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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第9章 マーシャとの旅

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186.白ドラ

「冗談はさておいて、あなたの本当の望みを聞かせて下さい」

 稜真は気を取り直して尋ねた。


「本当の望みとは?」

「あなたが本気で幼い2人を欲しがるとは思えません。俺を怒らせて、何かを引き出したかったのではありませんか?」

さといな。シュリの山での事は聞いておる。我の妻を癒してくれるならば、力を貸そう」


 ドラゴンは人化して宙に浮かぶと、こちらへ飛んで来た。白いストレートの長髪に金の瞳、眼鏡をかけたイケメンだ。眼鏡のお陰で理知的に見えるが、どうにも不誠実な男に感じた稜真は眉をひそめた。


(眼鏡があるんだ、この世界。それよりもこいつ、奥さんがいるくせに嫁と言ったのかよ…)


 稜真は無意識に、隣に寄り添っているきさらの首の柔らかい毛に触れる。もふもふふんわりした手触りに苛立ちが少し治まる。


 ドラゴンはアリアを見ると、何故かビクッとした。

「そこな娘は我に近づくでない!」

「……何よ突然」

「魔獣や魔物を倒し、そこらを荒らし回っている赤毛の魔女とは娘の事だろう!? シュリも何度か殺されかけたと聞く。我はまだ、死ぬ訳には行かぬのだ!」

「……魔女…?」

 稜真はアリアを見た。アリアは赤毛ではないが、日に透けると赤く見える髪ではある。ドラゴンが知っているとは、どんな噂が、どこまで流れているのだろう。


「魔女扱いなの!?」

 アリアはドラゴンに詰め寄るが、その分後ろに下がられた。まだ大剣を持ったままのアリアに怯え、青ざめている。

「アリア、とりあえず剣をしまって」

 稜真に言われ、アリアはぶつぶつ言いながらも、大剣を鞘に納めた。


「…リ、リョウマと言ったな。我の力を借りたいのならば、娘は押さえておけ!」

「むぅ! 稜真に命令口調? 気に入らない! 人の事、魔女扱いだし!!」

 アリアは目を細めてドラゴンを睨んだ。瑠璃はどうしたものかと、困った顔でアリアとドラゴンを見比べている。


「うふふふ。…ねぇ稜真。力ずくで力を借りるって、手もあるんじゃないかなぁ? …ふふふ」

 ドラゴンはアリアから離れ、稜真の後ろに隠れようとする。

「リョウマよ! 力を貸すから娘を止めよ!」


(真剣に怯えてるよ、このドラゴン…。ぬしさんは、アリアと戦った後も怯えたりしなかったのにね)


 ドラゴンに対する稜真の評価はだだ下がりである。


「シュリから稜真の話を聞いたんだったら、私の事も聞いたんじゃないの?」

 むすっとしながら、アリアが言った。

「魔女が破壊した山を癒し、白いグリフォンをテイムしたのは、リョウマと言う人間だと聞いたのだ。シュリは、魔女の事をお嬢と言っていたし、名など聞いておらぬ。リョウマが魔女と共におる事も知らなんだわ!」


 眼鏡からして、このドラゴンは近眼なのだろう。アリアの容姿が見えていなかった。そうでなければ、大剣を突きつけられた段階で、逃げ出していたのではなかろうか。


「魔女魔女って、ムカつく~~!」

「…我慢しような。アリアとドラゴンがやり合って、あのダムが決壊したら、目も当てられないだろう?」

「むう~。分かった」


「それで白ドラさんは、力を貸してくれると言いましたね?」

「白ドラ? それはもしや…我の事なのか? 我が白ドラならば、シュリは赤ドラなのか?」

「稜真はシュリの事、ぬしさんと呼んでるよ。どちらにしても、稜真のドラゴンの呼び方って、どうかと思うけど」

 アリアが言うとドラゴンがビクつく。

「そう言われてもね。俺の中で『ぬし』と言えば、シュリさんの事だから」

「でも、主さん呼びなのね~」

「今更変えられないんだよ」


「……我はなんなのだ…」

 ドラゴンがぼやいた。

「俺にとっては、名も知らぬ相手ですから」

「シュリも名を許したのだな。では、我も許そうではないか。シャリウと呼ぶがいい」

「ではシャリウ。あの水を減らせますか?」

「いきなり呼び捨てなのだな…。まあ良いわ。造作もない」

 アリアを魔女と呼ぶ相手を、うやまう気は毛頭ない。


「その代わりに頼みたい事がある。こちらへ来い」

 シャリウが大樹の元へ行くと、少女が現れた。うっすらと体が透けて、まるで幽霊のようだ。瑠璃があの木の精霊だと教えてくれた。


「これが我が妻だ。木が病に冒され、言葉も伝わらなくなり、姿も日に日に薄れて行く」

 愁いに満ちた顔でシャリウは手を伸ばしたが、触れる事もかなわず、すり抜ける。2人は悲し気に見つめ合った。

 その精霊は、肩までの波打つ緑髪で紺色の瞳をしている。これだけの大樹なのに、その姿は14~5歳の少女に見える。──やはり、このドラゴンはロリコンなのだろうか?


 どうにもシャリウが気に入らない稜真だが、木の精霊は助けたいと思った。

「瑠璃の力で木を癒せないかな?」

「ここまでの大樹を癒すには、私では力が足りません。それに、このまま癒やしても駄目です。病の原因を探らねば」

「木の病…か。瑠璃、シプレさんを連れて来る事は出来る?」

「シプレならば可能ですわ。ただ、シプレが自分の木から、どれほど離れられるのか、聞いてみなくては分かりません」

「こちらに来れそうなら連れて来てくれ。頼む」

「はい」と答え、瑠璃は姿を消した。


 稜真はシャリウに向き直る。

「──シャリウの頼みとは、この木の癒やしですか?」

「そうだ。シュリの山の話を聞いてから、ずっとお前に頼みたいと思っていた。シュリに紹介を頼んでいたが、まさかそちらから来るとは思わなんだ」

「俺に癒せるか、まだ分かりませんよ」

「稜真なら、大丈夫だと思うなぁ」

 シャリウがビクッとして、1歩後ずさった。アリアが話す度にビクつくのは、勘弁して欲しい。

「なんにせよ、原因が分からないとどうしようもないね」




『──あるじ


 瑠璃からの念話が届き、シプレを連れた瑠璃が現れた。

「リョウマさん、私を頼って頂けるなんて嬉しいです」

「わざわざ来てくれてありがとう。実は、この木の状態を教えて欲しいんです」

「この木…ですか」

 シプレは薄らいだ木の精霊に軽く頭を下げ、大樹の幹に触れた。


「根が腐り始めていますね。この土地は、土が固い上に岩だらけです。精霊化する程長く生きていたのですが、もう地に根を伸ばす場がないのです」

「…と言う事は、このまま癒しても意味はないね。まずは、違う場所に移動させるべきかな」

 それを聞いた精霊が、嫌々と首を横に振っている。

「この子は、夫のいるこの場所にいたいのでしょう。例え病が癒されたとしても、ここまで弱っていては、木から離れる為の力を蓄えるのに月日がかかりますから」


 少女は頷いた。木の精霊同士、言葉は通じるようだ。


「妻よ。我が会いに行く。どこにいても良い。生きていて欲しいのだ」

 シャリウの言葉にも、少女は嫌だと首を振る。

「どうしたものかなぁ…」


 ちなみに、近づくなと言われ、話す度にビクつかれたアリアは、ふてくされてきさらをもふっている。稜真は意見を聞かせて欲しいのだが、ビクつくシャリウのせいで、それもかなわないのだ。

「根が伸ばせればいいんだよな。──シプレさん、根の周りの岩を掘り出せるだろうか?」

 地中から石を取り出して、家に使っていたシプレならば出来そうだと考えた。


「出来ない事はありませんけれど、取り出すだけでは地中に空洞が出来ます。地中には大きな岩が多いので、下手に掘り出せば、木が倒れてしまうでしょう。…そうですね。岩を含めて、土全体を変えれば良いかと思いますわ。土の精霊に頼むべきでしょう」

 木の精霊が何かを伝えようとしている。

「この子が言うには、近くに大地の精霊がいるそうです。土の精霊よりも高位な存在です。その方の力が借りられれば良いのですが…」


 この大樹をこの子扱いとは、シプレの樹齢は何年なのだろうか、と稜真が考えたのが伝わったのか、シプレの微笑みが深くなった。思わず稜真の背筋が寒くなり、考えるのを止めた。


「大地の精霊か。どうやって探せばいいのかな…」

「主が呼べばやって来そうな気がしますわ」

 瑠璃がアリア並みの無茶を言う。

「無理だよ…」

「あのじじいの力を借りるのか? どうにも気が進まんな」

 シャリウが不服そうに言う。


「シャリウ。奥さんの為です」

 稜真がきっぱり言うと、シャリウは不承不承同意する。

「大地の精霊の呼び出し方を知りませんか?」

「知らぬ」

 あっさりと答えるシャリウに、稜真の目が細まる。


「リョウマさん。大地の精霊は偏屈なのです。この子に聞きましたが、そこのドラゴンが昔、この辺りで暴れたそうです。この淵を作る為に、辺りの地形を勝手に変えたと、大地の精霊は未だにお冠だそうですわ」

「そうか…」


 役に立たないシャリウはさておいて、稜真は他のメンバーと大地の精霊を呼び出す方法を相談する。蚊帳の外に置かれたシャリウは、ぶつぶつとぼやき始めた。

「若気の至りではないか。それをあの爺は、いつまでもぐちぐち、ぐちぐちと!」


「何を言っておる! 貴様のせいで、わしが精魂込めて作った森が消えてしまったのじゃぞ!? この子も、もっと広く肥沃な土地に生える筈が、このような岩だらけの辺鄙な地に生えてしもうて…、全て貴様が悪いのじゃ!」


 ──突然、厳めしい老人が現れた。どうやら彼は、話題にしていた大地の精霊らしい。


「あっさり現れたよね~」

「さすがはあるじですわ!」

 アリアと瑠璃が言う。

「女神様の祝福をお持ちの方ですもの」

 シプレが微笑み、何故か姿の薄れた木の精霊までが頷いている。


「いや…。俺のせいじゃないだろう、これは…」



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