頼をか? どうやって──」

 行くつもりだ、と続けようとした男は、きさらを見て納得した。

「助かる」


 稜真がアイテムボックス持ちであると伝えると、男の表情は更に明るくなった。

「本当に助かる。村のもんがどんな風に年を越したのか、気になっていたんだ。ありがたい。──荷はこれだ。持てるだけでいい。頼む」


 荷物は腐る物ではないので、荷造りされたままだ。馬車1台分の荷物を、稜真は全てアイテムボックスに入れた。

「ははぁ…。全部入るとは、大きなアイテムボックス持ってるんだなぁ。さすがはアリア様の従者。よろしく頼むよ」


(はは…また言われたよ……)




「おーい! ちょっと待ってくれ!」

 稜真は、どこかで聞いたような声に呼び止められた。振り返ると、声の主はエイブだった。

「なんでしょう?」

「ワイズ村への依頼を受けたと聞いたんだ。俺も連れて行って貰えないか? あそこ、じいちゃんがいるんだ」

 頼む!とエイブは頭を下げた。


 エイブは稜真より身長が高いが、ゴツい体つきではない。多分2人でも乗れるだろう。


「きさらがいいと言うなら」

 稜真がそう言うと、エイブはきさらの正面に回った。そして、もう1度ガバッと頭を下げた。

「頼む! 俺も乗せてくれ!」

「クォルルゥ?」


 きさらはいきなり自分に頭を下げて見せたエイブに驚き、目を丸くした。きさらの頭に乗っていたそらも、同じ顔をしている。稜真はくすっと笑った。成り行きとは言え、自分を叩きのめした相手に頭を下げるとは、潔い男だと思う。


「きさら。この人が一緒に乗せて欲しいんだって」

『んん? きさらは乗せてもいいよ』

「アリアより重そうだけど、大丈夫かな?」

『きさら、力持ち! 大丈夫!』


「構わないと言っています。一緒に行きましょうか」




 町から出て、門の外できさらに乗る。エイブを前に乗せると、身長差で前が見えなくなったので、後ろに乗って貰った。

「俺にしっかり摑まって下さい。村までの案内をお願いします」

「おう。任せてくれ」

 そらが先に飛び立ち、きさらが続く。浮遊感に驚いたエイブは稜真にしがみついた。


「この方向に、しばらく真っ直ぐだ。──さっきは…絡んで悪かった」

「そのお陰で、他の皆さんにも納得して貰えました。俺も、遠慮なく相手させて貰いましたし」

「お前、強かったな。驚いたよ。なぁ、リョウマさんって呼んだ方がいいのか?」

「ははっ、俺の方が年下でしょ? 稜真でいいですよ」

「俺の方こそエイブでいい。敬語もいらねぇ」

「そう? それじゃ、エイブで」


「それにしてもよ。空から行くと、こんなに早いんだなぁ」

 エイブは1人で依頼を受けて行こうとしたが、途中で遭難しかけたのだと言う。


「村はあそこだ、見えるか?」


 エイブが指した方向に小さな村が見えた。上から見ると、村につながる道はどこにも見えず、雪に埋もれているように見える。これでは地上から行くのは難しい。──エイブが遭難しかけたと言うのも頷ける。



 村の中央の広場に下りると、雪かきをしていた村人の悲鳴が上がった。

 雪が多く道が閉ざされていた為、伯爵の通達が届いていなかったのだ。グリフォンが村を襲いに来たと思われたようだ。


「おおい、皆! 俺だ、エイブだ!」

「ええ!? エイブ兄ちゃん、どうしてグリフォンに乗ってるの?」

 エイブがいた事で安心したのか、村人達が集まって来た。怖がる様子も見せずに近づいて来たのは、雪遊びをしていた子供達だ。1番大きい子で12~3歳だろうか。大人が止める間もなく、わらわらときさらの側に集まって来た。


「村の雪下ろしの依頼を受けて来たんだよ。グリフォンは、アリア様の従者がテイムしている魔獣なんだ」

 きさらから降りたエイブが説明し、稜真を紹介してくれた。

「こいつがリョウマ。依頼を受けてくれてな。俺も乗せて貰ったんだ。よぅ! じいちゃん、ただいま!」

 前に進み出た老人に、エイブは手を挙げて挨拶した。


「お帰り、エイブ。アリア様の従者様が依頼を受けて来てくれたとは、ありがたいのぅ。今年は誰も来てくれんと思っとったわ。──リョウマ様。いよいよとなったら、おいぼれが屋根に上がるつもりでおりましたじゃ。来て頂いてありがとうございます」


「様呼びは勘弁して下さい。それから食料も預かって来ました。どこに出せば良いですか?」


「おお、おお! 頼んでおった食料ですか。ありがたいですのぅ。わしの家にお願いしますじゃ。皆の者、リョウマさんが祝い用の食料を運んできて下さった。祝いが出来るぞ!」

「村長様、本当! やった!!」

「まあ、今年は諦めていたのに、ありがたいですね」

「お兄ちゃん! お菓子? ねぇ、お菓子もあるの?」


 きさらの周りに集まっていた子供達が、今度は稜真を囲む。

「全部持って来たからね。お菓子もあると思うよ」

 稜真が答えると、子供達が飛び上がって喜んだ。

「やった~!」

「ほら、お前等! 囲んでるとリョウマが歩けないだろ! お菓子は後だぞ!」

「は~い」

 エイブの言葉に、子供達は素直に下がって行った。


「エイブのおじいさんは、村長だったんだね」

「お? 言ってなかったっけ?」

「聞いてない。エイブがいなかったら、きさらの事説明するのが、大変だったと思う。助かったよ」

「なんでもないさ、そんなもん」


 村でも一際ひときわ大きな家に案内された。そらときさらは家の前で待たせる。中へ入った稜真は、預かった食料をアイテムボックスから次々に取り出した。


「これはこれは…。全部運んで下さったのか。ありがたい。後は、肉が少し足らんくらいかの。いや、助かりましたじゃ」

「こちらに来るついででしたから、それでは雪下ろしを始めますね」


 表に出ると子供達がいた。そらときさらに話しかけていたのだ。


「今から始めるぞ! お前らも手伝えよ!」

「はーい」と、子供達は元気に返事をした。


 可愛いお手伝いを確保し、早速作業を始める。


 身軽な稜真が屋根から雪を下ろし、その雪をエイブがどかす。家の近くに積めるだけ積み、積めなくなった分は、そりに乗せ、村の隣に作られた雪捨て場へと運ぶ。地味で大変な作業だ。

 子供達も小さなそりに雪を乗せて、運ぶのを手伝う。


 屋根雪は1メートル以上積み上がっていて、家が軋んでいた。危ない所だったのだ。


 小さなこの村は、30軒ほどの集落だった。

 うまやや納屋なども雪下ろしの必要があるだろう。2人で頑張っても、明日で終わらせるのは難しいかも知れない。


 何日分も積み上がった雪は、固く締まっている。これならば、きさらが持てるのではないだろうか?

「きさら、ちょっとこっちに来て!」

 稜真の呼び声で、寝そべっていたきさらは、すぐに飛んで来た。


『主、呼んだ?』

「屋根の雪を持てないかと思ってね」

『雪? 持つの?』

 空中でホバリングしながら、きさらは両腕で雪の塊を持ち上げた。同じ大きさを稜真が下ろそうとしたら、何回にも分けないとならないだろう。そんな大きな塊だ。


「よし、出来るね。エイブ! きさらに雪を運ぶ場所を、教えてくれるか!」

 下に投げ落とすより、直接運んだ方が手間が減る。

「おお!? 分かった。こっちだ!」

 エイブは雪捨て場へきさらを案内した。きさらは前脚で雪の塊を抱え、空から雪捨て場に投げ落とす。


「きさら。向こうの家から順番に、屋根に積もっている雪を、今みたいにどんどん運んでくれるかな?」

『分かった。きさら、頑張る!』


 きさらが屋根雪の塊を運ぶのは、稜真とエイブが屋根雪を下ろして運ぶよりも効率が良い。この分なら、明日で終わらせるのは可能だろう。

 何か手伝える事がないか探したそらは、屋根から下がるつららを足で掴み折って雪捨て場に運んでいた。「クルルー」と、歌いながら飛んでいる。

 余りにも大きなつららは折れないが、一緒の作業を楽しんでいるのだ。


「リョウマ兄ちゃん! こっちにも雪落として!」

 そんな声に従って、稜真は子供が引くそりを狙って、上から雪を投げ入れてやる。


 時々たくさん積みすぎて、立ち往生している子供がいると、そらがきさらを呼ぶ。きさらは、そのそりを雪捨て場まで引くのだ。そんな時は子供もそのそりに乗って、歓声をあげた。

 きさらとそらは、子供達とすっかり仲良くなっていた。




「──おい、リョウマ。今日はこの辺にしないか」

 エイブは、ぐっと腰を伸ばし「いてて…」とこぼす。

 そろそろ夕方になる。下ろした雪を運んでしまいたいし、ちょうど区切りもいい。

「了解!」

『主、きさらもおしまい?』

「ああ、おしまい。ありがとう。また明日頼むね」

 

 きさらとそらは、ちょっと遊んで来ると村の外へ飛んで行った。


 稜真はエイブと子供達と協力し、下ろした雪を雪捨て場に運んだ。それ程時間もかからず、今日の作業を終えた。

 今夜は村長の家に泊めて貰う。エイブと村長の家に向かおうとすると、村の入り口から騒めきが聞こえて来た。


 雪が山になって視界を遮っており、稜真からは見えなかったが、背の高いエイブは見えたようだ。

「おい、リョウマ。お前の従魔が、なんかやらかしたみたいだぞ」

「そらときさらが?」


 稜真は慌てて、村の入口へ向かった。




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