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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第9章 マーシャとの旅

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閑話.瑠璃とマーシャ

な、長いです(;´・ω・)

 この世界に召喚された瑠璃が大切なのは、自分のあるじだけ。そんな大切な主といつも一緒にいるアリアは、大嫌いだった。


 そう大嫌いだったのだ。


 それなのにアリアは、瑠璃が幼い姿になった途端に妹扱いし、お姉ちゃんと呼ばせようとする。べたべたとくっついて来る。

 それがいつしか心地良く感じられるようになって行った。今では口ばかりではなく、内心も姉だと思っているなんて、本人には絶対に言ってやらないのだ。


 やはり、いつも稜真と一緒にいられるアリアはねたましいのである。


 稜真達が湖の家に居ない時は、瑠璃は湖にいる。誰もいないあの家に1人でいるのは嫌だから。

 そんな瑠璃が寝る前に、稜真は念話をくれる。『お休み』のひと言に、瑠璃は『お休みなさい』と返す。ただそれだけが嬉しかった。


 ──だが、その日は違っていた。


『瑠璃、明日から一緒に旅をしないか?』

『え?』

『実はね──』




 そして、瑠璃は旅路についた。


 稜真と一緒にいられる毎日。

 人間として過ごす日々。

 最初ぎこちなかったマーシャとも、今ではすっかり仲良しだ。


 そんな日々で新鮮に感じたのは、イネスと話す稜真の姿だ。同性だからなのか、瑠璃が見た事のない表情をする。稜真と仲が良く、マーシャも心を許しているイネスに、次第に瑠璃も懐いた。


 皆で稜真の読み聞かせを聞き、遊び、手伝い、旅をして。楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、明日瑠璃は湖へ戻る。




 瑠璃とマーシャは、夕食の手伝いにじゃがいもの皮剥きをしている。

 母の手伝いをしていたマーシャは、大きな包丁も器用に使って野菜を切る。瑠璃はこれまで練習して来たし、旅の間だって練習したが、とうとうマーシャには追いつけなかった。

 悔しくて、瑠璃は口を尖らせて皮を剥いていたら、マーシャに頬をつつかれた。


「ルリは、むかしのマーシャよりもじょうず。あわてなくて、いいとおもう」

「……上手です?」

「うん」


 2人がほのぼのと皮剥きを続けていると、アリアがやって来た。


「私もやるよ~」

「アリアさまも?」

 マーシャは大丈夫なのかな、という視線を瑠璃に向けた。


「大丈夫ですわ。お姉ちゃんは、下拵え()()は任せられますの」

()()はね~」

 アリアは苦笑いしながら、するすると皮を剥く。

「アリアさま、はやくて、きれい」

「でしょ~? って、終わっちゃったね。そうだ! もっと貰って来る!」


 アリアは稜真に言って、ありったけのじゃがいもを貰って来た。


「ふふふ~。3人で皮剥き競争しよう!」

「競争したら、私は負けてしまいますわ」

 瑠璃はふくれたが、アリアは瑠璃とマーシャは組めばいいと言う。2対1なら、良い勝負になるかも知れない。

「勝った人には、稜真がご褒美くれるかも~」

「マーシャ! 頑張りましょう!」

「うん。アリアさまにも、かつ!」


「……」

 料理をする稜真とイネスにも、3人の会話は聞こえている。

「…リョウマさん、ご褒美ってなんですか?」

「さぁ? 俺は何も聞いてないな」

 稜真は肩をすくめた。


 ──勝負は、僅差でアリアの勝利だった。


「悔しいです…」

「まけちゃった…」

「稜真、勝ったよ! ご褒美ちょうだい!」

「ご褒美ねぇ…。それでは、こちらでゆっくりとお休み下さい。お嬢様」

「は~い」


 敷物に紅茶とお菓子をセットされ、アリアはご満悦である。




「さてと」

 稜真は大量のじゃがいもに目をやった。このままアイテムボックスにしまってもいいが、懐かしい料理を作る事にした。


 まず、イネスと手分けをして、大量のじゃがいもを茹でた。茹であがった熱々のじゃがいもを、瑠璃とマーシャが交代でつぶす。そこへ片栗粉と塩を入れて、よく混ぜ合わせた。それを10センチくらいの丸く平べったい形にする。


「皆。こんな感じに丸めてくれるかな」

「はい!」

 早速瑠璃が手を出したが、すぐにひっこめる。

「熱いです…」

「ルリ、はしっこはあつくない。ここからとれば、いいとおもう」

「本当。熱くないですわ」


 イネスは熱さに慣れているのか、平気で真ん中から取っている。

「リョウマさん、これでいいですか?」

「ああ、その調子で頼む」


 和気あいあいと4人で料理をする姿を、アリアは恨みがましく見つめる。


(1人で食べててもつまらないなぁ)


 寂しくなったアリアは手伝いを申し出たが、全員に止められた。


(私だけのけ者にして~。これじゃ、ご褒美じゃないじゃないのさ! ……よおっし!)






 稜真は皆が丸めた芋をバター焼きにして、醤油をまぶした。イネスは知らない料理に興味津々である。


「いい匂いです」

「芋餅って言うんだ。もっちりして美味しいよ。味付けによっては甘辛いお菓子にも出来るな」

 すぐに食べたいとアリア以外が言い出したが、稜真は夕食の後だと言って、アイテムボックスに片づけた。


 ──さて。夕食を終えると、稜真は小皿を7枚取り出して、芋餅を1つずつ乗せた。そらは稜真と半分こだ。


「ほら。アリアが先に選んで」

「えっ!? な、7個だけなの? もっとたくさん作ってたよね?」

「ゲームをしようと思ってね」

 稜真はにっこりと微笑む。

「……ゲーム?」


 何故か声を震わせるアリアに、瑠璃とマーシャとイネスは不思議顔だ。従魔達は稜真の指示で、表情を見られないように、こちらに背中を向けている。


「この中に1つ。アリアが形を作った芋餅が混じっているから」

「げ!? バレてた!?」

 そう。アリアは隠密スキルを使って、こっそり調理に紛れ込んだのだ。いくつか形を作ってすぐに離れたし、誰にも見つかっていないつもりだったが、アリアの料理に敏感なももが気づき、きさらが念話で稜真に伝えたのである。


「稜真お兄ちゃん…。それ、私達も被害に遭う可能性がありませんか?」

「形を作っただけだし、そこまでひどい味になってない…筈。それに、誰に当たるか分からないなんて、面白いと思わない?」

「おもしろそう。やる」

 イネスには、瑠璃がアリアの料理について説明をした。ゲームの意味が分かり、イネスも乗り気になった。


「ほらアリア。1番最初に選ばせてあげるよ」


(ううう~。稜真の笑顔が怖いよ~。7分の1…だもんね。どれにしよう…。私が関わった料理って、大抵黒くなるし…。う~ん。醤油のせいで黒さが分かり辛いよ~。でも…。1番黒くないのは、これだね。うん、これに決めた)


 全員が選び終わると、稜真の合図で一斉に口に入れた。


 ──結果。


「うぐっ!? ど、どうして!? 黒くないのを選んだのに~~!!」


 稜真はしてやったりと笑った。

 アリアを引っかける為、わざと少し長く焼いた物を用意したのだ。それに比べると、アリアが作った物はきつね色に見えたのである。


「ほらアリア。まだ残っているよ」

「あぅ~。バター醤油が香ばしくて良い香りなのに~、苦くて酸っぱいのよ~」

「自業自得です」

 稜真はきっぱりと言った。醤油とバターで何故酸っぱくなるのか謎である。


 涙目で口に芋餅を押し込むアリアを見て、「ぷっ!」と稜真が噴き出した。

「笑うなんて、ひどい~! ──けど、私って間抜けすぎるよね。えへへ」


「あははは!」と、明るい笑い声が野営地に響いた。


「アリア様が作った芋餅は、そんなにひどいんですか? 形を作っただけですよね?」

 料理人のイネスは、味の変化が気になった。

「興味があるなら食べてみるか?」

 アリアが作った芋餅は2個あった。もったいないので2個とも焼いてある。


「はい!」

「マーシャも、アリアさまがつくったの、たべてみたい」

「2人とも挑戦者ですね…。でも、私も興味あります」


「瑠璃も? 俺は知らないからね」

 稜真は芋餅を取り出すと、半分に切り分け、更に3等分して3人に渡した。残りは自分でパクリと食べる。稜真の表情は特に変わらない。


「…うん。前のおにぎりよりはましかな。形も綺麗に出来ていたから、ももが教えてくれなかったら、俺は分からなかったよ」

「上達した? わ~い!」

「でも調理の手伝いはいらないから」

「もうしないもん…。私だって、美味しい物が食べたいもん…」


 瑠璃とマーシャとイネスは顔を見合わせてから、アリアの芋餅を口に入れた。


「うぐっ!?」

「…っ!?」

「むぐぅ!?」

 三者三様の悲鳴が上がる。


 稜真はそっと、3人分のお茶を入れたのだった。






 明け方に瑠璃は目を覚ました。

 今日から皆、アリアの屋敷で暮らすのだ。──瑠璃以外は。


 瑠璃は水を恋しく思った。旅に出てから水に入っていない。

 水を感じたい。全身で水を感じたかった。

 こんなに長い間、水に入らない事がなかった瑠璃は、ひんやりとした水を思い、いてもたってもいられなくなった。水に入れば、もやもやした思いから解放される気がした。


 まだ誰も起きていない。

 瑠璃はそっと馬車を抜け出した。


 軽い羽音がして、そらが瑠璃の肩に舞い降りた。

『ルリ。どうした、の?』

「ちょっと水浴びして来ますわ」

『わかった』

 そらは馬車の上に戻って行った。



 林の中に小さな泉がある。

 美しい水をたたえた、小さな、けれど深い泉だ。


 瑠璃が着ている服は、町で買った服である。魔力で作った服と違って、濡れると重くなり動きづらく、水を感じるのに不便だ。

 瑠璃は服を脱ぐと、するりと泉に入った。


(気持ちいいですわ)


 全身で水を感じる。

 水底まで泉に潜り、体を横たえて上を見ると陽の光が水に踊って見える。小さな魚が群れになって泳ぐ。

 瑠璃はゆらゆらと水に体を任せた。



 もやもやした気持ちから解放される事はなかったが、それでも少しはすっきりしたので、瑠璃は泉から上がった。


「ルリ」

「え!? マーシャ…どうして…」

「いなくてしんぱいした。そらがつれてきてくれた」

「…そらったら…」

「クゥ?」とそらは首を傾げている。マーシャに瑠璃の居場所を聞かれ、素直に案内したのだ。そらは馬車へ戻って行った。


「あの…、マーシャはいつ来ましたの?」

 人はどれくらい水の中にいられるのだろう。自分はどれだけ水の中にいただろうか。瑠璃は不安になった。


「いま。ルリがいずみから、でたところだった」

 瑠璃は、ほっと息をついた。

「ルリ。はやくふく、きないと」

 マーシャは瑠璃が脱いだ服を持って来てくれた。そして、まじまじと瑠璃を見る。

「ルリのかみ、ぬれてない?」


 精霊である瑠璃は、水から出る時はいつも無意識に水気を飛ばす。お風呂では気をつけていたが、1人だと思って気を抜いていた。


「あの、それは…」

「まほう?」

「は、はい! 私は少しだけ、水の魔法が使えるのですわ。それで乾かしましたの!」


(…これで…大丈夫なのでしょうか。主に相談……、でも、まだ眠っていたら申し訳ないですし…)


「魔法が使えるのは珍しいですか?」

「ともだちにはいなかった。おとななら、せいかつまほうをつかえるひとは、いた。ルリのは、せいかつまほうじゃない?」

「…違いますわ」

「ほかにも、なにかできる?」


 マーシャは瑠璃に服を着せながら聞いた。その目は期待に輝いている。

 どこまでやっていいのか分からないが、力をそれ程使わない事なら大丈夫だろう。瑠璃は泉の水を宙に浮かべた。瑠璃の拳大程の水がいくつも球になって、2人の周囲にふわふわと浮かび、朝日を浴びて煌めいた。


「きれい! ルリ、すごいね」

「内緒ですよ?」

「だれにもないしょ?」

「稜真お兄ちゃんとアリアお姉ちゃんは知っていますわ。でも…」

「わかった。ほかのひとには、ないしょ」

 2人は手を繋いで、煌めく水の球を眺めたのだった。




 手を繋いで馬車へ戻ると、稜真とイネスが朝食の用意をしていた。イネスは驚いた顔をしている。

「出かけてたんだ。おはよう」

 そらを肩に乗せた稜真は「おはよう」と笑う。


「おはようございます」

「おはよう、ございます」

「アリアを起こして来てくれるかな?」

「うん!」


 瑠璃は一緒に行かず、稜真にぴとっと抱きつき、念話で言った。

『主…やらかしちゃいました…』

『瑠璃が? 珍しいね』

『マーシャに魔力が使えると、バレてしまいましたの』

『あらら』

 水が恋しくなって泉へ行った事から、全てを話した。


『一般的には魔法の才があっても、使えるのは10歳を過ぎてかららしいね。マーシャが内緒にしてくれると言ったなら、気にしなくても大丈夫だよ』

 学園用の勉強で仕入れた知識で知っていた稜真は、安心させるように頭を撫でた。


『……もし私が精霊だと知られたら、嫌われるでしょうか』

『嫌わないと思うよ。戸惑うかも知れないけどね。瑠璃は話したい?』

 稜真は手を止めて、瑠璃を抱き上げた。

『…話したく…ないです。私は人間として、マーシャと友達でいたいのです』

『それでいいんじゃないかな。小さな魔法使いさん』

『はい』


 マーシャとは、稜真に頼まれたから友達になった。

 瑠璃にとって、初めての人間の友達だ。

 一緒にいて楽しかった。色々教えて貰って嬉しかった。稜真やアリアといる時と違って、同じ目線でいられたのが、本当に楽しかったのだ。だから、自分の正体を隠しているのが気になって、苦しかった。

 マーシャに自分の秘密を少しだけ見せて、心がちょっぴり軽くなった。





 朝食を食べ終え、いよいよ瑠璃は湖へ帰る。


「マーシャ、これ…」

「っ!?」

 瑠璃がマーシャに渡したのは、マーシャの母が縫った布人形だ。泥だらけだった人形は、すっかり綺麗になっていた。

「魔法で綺麗に出来ないか、試してみましたのよ」

 イネスに聞こえないように、瑠璃は耳打ちした。


 マーシャは、目がこぼれそうな程に見開いており、言葉も出ない。

「中の綿が潰れてしまっていたので、1度取り出して詰め直したり、お顔を直したり……。手を加えてしまったので、元通りではないのですけど…」


 毛糸の髪、ボタンの目、口は刺繍で描かれた、マーシャの母が作った布人形。


 瑠璃が受け取った時、目は取れかけ、元の色も分からなかった。瑠璃の力で、汚れは綺麗に取れたのだが、潰れた綿は戻らなかった。だから目立たない部分をほどいて、綿を取り出し、ほぐして詰め直した。ボタンの目は取れかかっていたので、しっかりとつけ直した。──稜真が。


「どろだらけで、ぜったいにきれいにならないって、あきらめたのに…。ルリ、ありがとう!」

 マーシャは人形をぎゅうっと抱きしめた。

「わ、私は洗っただけで、直したのは稜真お兄ちゃんなのですわ!」

「ルリとリョウマおにいちゃんが、なおしてくれた。マーシャは、たからものがいっぱいで、しあわせ…」

「マーシャが喜んでくれたのが、私は嬉しいです」


 照れくさそうな瑠璃と、泣きながら笑うマーシャを、他の者は優しく見守っていた。






 きさらは湖のほとりに降りた。稜真は瑠璃を抱き上げて降ろそうとしたが、瑠璃はしがみついて離れない。


「……主」

 瑠璃は稜真の首に顔を埋めた。

「ん?」

「楽しかったです」

「うん」

「とても、楽しかったのです」

「…うん」

「とても、とても、楽しかったのです…」

「……そうか」


 今日からまた、1人になる。シプレはいても、楽しい日々を過ごしただけに、残されるのがいつも以上に辛かった。

 稜真はごめんね、と言わなかった。言えなかったのだ。瑠璃が望んでいないのが分かったから。


 瑠璃が泣きやむまで、稜真はただ抱きしめてやる事しか出来なかったのである。




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