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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第4章 休息

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88.『気』の使いかた

 稜真はすぐに仕込みを始めた。

 リクエストは翌日の昼食だが、何しろ品数が多すぎる。今から作らないと、とても間に合わない。

 前回作ったものは、料理長も作り方を覚えており、調理を引き受けてくれた。お陰で稜真は、屋敷で作った事のない料理に専念出来る。


(まずはうどんの生地からかな? 後は、うろ覚えの料理の作り方を思い出さないと…)


 一応アリアは、稜真が作れないであろう料理は、外してくれていた。

 何しろカレーやラーメン、焼きそば等は、スパイスと麺がないとどうしようもない。そしてカレーは、例えスパイスがあったとしても、いちから自分で作る自信は全くなかった。


 この日、遅くまで仕込みをし、翌早朝から調理を始める。エルシーも手伝いをかって出てくれた。やはり筋肉痛になった稜真にとっては、とてもありがたい。

 手の掛かる料理から順に作り、料理長とエルシーが手伝ってくれたお陰で、なんとか要望通りの料理を全て用意する事が出来た。


 伯爵一家に料理を運び、使用人は交代で食堂に食べに来る。どの料理も好評だった。


 疲れた稜真は今一つ食欲がわかないので、さらっとうどんを食べようと思う。うどんは出汁を作ってあるので、好きな具を乗せられるようにしてある。


 稜真はふと、前回の旅で手に入れたロラクの地下茎を思い出した。まだ食べていなかった。取り出して泥を洗い、切ってみると、やはり蓮根にしか見えない。

 料理長に聞くと、食用だと知っていても、採取のしにくさから、ほとんど食べられない物らしい。他に食べる物が無くなった時に、炒めて食べた話を聞いたそうで、料理長も食べた事はないそうだ。


 稜真は天ぷらにして、うどんに乗せた。食欲がなかったのに、ロラクの根はシャキッとした歯ごたえで、とても美味しい。料理長は食材としての可能性に気づき、他の料理法を考えているようだ。


 天ぷらうどんに稜真は大満足である。


 うどんはもちっとした麺が好評で、具のバリエーションが付けられる事から、これ以後昼食の賄いに出されるようになる。






 アリアはようやく、稜真の体調が完全に回復したのだと納得出来た。

 その為、刺繍の息抜きに稜真との手合わせを始めた。その手合わせには容赦がなく、もう少しいたわって欲しいかも…と、稜真が思うくらいである。


 通常の鍛錬とアリアの相手の他に、稜真は時間を見つけては迅雷を振るい、繰り返し動きと型をなぞっていた。迅雷任せではなく、自分の意識で刀を振るえるようにならないと、と毎日努力を重ねた。

 何しろ刀の先生は、迅雷を振るう自分しかいないのだ。迅雷に体を任せ、動きと型を覚え込む。そして、スタンリーとの鍛錬では木刀を使った。


 木刀と木剣では厚みと素材で耐久力に差があるので、これまで何本も木刀を折ってしまっている。その為、何度も追加注文をしている。

 木工細工師は、耐久性が上がるような木で作ってくれているが、こればかりは仕方がない。

 対応策として、稜真はアリアに剣への気の籠め方を教わり始めた。アリアは木剣に気を籠めて鉄の剣を受け止めるのだから、同じやり方で木刀の耐久力を上げられるのではないかと考えたのだ。


「魔法剣にする時は、剣の中心に魔力を籠めるの。そうすると、剣自体から魔力が吹き出すようになるのね。稜真がスキルで技を使う時は、どんな感じ?」

「どうだったかな…」


 稜真は炎の魔法剣を使った時を思い起こす。スキルは声で発動するので、魔力を意識していなかったが、中心に力を注いだような気もする。

「中心に籠めたような気もするね。だから全体的に剣が溶けたのかも知れないな」

「あはは。そう言えば溶けてたよね~。──気を籠めるやり方は、魔法剣とは違うの。籠めるって言ったけど、正確には剣に気をまとわせてるんだ」


 そう言うと、アリアは左手で木剣を握り、稜真に分かり易くする為に、刀身に右手を添わせ、ゆっくりと気を纏わせて行った。添わせた部分の空気が、揺らいでいるように見える。揺らぐ空気が木剣全体を覆うと、キン、と空気が硬質化した。


「これで完了。慣れると一瞬で出来るし、本当は手を添わせる必要もないよ~。それじゃ、試しに迅雷で打ち込んでみて」

「…迅雷でか?」

「大丈夫。多めに気を籠めたし、例え迅雷でも受けるくらいなら出来るよ」

 気を籠める量で、防御力が変わるらしい。そう言われても不安な稜真は軽く打ち込んだ。──すると、ガキン、と木剣にはあり得ない音で受け止められた。木剣にはかすり傷すらない。


「ね? 大丈夫でしょ」

「…だね。それじゃ、やってみるよ」


 稜真は木刀を取り出し、アリアがやったように手を添わせて気を纏わせようとした途端、パンッ、と木刀がはじけた。


「……あれ?」

「稜真は今、添わせないで注いだんだと思うよ?」

「…難しいなぁ。木刀で練習するのは、止めておいた方がいいね」

 木刀の消費量を減らそうとしているのに、壊してしまっては意味がない。


 途中から見ていたスタンリーが苦笑する。

「気を添わせる練習だけなら、外の薪でやったらどうだ? その調子なら、薪割りの手間が省けそうだ」

「…ちなみに師匠は出来ます?」

「そんなもん出来るのは、お嬢様くらいだ」


 基本的な剣術の師はスタンリーだが、アリアは独学で色々とやったのだ。魔力と気を分けて考えるのが、まず異色の考え方らしい。


「そうだったの? そんなに難しくないと思うけどなぁ。大丈夫! 稜真なら、出来るって!」

「そうだな。リョウマなら出来そうだ」

 スタンリーにも出来ないレベルの高い技術。自分に出来るのか、稜真は不安でならない。

「……薪割りに…行って来ます……」




 パンッ! パシッ!

 薪用の木を置いてある小屋では、木の弾ける音が続く。何しろ少しでも気が中に入ると、木は弾けてしまうのだ。


 そして、何日かの薪割り練習の結果。

 稜真は大量の薪を作成し、無事に気を添わせるコツを覚えた。とは言え、一瞬で行えるようになるには、まだ時間はかかりそうだ。


 恐る恐る木刀に気を籠めると、破裂する事なく成功した。後は、鍛錬中に気の維持を続けられるかどうかだが、これは慣れるしかないだろう。問題は──。


(……薪とは言えないよね…これ)


 稜真は足元を見て、深々とため息をついた。どう見ても木屑の山にしか見えない。


 オズワルドに報告すると、先日の魔石が思ったよりも高額で売れたので、そこから追加で薪を購入してくれるそうだ。大量に出来た木屑も燻製に使えるので、無駄にはならなかった。






 アリアからお許しが出て、稜真とユーリアンの手合わせが行われた。

 何度か気を籠めた木刀でスタンリーやアリアと手合わせを行い、気の維持に問題ないと確認出来ている。稜真はスムーズに木刀に気を纏わせた。


「そう。僕はその片刃の細い剣を使うお前と、手合わせしてみたかったんだよ」

「まだ練習中ですが、よろしくお願いします」

「ああ」


 アリアと先生が同じせいか、ユーリアンとアリアの剣はどこか似ている。力強く早い剣だ。

 前回の対戦では全く付いていけなかったが、アリアの早さに慣れた稜真は、ユーリアンと剣を交えられた。


 それでも、稜真はユーリアンには敵わなかった。


「まだまだユーリアン様には敵いませんね」

 はは、と笑う稜真だが、ユーリアンには何度か自分が危ない場面があったのが分かっていた。


(リョウマの成長は怖いな。気が抜けない…)


 ユーリアンは学年1の座を守っているが、学友よりも稜真の方が余程手強い。ユーリアンはもっと精進しなくてはならないな、と気を引き締めた。


 それからは毎日、何度も2人は手合わせをした。


「ふむ。ユーリアン様。リョウマと組んで、お嬢様と対戦してみませんか?」

 スタンリーが提案した。

「面白そうだね」

「え~!? 私と稜真が組んだ方が良いと思うの!」

「アリア…僕をそんなにいじめたいのかい?」

「じゃあ私とお兄様が組んで…」

『おねえちゃ、の、ばかー!!』

 見学していた、そらからの駄目出しが飛んで来た。


「お嬢様。諦めて私達の練習に付き合って下さいね?」

 くすくすと笑いながら稜真が言うと、アリアは口を尖らせた。

「うう~。皆で人の事、ラスボス扱いしてさ! 女の子なのに、ひどいよぉ」


(……ラスボス。自分で分かっているじゃないか)


 稜真がそう思った事は、アリアには内緒である。




 2人がかりでもアリアには敵わなかったが、稜真とユーリアンは次第に連携が取れるようになる。視線や動きで相手の言いたい事が分かり、協力してアリアに対する。


「悔しい!! お兄様と稜真の息が合って来てる!」

「息が合って来たと言っても、まだお前には敵わないがね」

 今回も負けてしまったユーリアンは、そっとため息をつく。

「ユーリアン様。お嬢様に対する次の手を考えましょう」


 アリアは練習場の使用を許されたが、刺繍との両立が条件だ。その為、短い時間しかいられない。仲良く自分の攻略法を話し合う2人を恨めしく眺めながら、母の部屋へ向う。


 そらは今日もアリアに付き合ってくれる。そらの歌を聞くのが、アリアの唯一の癒しだ。時々脳内で稜真の声に変換し、楽しんでいたりもする。

 可愛らしいそらの歌は、母もメイド長も楽しみにしていた。




「なぁ、リョウマ。お前はいくつだった?」

「年齢ですか? この間16になりました」

 稜真の誕生月は11月だったのだが、転移してから色々あったので、気がつくと過ぎていた。

「1つしか変わらないのか…。それにしては小さくないか?」

「今から伸びるんです…きっと…」


 ユーリアンは17歳。身長は180センチ近い均整の取れた体つきをしている。まだ成長の余地が感じられ、稜真にとっては、うらやましい限りである。あちらの世界より伸びている気がするが定かではない。高校を卒業してからは身長が伸びず、結局170センチには届かないままだったのだ。


「のんびりしていると、成長期が終わるぞ」

「怖い事を言わないで頂けますか。ユーリアン様」

「ユーリでいい。僕はもう、お前の事を認めているからな」

 顔を背けて、照れくさそうに言うユーリアン。稜真はその言葉が嬉しかった。

「ユーリ様。ありがとうございます」


 そして2人は、アリアの攻略方法を話し合うのだった。




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