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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第27章 2年生の夏期休暇

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736.なつやすみのしゅくだい 4

「ティアラぁ。牙の食い込み度が上がってるんだけどぉ」

『うるさい! なんだってリョウマと別行動するのよ!』


 ティアラはミッキーに噛みついたまま、念話で文句を言った。本日のティアラは大人の猫サイズである。


 ミッキーが蜜蜂に警戒されているせいで、ティアラは稜真に近づけないのだ。

 ティアラだけなら近寄れるだろうが、暇を持て余している主が自分から離れない。伯爵家を出た今なら稜真とふれ合えるかも知れないと期待していたのに、怒りであごに力がこもる。


「あいたたたぁ」

 ミッキーは、額から流れて来る血を手で拭いながら笑った。痛みに慣れているミッキーにとって、この程度の痛みは屁でもない。

 猫に噛みつかれて笑っているミッキーは、町ゆく人々から奇異の目で見られている。


「だってさぁ。あーんなに楽しそうなエドウィン様の邪魔したら、それこそ総攻撃されそうなんだもぉん」

 エドウィン一行は、妖精種の蜜蜂女王夫妻に気に入られているのだ。


 でかい図体で何を可愛らしく媚びを売ろうとしているのか。そんなものに効果はない!と、ティアラはギリリッと更にあごに力を込めた。


『誰のせいだと思っているのっ!!』


 隙あらば稜真とアリアに近づこうとするミッキーが悪い。

 2人に近づけないとなると、伯爵家の使用人から情報を引き出そうとする。使用人からも警戒されているので、引き出せる情報は当たり障りのない世間話だけ。命じられている仕事はエドウィンの護衛なのに、護衛らしい振る舞いは皆無である。

 そのせいで警戒する蜜蜂の数が徐々に増えていた。今日は稜真について出て来たから、いつも以上の数だった。

 稜真から離れた今は、徐々に減っている。


「それにしてもメルヴィル伯爵家って面白いよねぇ」


 リザードマンの薬師に、コボルトの使用人、Sランクの武術指南役、白いグリフォン。おまけに、客人までがただ者ではない。

 非常に警戒されているが、ミッキーだって稜真とアリアが気に入っているのだ。馬鹿正直に報告するつもりはないのに、信用されないのは何故だろう。


『はぁ…』と、ティアラはため息をついた。

 稜真から離れてしまったので、ティアラは今日の接触をあきらめた。渋々ミッキーから牙を外し、その肩上で身繕いをする。


 ティアラのため息が耳をふるわせる幸せに身もだえしてから、流れる血を拭いて回復薬を飲んだ。


「ところでティアラ。俺を殺して自分も死ぬって本気?」

『…本気よ』

「ふへへ」

『何よ…おかしな笑い方して』

「主を消したらリョウマの従魔になる!って言われなくて安心したの」

『…………』

「…あ、あれ? もしかして、その手があったかなんて思ってる!? ちょっとティアラぁ。答えてよぉ」


 えぐっえぐっと泣く、いい年した冒険者男性はめちゃくちゃ人目をひいているが、ティアラは気にせずにふわぁ…とあくびをした。


『依頼を受ける時間がなくなってもいいの? 印象改善するんでしょ?』

「そうでしたぁ」


 せめて屋敷内での警戒は解除して欲しい。その為に、まずは町の人に良い印象を与えようという作戦だ。


 そのついでに稜真と交流を図りたいとティアラは考えていたのだが、目的地が違うのだから土台無理な話だった。

 別にミッキーはアリアと稜真に接触出来なくてもいいのだが、愛する姫君の為に頑張ろうと思っている。──本当に情報を探ろうと思ってはいない。


 すでに変な冒険者というレッテルが貼られていて、ギルドに入った途端に注目を浴びたが、ミッキーはニコニコと笑ってそれらをかわす。ティアラも公然と稜真に近づくためだと、ミッキーの肩上でおすまし顔をするのだった。




 邪魔者がいなくなり、稜真とエドウィンの取材が捗ったかというとそうでもなかった。


「……リョウマは知り合いが多いな」

「まぁ、地元ですから」


 稜真は、料理上手な知り合いか美味しい料理店に取材に行けばいいかと考えていた。前もってアリアと相談し、いくつか候補をあげていたのに、まだたどり着けていない。

 それは何度も知り合いに呼び止められているからだった。


 どの人も第一声は「アリア様はどうした?」で、屋敷で宿題をやっていると答えると苦笑される。そこから近況へ話題が進むのだ。話をしている間、エドウィンはなんとも言えない表情をしていた。

 自分が加われない話をされているのだから当たり前だ。稜真もなるべく早く会話を終えるように心がけたが、会話をぶった切るのは難しかった。


 それが何度も繰り返されてしまった。


 エドウィンも最初は不機嫌だったが、その後は何故か機嫌が良くなっていた。稜真に原因は分からなかったが、機嫌が悪くなるよりはいい。


 ──エドウィンが不機嫌な理由。


 そんなものは言うまでもない。

 せっかく稜真といるのに、放置された上に親しそうな会話をされたせいだ。

 機嫌が直ったのは、自分が知らない稜真の話が聞けたから。会話に加わって水を向ければ、稜真の話がポロポロと聞けるのだから、機嫌も良くなろうというもの。


 現在、エドウィンと幼女2名が盛り上がっている。


「それでね! リョウマお兄ちゃんが王子様みたいに素敵だったの!」

「うん。格好良かった」

 幼女2名はリリーとサラだ。髪を結んでユーリアンの服を借り、2人をエスコートした収穫祭の話をしているのだ。本物の王子様が楽しそうに聞いているのだから始末に負えない。

 キラキラしい本物の王子がいるのだから、エドウィンにうっとりするものではないのか。地味な自分の正装姿を語らないで欲しいと思っても、稜真は3人の会話を止められずにいた。


 当事者をほったらかしで盛り上がる会話は何度経験しても慣れない。手持ち無沙汰になった稜真は、リリンの身体チェックをした。きさらが嫉妬しないように、ササッとだ。

 肉付きも良くなっているし、何よりもエドウィンと良い関係を築いているのが伝わって来る。リリンに触れた時間の3倍、きさらを撫でて声をかけていたが、それにも限度がある。


「エディ様、そろそろ」

「ああ、すまない」

「お兄ちゃん達、ご用事があるの?」

「あるな」

「もっとお話ししたかったなぁ」


 そして稜真とエドウィンの取材先は、リリーの家になった。


 リリーが「お母さんは蜂蜜を使ったお料理いっぱい知ってるよ!」と教えてくれたからだ。まずは一般家庭でどう使われているか取材するのもいいな、と稜真とエドウィンの意見も一致し、リリーの家にお邪魔することとなった。

 突然取材に訪れた事に驚かれたが、リリーの母は快く応じてくれた。しかも婦人会で蜂蜜レシピを交換し合っていて、それらのレシピも教えてくれたのだ。


 客が少ない時間だからと、台所で作ってくれた。レシピのメモをしたのは稜真で、非常に張り切ったエドウィンは稜真の様子をメモし、ついでに稜真エピソードも聞いているではないか。


「エディ様。……それ…関係あります?」

「面白い」と、エドウィンは笑っている。取材相手が、意気投合した幼女2名だからなのか、稜真の前で屈託なく笑うエドウィンは珍しい。


(……仕方ない…か)


 この後、何軒か取材を行ってから屋敷に戻った。




 翌日は、取材したレシピをエドウィンと再現する予定だったのに、エドウィンが起きてこない。


 ちなみに初日だけ、お客は伯爵夫妻と夕食をとったが、翌日からはシュリ以外は食堂で食べている。王子と高位貴族なのは知られているので、とんでもない!と、使用人一同で断ったのだが押し切られた。

 理由の一つが、娘に手を出されるのではないかと伯爵に警戒されるので、食べた気がしないと言うので、気持ちは分かる。訪ねて来たクラスメイトが全員男なのだ。アリアを溺愛している男親としては、気が気ではないのだろう。


 二つ目の理由が、稜真がいないからなのは納得出来ない。使用人が主人夫妻と食事できる訳がないのに。


 そんなわけで、食事時間は定められておらず、起きた時間に食べに来ていた。


 サディアスとディアンは、食堂に行く前にエドウィンに声をかけたが、返事がなかった。昨日はしゃぎすぎた疲れが出たのだろうと、もう少し寝かせておこうと思った。

 食べ終えても起きて来なかったので、「起こしてきます」とサディアスが部屋に向かったが、しばらくして駆け戻ってきた。




「うん。旅の疲れが出たんじゃないかな。ゆっくり休めば、明日には熱も下がると思うよ」

「ありがとう」

 ロビンの言葉に、稜真は胸を撫で下ろした。


 リザードマンの薬師ロビンは、メルヴィル伯爵家の主治医のような存在になっている。町に降りて他の薬師や医者と交流しているので見立ては確かだ。


 心配していた他のメンバーも安心して、稜真だけを残して部屋を出て行った。「看病するなら、ペアを組んでる稜真でしょ?」とアリアに言われ、それもそうだと納得した。

 熱で赤い顔をしているエドウィンの食欲はあって、稜真が作った雑炊をペロリと食べた。この食欲なら、ロビンが言ったように明日には熱も下がるだろう。


 今日のエドウィンは素直だ。横になるように稜真が言えば、大人しく従った。リリンはベッド脇に座って、エドウィンの顔をじっと見つめている。


「エディ様。何か欲しい物はありますか?」

「ない…が。……リョウマ」

「はい」

「歌が聴きたい」

「……どうして歌なんて話になるんです?」

「医務室の天使の歌が聴きたい」


 医務室の天使呼ばわりは止めてくれないだろうか、稜真は額を押さえた。


「……聴きたい」

 布団を目元までかぶって、細い声で言うのだ。


 こうも甘えられて、拒める稜真ではなかった。




(二人っきりの部屋! 発熱している王子様! おねだりに答える稜真! ううう~。この目で見た~い!!)


 アリアにとっては妄想の宝庫だ。


(見たいけど…見たら絶対顔が崩れるよねぇ。なんでみんなここにいるのか…)


 部屋から出たサディアスとディアン。エドウィンが熱を出したと聞いて駆けつけたルディ、ナディム、ロベルト、ビリー、ステファノ。単なる野次馬のシュリ。

 部屋の前は満員だ。


(そ〜っとのぞいて、2人の姿を目に焼き付けてすぐに閉めればバレないから、お仕置き回避で萌えの補充が出来るのに〜〜っ)


 アリアだって羞恥心はある。男子に崩れた顔を見られたくない。


(1番見られたくない稜真には何回も見られてるけどさ! ううっ…)


 のぞきはあきらめ、聞き耳スキルで稜真の声に全神経を傾けるアリアであった。




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